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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第3話、牙狼剣ベルフルフ その2

     第3話その2


 フードの男の身体を白い魔力が覆いつくしていた。そしてその魔力が燃え盛る炎のように蠢いている。明らかに何か特殊な力を使ったのが分かった。

「………ウォークライか…」

 ドレイクはどこか苛立たしげに呟くと、大剣を構え一気にフードの男との距離を詰めた。先ほどまでとは違う目にも止まらぬ速さで駆け寄り凄まじい速度で踏み込む。

「チェストオオーーー!」

 踏み込みと共に振り下ろされる大剣。しかしドレイクの裂帛の一撃は空を切る。一瞬で飛び上がりドレイクの一撃を避けたフードの男。そしてドレイクの大剣はそのまま地面を打ち砕く。

「チィッ!」

 舌打ちするドレイク。そのまま返す刃で宙を舞っているフードの男に斬り上げの一撃をお見舞いする。

ギイィン!

 次の瞬間金属音が鳴り響く。下段から空中に斬り上げたドレイクの刃だったが、フードの男は空中で不安定な姿勢だったにもかかわらず、剣を操りドレイクの大剣を受け止めていた。

「ハッ!どうした?こんなものか赤蜥蜴!」

「ヤロウ!」

 挑発してくるフードの男に対し頭に血が上るドレイク。再び突撃すると、大剣を何度も繰り出していく。袈裟斬り、薙ぎ払い、突き、斬り上げ、唐竹割り。連続で繰り出されるドレイクの剣を、フードの男は一つ一つ確実にさばいていく。そしてそれだけでなく、合間を縫って剣を繰り出し、着実にドレイクにダメージを与えて行っている。

 その様子は……誰が見てもフードの男の方が優勢だった。

「う、うそ……あの赤蜥蜴が押されてる……⁉」

 信じられないと言った感じのスミーシャ。フードの男の殺気の塊を受け震えながら放心状態になってしまったフリルフレアを抱きしめながら驚愕の声を上げる。とてもではないが自分が立ち入れる戦いでない事が分かる。だが、彼女たちを庇うように前に立ったローゼリットは全く別のことに着目していた。そして静かに口を開く。

「おいスミーシャ、あの男……さっき『赤蜥蜴』って言ってたよな……」

「え?………あ!確かに!」

「あの男……赤蜥蜴を知っているのか?」

 正直な話、ドレイクの実力は相当なものだ。誰の実力を知るものならばあまり喧嘩を売りたいとは思わないのが殆どだ。ドレイクに喧嘩を売るとしたらよほどの馬鹿か………あるいは凄まじい使い手だけだ。そしてこの男は恐らく……後者。

(この男……一体何者だ⁉)

 ローゼリットの視線が男を追いかける。先程からドレイクとフードの男は何度も剣を合わせている。そしてドレイクの剣が殆ど受け止められているのに対し、フードの男の剣は確実にドレイクの身体に傷を刻んでいく。ドレイクの剣も確かに多少は男に命中しているが、大した傷を与えられていない。それに比べドレイクの受けた傷は致命傷こそ避けているものの、それなりに深い傷も多かった。

「ハッ!ぬるいな、腕が落ちたんじゃないのか赤蜥蜴⁉」

「ヤロウ……舐めやがって!」

 男の言葉に吐き捨てる様にそう言うドレイク。その後方でローゼリットは確信を持っていた。

(やっぱり!この男、赤蜥蜴の事を知っている!それに……赤蜥蜴の方もそれに気が付いているのか?)

 確かに、先ほどから男に『赤蜥蜴』と呼ばれても、ドレイクは全く驚いた様子を見せていない。ならば恐らくドレイクも気が付いているのだろう。

(だが……本当にこの男、何者だ⁉)

 ローゼリットの疑問に答えも出ないまま、ドレイクのフードの男の攻防は続いていた。

「チェアリャアーーー!」

「フン!シャハアアアア!」

 互いに気迫の声を上げながら剣をぶつけ合うドレイクとフードの男。互いの剣と剣がぶつかり合い激しい金属音が辺りに響き渡っていた。

「シャアアアアア!」

 フードの男の斬撃が鋭さを増していく。一見ただ振り回しているだけに見えるフードの男の剣だが、実際には綿密な計算のもとに振り回されているのが分かる。単純に剣技だけにおいてならば、ドレイクとフードの男にはかなりに開きがあるのが分かった。

「ウオオオオオ!」

 対抗するように大剣を振り回すドレイク。ドレイクの剣はテクニックよりもパワー重視であり、スピードも剣速と踏み込みのスピードにしか重点を置いていない。総合的に素早く、確実な剣のテクニックを持っているフードの男の前では技術における不利は明確だった。それでもドレイクがなんとかフードの男と戦えているのは単純な身体能力のおかげだった。特にドレイクは腕力と耐久力に優れている。それのおかげでフードの男の攻撃に何とか耐えられたのだ。

ガキイィィィン!

 再び二人の剣がぶつかり合う。そしてそのまま鍔迫り合いの形となった。

「ぐぐぐ……このまま押し込む…」

「ハッ!おい赤蜥蜴、何で馬鹿力って言うか知ってるか?」

「何だと…?」

「力ばっかりで脳みそがねえ馬鹿だからそう言うんだよ!」

 次の瞬間フードの男はわずかに体を引き、力を抜いてドレイクの剣を受け流す。そしてそのまま体制の崩れたドレイクの腹部に向けて剣を閃かせた。

「させるか!」

ザシュッ!

 男の剣がドレイクの腹部を斬り裂くより一瞬早くドレイクの左腕が腹部をガードする、そしてそのままフードの男の剣がドレイクの左腕を斬り裂いた。

「グッ!」

 思わず苦悶の声が漏れるドレイク。だが次の瞬間、ドレイクは大剣から両手を放し、フードの男の剣を合掌の様に挟み込んだ。白刃取りである。

「何⁉」

 思わず驚きの声を上げる男に、ドレイクは不敵な笑みを向ける。ニヤリと笑うその口の端からはわずかに炎が燻ぶっている。

「こいつはどうだ!」

 次の瞬間ドレイクの口から巨大な炎が撃ち出される。炎はすさまじい熱量でフードの男を直撃した。

「グゥ!うおおお!」

 フードの男は悲鳴を上げながらフードを剥ぎ取った。そして同時に炎が燃え移ったマントも脱ぎ捨てる。

 その下から出てきたのは灰色の革鎧に包まれた筋肉質な身体。その身体は全身が黒い毛に覆われており、その顔はオオカミのそれだった。そう……フードの男は黒い毛並みを持つウルフマンだったのだ。

「やっと顔を出しやがったな、ベルフルフ・サンドレイ!」

 ドレイクはそのウルフマンの男―――ベルフルフ・サンドレイにそう言いながら大剣を突きつけた。


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