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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第7話、赤き竜の咆哮 その6

     第7話その6


 ドレイクが埋もれているであろう倒壊した神殿を目指しフリルフレアは翼をはためかせた。木々の上すれすれを飛び、なるべく巨大大喰い蟲に見つからないように飛行する。あまり高い高度を飛んでいると巨大大喰い蟲に発見されるかもしれないと思っての判断だったが、そもそも巨大大喰い蟲が視覚に頼って周囲の状況を確認しているかどうかは謎だった。

 考えてもみれば巨大大喰い蟲には目玉らしきものは一つも見当たらない。もしかしたらあの先端の触手で周囲を認識しているのかもしれないと思ったが、それも確証がある訳では無かった。

 とにかくフリルフレアは巨大大喰い蟲に発見されにくいと信じて低めの高度で飛んでいた。

 正直、倒壊した神殿に辿り着いても自分一人でドレイクを助け出せる自信など無かった。瓦礫の中に埋もれていたならば、発見するのすら困難である。それでもフリルフレアは黙ってドレイクを見捨てることは出来なかった。ドレイクと出会ってまだ3ヶ月ほどだが、フリルフレアにとってドレイクは既にかけがえのない存在になっていた。だから急いだ、とにかく一刻も早くドレイクの無事を確認したかった。

 そのまま全速力で飛行を続けるフリルフレア。すでに遠くに、ミミズ型の魔物のくせに蛇のように鎌首をもたげている巨大大喰い蟲の姿が確認できた。

「あの辺りのはず……」

 巨大大喰い蟲の居る辺りに向け全速力で飛行するフリルフレア。巨大大喰い蟲はフリルフレアの姿など目に入っていないのであろう、と言うよりも目その物が無いのだろう。とにかく接近するフリルフレアにも気付いた様子もなく地面に広がる瓦礫を平らげ、その腹の中に納めていた。あまりに盛大に瓦礫や岩、木々を平らげていく巨大大喰い蟲にフリルフレアは一つの不安を覚える。

(ドレイク……まさか、あの巨大大喰い蟲に食べられちゃったりして無いよね……)

 いかにドレイクが頑丈でも、あの巨大な魔蟲に喰われてしまったら無事だとは考えにくい。結局フリルフレアはその可能性を考えない事にした。その可能性を考えてしまったらどんどん考えが悪い方に向かってしまいそうだったからだ。今はとにかくドレイクの無事を信じたかった。

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 巨大大喰い蟲が甲高い鳴き声を上げる。その鳴き声がどこか苦しんでいるようにも聞こえたフリルフレアは疑問に思い一度高度を上げて全速力で進んだ。そして巨大大喰い蟲全体を見下ろせる位置まで来ると一旦空中で静止し、荒い呼吸を整えながら眼下に広がる様子を確認する。

「…………え?」

 思わず自分の眼を疑うフリルフレア。巨大大喰い蟲の200mはあろうかと言う長い体の一部が膨らんでいた。まるで蛇が卵を丸呑みしたかのように1部分だけ胴が2倍くらいの太さに膨らんでいた。

「キシャアアアアアアアアアア!」

 再び苦しそうに苦悶の鳴き声を上げる巨大大喰い蟲。フリルフレアは思わずその様子を呆然と見つめていた。

「な……何……あれ…?」

 思わず呆然と呟く。そうしている間にも巨大大喰い蟲の胴はさらに膨らんでいき、その太さは3倍程にも達しようとしている。

 静止し、思わず眼下の光景から目が離せないでいるフリルフレアの背中に、次の瞬間声がかかる。

「…フリル…やっと…追いついた…」

 追いついてきたフェルフェルが荒い息をつきながらフリルフレアの肩に手を置いた。

「フリル…とにかく…今は…戻って…みんなと…合流して…」

 息を整えながらそう言うフェルフェル。しかしフリルフレアはそんなフェルフェルの手を握りしめ、巨大大喰い蟲の方へ視線を向けた。

「フェルフェルさん……あれを見てください…」

「……あれ…?」

 フリルフレアの言葉に、フェルフェルも巨大大喰い蟲に視線を送る。そこには胴の一部をを3倍以上に膨らませた巨大大喰い蟲がいた。しかもその膨らみ方は単純な球形ではなく何処かゴツゴツした感じを覚える。まるでその中に何か生き物が潜んでいる様だった。

「…何…あれ…?」

「分かりません。私が来た時にはすでにああなっていたんです」

 そう答えて首を横に振るフリルフレア。眼下では巨大大喰い蟲が苦しそうに暴れはじめ、胴の膨らみはモゾモゾと動いている様に見えた。

「何…あれ…気持ち…悪い…」

 フェルフェルが口元を押さえながらそう言う。胴の一部を膨らませた巨大大喰い蟲の様子は、さながら生きた獲物を捕食した蛇の様でもある。その腹の中の獲物は生きながら胃酸で溶かされ苦しみながら消化されていくので、苦しみ暴れている様にも見える。だが、フリルフレアには巨大大喰い蟲の方が苦しんでいるように見えた。もしかしたら巨大大喰い蟲が何か子孫の類を産み落とそうとしているのかもと考えたが、事前にそれらしい様子を見た覚えもない。

「あれは……一体何なの…?」

 フリルフレアが思わずそう呟いた瞬間だった。

ザシュッ!

