第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第2話、バードマンの集落を求めて その4
第2話その4
山賊の襲撃を撃退したドレイク達はその後しばらく馬車を走らせた。そして小さな泉を見つけるとその畔で野営をすることにした。
例によってドレイクは薪拾い、フリルフレアは食事の準備をする。ローゼリットとスミーシャが泉の水質や周辺を調査し、アレイスローが焚火の準備をしておく。フェルフェルはさほどやる事が無いので馬車の馬に水や餌をあげていた。
馬車の荷台にそれなりのスペースがあるので女性陣は夜そこで寝ることが出来る。わざわざテントを張る必要が無いのも楽だった。
そしてドレイクの拾ってきた薪で焚火をする。残念ながら特に獲物は見つからなかったので今日は保存食での食事となる。もっとも、保存食だとしてもフリルフレアが工夫を凝らすのでそれなりに楽しめたりするものだ。
今日のメニューは干し野菜のスープと炙った干し肉、そして炙ってとろけさせたチーズを乗せたパンだった。
ドレイク達は焚火を囲むように座りながら食事を楽しんでいた。
「いやはや、フリルフレアさんがパーティーにいてくれると食事が楽しみになりますね」
「ホントよね。あたしとローゼの前のパーティーなんてこんな時は干し肉とパンをそのままかじってただけだったよ」
アレイスローの言葉に、同意だと言いたげに答えるスミーシャ。それを見たローゼリットはため息をつきながら肩をすくめている。
「おいおい、それはお前が食事の準備を面倒くさがったからだろう?スミーシャが食事当番だったときはろくな物を食べた覚えがないからな」
「ちょっとローゼ、それは別にあたしだけじゃないでしょう?ローゼだって似たようなものだったじゃない」
「ん?そうだったか?」
少し笑いを堪えながらとぼけるローゼリットに、スミーシャは「むう~」と唸りながら頬を膨らませる。そんな二人の微笑ましいやり取りを見ながらアレイスローはスープを啜った。
「しかし…この干し野菜のスープ、以前にも食べましたが…何でこんなにしっかり味が出ているんですか?」
アレイスローが言っているのはフリルフレアの作る干し野菜のスープの事だった。干し野菜を水で戻し、それを使って作るスープなのだが、肉類を全く使っていないのに美味しいと評判だった。
「あ、それはですね……このスープ、野菜の戻し汁で作ってるからなんです」
フリルフレアが人差し指をピシッと立てながらスープの説明を始める。
「最初に干した野菜を水に浸けて戻すんです。そして戻った野菜を細切りにして野菜の戻し汁に入れ、火にかけて塩胡椒で味付けして完成です」
「…意外と…簡単…そう…」
よほど手間をかけているのかと思えばそうでもない事実に驚く一同。フェルフェルに至っては自分でも作れそうだと言いたげだった。
そんな和気藹々とした食卓だったが、そんな中でもはやり先ほどの山賊の言葉が気になった。自然とその話題が口をついて出た。
「でも…あの山賊が言ってたレンドリオン高地に出没する魔物って何なのかな?」
フリルフレアがチーズを乗せたパンを千切って口に運びながら少し不安げに隣のドレイクを見上げた。目的地であるレンドリオン高地に魔物が出没したともなれば不安もあるだろう。
「分からんが……それがフェニックスだったらラッキーだな」
少し楽天的に言うドレイク。ドレイク自体はそのことをたいして気にした様子もなかった。しかし他のメンバーは気にしているみたいだった。
「あのねえ赤蜥蜴、フェニックスを魔物とは呼ばないでしょ?」
「本来ならば神界に住む神獣ですからね」
スミーシャとアレイスローはそう言って深々とため息をついた。ドレイクに対し「そんなことも知らないのか」と言いたげだったが、意外にもローゼリットがそれに割って入る。
「いや、だが待て……考えてみれば学の無い山賊どもがフェニックスと魔物の違いをはたして分かるだろうか?」
「確かにそうですね。フェニックスの事を鳥の魔物だと思ったのかも…」
フリルフレアもローゼリットの意見に賛同する。確かに、山賊など所詮学の無い連中の集まりでしかない。本来ならば有名なはずのフェニックスだが、知らずに魔物扱いしていた可能性も十分にある。
「でも…もし…フェニックス…なら…卵…すぐに…見つかる」
フェルフェルの言葉に頷くフリルフレア。
「そうですね。それにもし卵がたくさんあれば……」
そう言ってニヤーッと嫌な笑みを浮かべるフリルフレア。恐らく妄想の中でフェニックスの卵で作ったプリンを食べているのだろう。
一方フェルフェルも何やら妙にニヤニヤしている。恐らくフェニックスの卵が孵化し、雛鳥に最初に自分の顔を見させて親だと刷り込み、大きくなったフェニックスの背中に乗って飛ぶ妄想でもしているのだろう。
「お前らなに気持ち悪い薄ら笑い浮かべてんだ?」
ドレイクの言葉に思わず我に返るフリルフレアとフェルフェル。しかし、二人とも不満なのか頬を膨らませてドレイクを睨んでいる。
「気持ち悪いって……そんな言い方ないじゃない……」
「ホント…気持ち悪い…のは…赤蜥蜴…の顔…」
「誰の顔が気持ち悪いだ、コラ」
ドレイクはそう言うとフェルフェルを睨み付ける。しかしすぐに視線を逸らすと干し肉に嚙り付いた。
実際のところドレイクにとっては魔物よりも気になっている事があったのだ。
(近くの集落で雇ったって言う馬鹿みたいに腕の立つウルフマンの用心棒……)
ドレイクの脳裏にある男の顔が浮かぶ。もしその用心棒がドレイクの思っている通りの人物だったならば……もしかしたらこの仕事、厄介なことになるかもしれない。
ドレイクはパンを口に放り込むと、咀嚼しながらまず目的地に着いたらどうするかを考えはじめた。




