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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第4話、その神殿は何が為 その1

     第4話、その神殿は何が為


     第4話その1


「おい起きろ!起きろフリルフレア!」

「…ん~?………んにゅ~?」

 自分を呼ぶ声に、ちょっと可愛い声を上げながら目を擦るフリルフレア。そして寝袋の中からモゾモゾと上半身だけを出すと「ふわ~~ぁ……」と大きな欠伸をした。

「んゆ~?……あれ?ドレイク、もう見張り交代?」

 寝ぼけたまま再び目を擦るフリルフレア。それを見て彼女を起こしに来たドレイクは深々とため息をつくと手に持っていた濡れタオルでフリルフレアの顔をガシガシと拭き始めた。

「んぶ!…と、とりぇいくにゃにしゅるお!」

 本当な「ドレイク何するの!」と言いたかったフリルフレアだったが、顔を擦るドレイクの力が強すぎたためか妙なことを口走っただけに終わった。

「お前意外と寝起き悪いからな。こうでもしないと起きないだろ」

 そう言ってフリルフレアの顔から手を放すドレイク。そして今までフリルフレアの顔を拭いていた濡れタオルを放ってよこした。

 そのタオルを受けとりながらドレイクを睨むフリルフレア。

「もう!女の子の顔にいきなり何するのよ!」

「お前の寝起きが悪いからだよ」

 そう言うとドレイクはフリルフレアの横で寝息を立てているフェルフェルの横にしゃがみこむとその額にデコピンを食らわせた。

バシッ!と結構痛そうな音がしてフェルフェルが眠たそうに眼を開けた。……いや、彼女の場合普段から眠たそうな半眼ではあるのだが……。

「おいカワセミ、お前も起きろ」

「………痛い……」

 表情こそ変わっていなかったものの恨めしそうな視線をドレイクに向けるフェルフェル。どうやらドレイクの起こし方にご機嫌斜めな様だった。

「あれ?……朝?………私見張りやったっけ?」

 改めてタオルで顔を拭いた後テントの中をキョロキョロと見回すフリルフレア。隣にはフェルフェルが寝ていたが、バレンシアの姿が見当たらない。もう起きているのだろうか?

「いや、お前は見張りやって無いだろう」

「そうだよね!ウソ、どうしよう!」

 慌てて起き出すフリルフレア。その横ではまだフェルフェルがドレイクを睨んでいた。

「ちょっと問題が発生してな。別に慌てなくていいから準備したら表に来い」

 そう言うとドレイクはテントから出て行った。ドレイクの言葉を聞いたフリルフレアとフェルフェルは顔を見合わせる。

「問題?……何でしょう?」

「フェルにも…分からない」

 顔を見合わせていた二人だったが、このままでは埒が明かなかったので準備をして表に出ることにした。

 いつも着ている水色のワンピースの上から黄色のケープを羽織る。冒険用の大きな革ベルトを着けると、ロングブーツに足を通した。そして大事に枕元に置いておいた木箱、依頼で神殿へ運ぶ宝珠の入った木箱を背負う。赤い翼が邪魔で箱を背負い辛かったが何とか背負ったフリルフレア。その横ではフェルフェルが薄手の革鎧を身に着け、背中にクロスボウと超長距離射程狙撃弩弓を背負い、矢筒を腰に装着していた。

 二人そろってテントを出ると、他のメンバーは外にいた。ドレイクは腕を組み崖の方へ視線を向けていた。アレイスローは消えた焚火の前に座っており、バレンシアは落ち着きなく辺りを行ったり来たりしていた。

「ドレイク、ゴメン。見張りサボっちゃったみたいで……」

「お前のせいじゃない。そもそもお前を起こして見張りを交代する奴がいないんだからな」

「へ?」

 そう言われて、昨晩の見張りの順番を思い出す。朝食の準備をするため自分を最後にしてもらったのは覚えている。そしてその前は……。

 ハッとなって改めて辺りを見回す。

「…あれ?…ランビーは…?」

 フリルフレアの前にフェルフェルが疑問を口にする。言われてみればランビーの姿がどこにもなかった。どこかへ行ったのだろうか?