「シャギャアアアアアアアアアア!」

 思わず眼を疑うフリルフレアとフェルフェル。先程までとは比べ物にならないほど苦悶の鳴き声を上げている巨大大喰い蟲の膨らんだ胴の中から長い爪を持つ真赤な腕が突き出していた。そしてその腕は爪を一閃させ、あっさりと巨大大喰い蟲の胴を斬り裂いて行く。そして斬り裂かれた胴の穴からそいつはゆっくりと姿を現した。

 巨大大喰い蟲の腹の中から完全に外に出たそいつは全長が30m以上もあるだろうか?黒い皮膚を持ち、その上に深紅の鱗を持った身体。顔は鋭く、大きな口には鋭い牙がズラリと並んでいる。太く大きめな腕を持ち、手には長く鋭い爪。脚も同様に太く、つま先からは鋭い爪が生えている。背中には赤く輝く巨大な2枚の翼。そして、その赤い眼が忌々しそうに巨大大喰い蟲を睨み付けていた。

 そう……その姿は、深紅の鱗を持つ巨大な竜の姿だった。

「グオオオオオオオオオオオオ!」

 その深紅の竜が咆哮を上げる。それは敵を撃つためのブレスではなく、ただの叫びだったが、それでも咆哮の中に炎が混じり空を焦がす。そして口を閉じた深紅の竜だったか、その口の端からは炎が僅かに燻ぶっていた。

「………な、何…あれ…?」

 言葉を失いそうになりながらも何とかそう呟くフリルフレア。だが、突然の状況について行けず、不安からフェルフェルの両手を握りしめている。

「まさか……あれが魔王?」

「違う…と思う…ランキラカスは…巨大ミミズの…姿のはずだから…むしろ…こっち…」

 そう言うとフェルフェルが巨大大喰い蟲を指差す。つまり彼女の言う通りならば、この深紅の竜は突然現れた謎の竜だと言う事になる。

「まさか……バレンシアさんみたいにドラゴフォーゼの魔法⁉」

 一瞬その可能性を考えるフリルフレア。だが、その考えをすぐに否定する。ドラゴフォーゼは竜司祭であるバレンシアの切り札。同じ竜司祭ならともかく、他の者が扱えるはずが無かった。

(そうよ……ドレイクがドラゴフォーゼを使えるはずはないし……なら一体この竜は?)

 疑問の答えが出ないまま、フリルフレアは再び深紅の竜に視線を向ける。

 深紅の竜は自分の手元を見ながら手を握ったり開いたりしている。そしてそんな深紅の竜に巨大大喰い蟲は自分の触手と頭をユラユラと揺らしながら近寄っていった。

「キシャアアアアアアアア!」

 再び鳴き声を上げる巨大大喰い蟲。次の瞬間無数に生えた触手が真紅の竜に絡みついた。そしてその巨大すぎる口を大きく開く。バレンシアの時と同じように頭から喰らいつくそうとしているのだ。

「シャアアアアアアアア!」

 巨大大喰い蟲が鳴き声をあげながら深紅の竜に襲い掛かる。

「危ない!」

 思わず叫んでいたフリルフレア。だが、次の瞬間フリルフレアは驚愕で目を見開くことになる。

 身体の大きさならば巨大大喰い蟲の方がはるかに大きい。だが、深紅の竜は巨大大喰い蟲の触手をあっさりと引き千切ると、その拳を今まさに自分に喰らい付こうとしている魔蟲の頭に叩き込んだ。

ゴシャッ!

 鈍い音がして深紅の竜の拳が巨大大喰い蟲の頭に叩き込まれる。その威力は凄まじく自分よりもはるかに大きい巨大大喰い蟲の身体をあっさりと打ち倒す程だった。

ズドオオオオオオン!

 轟音を上げて倒れ込む巨大大喰い蟲。その魔蟲を見下ろしながら深紅の竜は低い声で吐き捨てるように言い放った。

「図に乗るなよ、ランキラカスの依り代風情が!」

 フリルフレアはその声がどこか聞き覚えがる様に感じた。


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