第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第1話、ドレイクとフリルフレアの鎧探し その2
第1話その2
「そうだ、鎧の話が出た所でついでと言ってはなんですが……」
アレイスローはそう言うとローブの中から一振りの長剣を取り出した。鞘に納められているものの、柄や鍔に装飾が施されており全体の雰囲気からも魔法のかかった品である事が分かる。
「実はこの剣なんですが……」
「その剣がどうかしたのか?」
「あれ?その剣何処かで見た覚えが……」
ドレイクにとっては初めて見る剣だったが、フリルフレアはその剣に見覚えがある様だった。記憶を探るように顎に人差し指を当てて「う~ん」と唸りながら考え込むフリルフレア。だが、すぐに思い出したのか「ハッ」と呟いてその剣を指差した。
「そ、その剣!チックチャックさんが使っていた剣じゃないですか!確か……爆発の魔剣エクスプラウド!」
フリルフレアの言葉に頷くアレイスロー。
「その通り、チックチャックの使っていた魔剣です」
「何でそんなものをあんたが持ってるのよ?」
謎だとばかりに口を挟むスミーシャ。スミーシャとローゼリットはチックチャックの関わった「魔王ランキラカス復活未遂事件」には最後の最後に関わっただけで、チックチャックと言う人物のことをほとんど知らない。それでも事件のあらましは聞いていたので、チックチャックが事件の黒幕であったことは知っていた。
「ほら、私マゼラン村の近くでチックチャックを倒した後倒れて気を失ってたじゃないですか」
「そうでしたね」
フリルフレアの相槌に頷くアレイスロー。
「その時チックチャックの死体はマゼラン村の人達が埋めてくれたんですが、この剣だけは『高価な物みたいだし、形見になるかもしれないから』と言って私に渡してきたんですよ」
「そうだったんですか」
納得したようにうなずいているフリルフレアだったが、ドレイクは納得していない様子だった。ジト目でアレイスローを睨んでいる。
「何でそれを弐号がずっと持っていて、しかも今さら出してくるんだよ?」
「ああ、それはですね、本当はこっそり売り払ってお金をちょろまかそうと思っていたんですが………ほら、私だけ突然金持ちになると疑わしいでしょう?」
「お前………よくもそれをいけしゃあしゃあと言えたもんだな…」
「いえいえ、それほどでも……」
「誉めてねえ」
なぜか照れているアレイスローをさらにジト目で睨み付けるドレイク。
「つまり、こっそり売り払うつもりだったが、ばれると面倒なので今さら引っ張り出してきたと言う事か?」
「そんな所です」
ローゼリットの氷のように冷たい言葉にも動じずにこやかに頷くアレイスロー。しかしそんな彼を見つめる女性陣の視線はほとんど氷点下だった。
「つまりは、自分だけ得しようとしていた訳ね?」
「売った金を全員で分けようとは思わなかったのか?」
スミーシャとローゼリットの冷たい言葉が氷の刃のようにアレイスローに突き刺さる。
「アレイスローさん、もうちょっとパーティー全体の事を考えてくれたっていいじゃないですか」
「独り占め…する…つもりだった…アレイ…クズ…」
フリルフレアとフェルフェルの冷たい言葉が吹雪のようにアレイスローを凍てつかせる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ皆さん!確かにちょろまかそうとか考えはしましたけど、こうしてちゃんと売らずに持っていたんですからそこまで言わなくても……」
「でも…アレイは…クズ…」
「ちょっとフェル⁉さっきから何でそんなに嬉しそうに私をクズ扱いしているんですか⁉」
確かによく見れば、若干嬉しそうにアレイスローをクズ扱いしているフェルフェルがいる。どうやらからかっているだけのようだ。
「まったく……ドレイクさんからも少し皆さんに言ってあげてくださいよ」
「ん?何をだ、クズ?」
