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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第1話、ドレイクとフリルフレアの鎧探し その4

     第1話その4


 防具屋からの帰り道、フリルフレアは嬉々として、ドレイクはゲンナリしながら歩いていた。フリルフレアは手に入れた魔法のエプロンにさっそく身を包んでいる。エプロンドレスなので背中こそ開いているが、前面はしっかりと覆われており意外な防御能力の高さを誇っている。

 そんなフリルフレアから少し離れて歩くドレイク。時々フリルフレアにチラリチラリと視線を送っているが、フリルフレアがその視線に気が付くとすぐに視線を逸らしてしまう。

 そのうえ、心なしか段々とフリルフレアとの距離が開いていく気がする。

「ねえドレイク、何でそんなにゆっくり歩いてるの?早く帰ろうよ」

「いや……その、なんだ……お前、よかったら先に帰れよ」

「何それ?一緒に帰らないの?」

「お、おう……俺はゆっくり帰るからよ」

「?変なドレイク。まあいいや…良いよ、ドレイクがゆっくり帰りたいんなら私も付き合ってあげるから」

 そう言ってゆっくり歩いているドレイクに歩調を合わせるフリルフレア。そのままドレイクの隣に近寄っていく。しかし、フリルフレアが近寄ってくるとドレイクはさりげなく離れていく。それを見たフリルフレアは頭に?マークを浮かべながら再びドレイクに近寄っていく。するとドレイクはさらに離れて行く。

 そんなことを何回か繰り返したドレイクとフリルフレア。流石のフリルフレアもドレイクがわざと自分から離れて行っているのに気が付いた。そして気が付いた瞬間フリルフレアの眼が少し吊り上がる。

「ちょっとドレイク!何で離れるのよ!」

 そう叫ぶとフリルフレアはドレイクに飛びついてその腕に抱き付いた。もっとも、ドレイクとフリルフレアの体格の差のせいで、フリルフレアがドレイクにしがみついている様にしか見えないのだが………。

 とにかくドレイクに抱き付いて睨みながらドレイクを見上げるフリルフレア。そんなフリルフレアを見下ろすドレイクだったが、その視線にはどことなく嫌な物でも見るような雰囲気が含まれている。

「な、何だよフリルフレア。離れろよ……」

 そう言いながらまるで「シッシッ」とでも言いそうに手を振るドレイク。しかしそんな態度を取られれば当然フリルフレアとしても面白くない。

「何よドレイク、その態度~~……」

 すごいジト目で睨んでくるフリルフレア。対するドレイクはなるべくフリルフレアと視線を合わせないように顔を逸らしていた。

 そのまましばらくドレイクを睨んでいたフリルフレアだが、ふと何かに気が付いた様な表情をしたかと思うと、ドレイクから離れた。そして親指と人差し指を顎に当ててニヤニヤと笑みを浮かべた。

「はは~ん…さてはドレイク、この魔法のエプロンに身を包んだフリルフレアちゃんが可愛すぎて一緒に歩くのが恥ずかしいんでしょう?」

 まるで勝ち誇ったかの様に笑みを浮かべるフリルフレア。だがドレイクはどこか憐れむような視線をフリルフレアに送っていた。

「ああ……まあ、半分は正解なんだが……」

 どこか歯切れの悪い言い方をするドレイクに、怪訝そうな表情を浮かべるフリルフレア。

「半分正解って?」

「いや…その、なんて言うか……」

「ミィィ…何かはっきりしないわね。結局何が言いたいの?」

「え~っとだな……その……」

 何とか言葉をオブラートに包もうとするドレイクだが、なかなかいい言葉が思いつかない。それを見ていたフリルフレアは不満なのか頬を膨らませている。

「もう、何なの?遠慮してないでハッキリ言ってよ」

 フリルフレアの言葉に意を決したのか、恐る恐る口を開くドレイク。正直な話次の自分の言葉がフリルフレアを怒らせないよう祈るばかりだった。

「だってさ…ほら…一緒にいると恥ずかしいだろ?」

「私が可愛すぎて?」

「いんや、冒険者のくせに平気でエプロンとか身に着けてる恥かしい奴が隣にいるから」

「は、恥ずかしい奴ですって⁉」

 ドレイクの言葉を聞いて顔を真っ赤にして怒りだすフリルフレア。「ムキーーー!」とか言いながらプンプン怒っている。

(ほらやっぱり怒った………)

 フリルフレアの予想通りの反応にゲンナリするドレイク。

「何で何で何で⁉可愛いじゃないこのエプロンドレス!どこが恥ずかしいのよ!」

 「ムキーー!」とか「ムッカーー!」とか言いながらわめくフリルフレア。対するドレイクの表情はどこか冷めている。

「いや、だって普通に考えて恥かしいだろ。これから冒険行くって時に何で隣にエプロン着けた奴がいるんだよ。それじゃ冒険に行くのか丁稚奉公に行くのか分かんないだろ?」

「ちょっとドレイク!丁稚奉公ってどういう意味よ!私成人してるって何度も言ってるよね⁉」

「いや、丁稚が不満ならメイドでも家政婦でも何でもいいんだが……」

「メイドと家政婦はほとんど意味同じよ!」

「え?そうなのか?」

 納得するドレイクをよそに、イライラしたのか頭を掻きむしるフリルフレア。しかしフリルフレアの頭のてっぺんから生えたアホみたいに一回転した毛はその中でも微動だにしていなかった。

 そんな一回転してアホみたい伸びた一束の毛を目に留めたドレイク。興味を引かれたのかその毛を引っ張ってみる。びょ~んと伸びるが、手を放すと元の一回転に戻ってしまった。

「おお、面白いな」

思わず面白くって2回3回とそのアホみたいな毛を引っ張ってしまうドレイクだったが、すごい目つきのフリルフレアに睨まれながら手を叩かれた。

「何だよフリルフレア、面白かったのに」

「私は全く面白くないの!この間っからこの毛だけ変に飛び出たまんまで、何度櫛で梳かしても戻らないんだから!」

「何だよそれ……なんか呪われてるんじゃないのかお前…?」

「不安になるようなこと言わないでよ!」

 思わず涙目で睨み付けるフリルフレア。だが、すぐにハッとした表情となり話が脱線したことに気が付くと、ドレイクを睨みながら指をビシッと突きつける。

「今はそんなことはどうでも良いの!何で冒険者がエプロン身に着けてたら恥ずかしいのよ!」

「いや、普通に考えたら恥ずかしいだろ」

「こんなに可愛いエプロンなんだよ⁉」

「なら、余計恥かしいだろ…」

 どこまでも意見が平行線なドレイクとフリルフレア。しまいには癇癪を起したフリルフレアがドレイクの脚に蹴りを入れている。もっとも、思いっきり蹴ると逆に自分が痛いので軽く蹴っただけなのだが……。

「納得できない~!そもそもなんでドレイクが恥ずかしがるのさ!エプロン来てるのドレイクじゃなくて私だよ⁉」

「いや、だってお前…いつも俺の隣にいるだろ…」

「ムッカー!人を付属品みたいに!」

 わめくフリルフレア。どうやら頭に血が上っているらしく、ドレイクが何を言っても気に入らないらしい。

「ふん!いいわよ!それならみんなにどっちの意見が正しいか訊くんだから!」

 そう言うとそのままズカズカと歩いて行ってしまうフリルフレア。その後ろ姿を見送りながら、ドレイクは頭を抱えたい思いだった。

(あいつこれからあの格好で冒険に出るのか……俺の横で…)

 どう考えてもドレイクにとっては頭痛の種だった。


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