「ドレイクさん、あなたもですか……」
いい加減うんざりしたのかジト目でドレイクを睨むアレイスロー。それを見たドレイクはゲラゲラ笑いながらも、肩をすくめて見せた。
「冗談だよ冗談。で、その剣がどうしたんだ?」
「ええ、この剣をどうするか皆さんの意見を訊こうと思いまして」
「と言いますと?」
先を促すフリルフレアに頷くアレイスロー。
「この剣は強力な魔剣です。売れば確かにかなりの金額になるでしょうが、そのまま使っても相当な戦力になると思うんですよ」
「つまり、この中の誰かに使わせると言う事か……」
そう呟くローゼリットに、アレイスローは「その通りです」と頷いた。そして手に持った剣に改めて視線を落とす。
「恐らくミスリル製の魔剣だと思います。私は正直剣はあまり扱えないので、どなたか適当な方に……」
「ならローゼ、使ってみなよ」
スミーシャが期待のこもった視線をローゼリットに向ける。しかし、当のローゼリットはあまり気が進まない様子だった。
「生憎だが、私は長剣は使った事が無い。それにお前も知っているだろ?私は短剣や暗器の方が得意なんだ」
「あー、そっかぁ……そうだよねぇ」
ローゼリットに断られ少し残念そうなスミーシャ。しかし、すぐに気を取り直し「それならば」とフリルフレアの手を取る。
「ならフリルちゃんはどうかな?フリルちゃんが可愛く華麗に剣を振り回すの!」
「ミイィィ。残念ですけどスミーシャさん、私あんな重そうな剣振り回せませんよ」
無理無理と言いたげに手をワタワタと振るフリルフレア。確かに小柄なフリルフレアが持つには不釣り合いな剣ではあった。
「でもこの剣ミスリル製みたいですから、すごく軽いですよ?」
「それでも私じゃ無理ですよ。そもそも私精霊使いですよ?普段から剣なんて振り回しません」
アレイスローの言葉に首を横に振るフリルフレア。魔法職の自分には必要ないと言いたいらしい。
「私なんかよりも、ドレイクが使った方が良いんじゃないの?」
「ん?」
隣のドレイクに視線を送るフリルフレア。ドレイクはフライドチキンを食べていて話を半分聞いていなかったが、それでも首を横に振った。
「生憎だが、俺には自分の魔剣があるからな。それにそんな軽そうな剣は正直趣味じゃない」
「え~、ドレイクが持つのが一番戦力になると思うんだけど……」
「片手剣は趣味じゃないって言ったろ?それにせっかく軽い剣なんだから、俺よりふさわしい奴は他にもいるだろ」
「例えば?」
そう言うフリルフレアにドレイクは少し考えたが、とりあえずフェルフェルを指差した。
「カワセミは?」
「フェルは…狩人…飛び道具…しか…使わない…」
フェルフェルは首を横に振っている。実際彼女は飛び道具しか持っておらず、接近武器はまともに持っていない。
「なら……踊り猫しかいないじゃんか」
「え……あたし?」
突然ドレイクに指名され驚きの声を上げるスミーシャ。キョロキョロと周りを見ながら、「あたしのこと⁉」と言いたげに自分を指差している。
「ちょうど良いじゃないかスミーシャ。お前確か小剣より長剣の方が得意って言ってたよな?」
「え?ん……まあ、言ったけど……それってあくまで訓練用の軽い木剣の話であって、本物の鉄製の長剣は重いからすぐ疲れちゃうんだけど……」
「それは昔の話だろ?今は昔より力もついているだろうし……それにこの剣ミスリル製で軽いんだろ?」
そう言うとローゼリットはアレイスローの手から剣を受け取ると、そのままスミーシャに手渡した。スミーシャの手の中に下手をすれば木剣と変わらないくらいの重量の剣がスッポリと収まっている。
試しに柄を握ってみるスミーシャ。意外にも手になじむ感触があった。
「思ったよりも軽いね……確かにこれくらいなら…」
「なら決定ですね。スミーシャさんに使ってもらいましょう」
頷くアレイスロー。全員を見渡すと、それぞれ異論は無いと言いたげに頷いている。そしてそのまま爆発の魔剣エクスプラウドはスミーシャが預かることとなった。