「ランビーさんは、朝起きた時にはすでにいませんでした」

 そう言ったアレイスローは少し不安げな表情をしていた。チックチャックにあんなことがあった後だ、ランビーの身を案じているのだろう。そしてそれはバレンシアも同じだった。

「ランビーの奴め……心配をかけおって……」

 苛立ちと焦りから辺りをウロウロするバレンシア。弟分のことが心配なのだと言う事は手に取るようにわかった。

「本来ならコソ泥がお前と見張りを交代するはずだったんだ」

「うん、そうだよね………でも、ランビーさん一体どこに?」

「分からん。だが俺と交代した時は少なくともここに居たんだから、見張りの途中でどこかに行ったんじゃないか?」

 ドレイクの言葉に頭をひねるフリルフレア。本来なら見張りの途中で席を外すのはご法度である。一歩間違えれば仲間の命を危険にさらすことになるからだ。ランビーも中堅冒険者なのだからその程度のことは分かっているはずである。なのにいなくなったと言う事は何かそれだけ重要な用事があったのか?それとも………?

「まさか何か用事を済ませに行ってその帰りに誰かに襲われた?」

 フリルフレアの言葉に頷くドレイク。

「可能性は無くは無いな。事実コソ泥の奴一度どこかに行ったみたいだったからな」

「何?それはまことかドレイク殿」

 バレンシアの言葉に頷くドレイク。そして顎に手を当てるとその時のことを思い出した。

「確か交代してすぐだったと思うが……何か薪を足してからどっかへ行ったみたいだったな。俺はてっきり便所だと思ってそのまま寝たんだが……」

「ならばそのまま帰ってきておらぬと言う事か……」

 バレンシアはそう言うと苛立ちからか薙刀の石突で地面を叩いた。

「とにかく、何かあったのかもしれません。ここは探しに行った方が良いでしょう」

「そうだな」

 アレイスローの言葉に頷くドレイク。見渡せば全員同じ気持ちなのか頷いていた。

「ならばさっそく野営を片付けて探しに行くぞ」

「待って…バレンシア…もし…探してる間に…ランビー…戻って…来たら?」

「む、そじゃったの……」

 フェルフェルの言葉に納得したバレンシア、そのままアレイスローに視線を向けた。

「誰か一人残しておいたほうが良いかの?」

「でしたら私が残りましょう。私はここから魔法で周囲の状況を探ってみます」

「心得た、ならば二手に分かれるとしよう。フェルフェル、妾と共に来てくれ」

「うん…分かった…」

「妾とフェルフェルはこの先の山の中を探してくる。ドレイク殿とフリルフレアは吊り橋の方に戻って探してもらえるか」

「分かった」

「分かりました」

 頷くドレイクとフリルフレア。そしてドレイクとフリルフレアは吊り橋の方へ、バレンシアとフェルフェルは先の山道の方へと進んでいった。

「ねえドレイク……ランビーさん、どうしちゃったのかな……」

「分からないな、どこかで足くじいて戻れなかっただけ、とかだと良いんだが……」

 そう言いつつもドレイクはどこか嫌な予感を感じていた。

「……ドレイク、私考えたんだけどさ……」

「何をだ?」

「もしかしてランビーさん、今皆さんが調べてる『冒険者行方不明事件』の被害にあったんじゃ……」

「行方不明事件か……」

 フリルフレアの意見もあながち間違っていないかもしれない。実際に行方不明事件が起きているのはこの近辺とされている。ランビーがその被害にあった可能性は十分に考えられた。

「そ、それにね?私ふと考えたんだけど……もしかしてオルグさんも冒険者行方不明事件にあったんじゃないかな?」

「迷惑探偵の仮面野郎は別に冒険者じゃないだろ?」

「うん、でも私たち冒険者と一緒に行動してたから行方不明事件を起こしてる犯人に間違えられたのかも」

「う~ん……まあ確かに、考えられなくもない……か?」

 ドレイクは頭をひねったが、別段答えは出てきそうも無かった。

「今はともかく、コソ泥が今一番いそうな所に行くしかない」

「一番いそうな所?」

 フリルフレアの言葉に頷くドレイク。そして苦々しく呟いた。

「さっき風に乗って、こっちの方角から血の匂いがした」

「血って……ドレイク、急いだ方が良いんじゃないの⁉」

「………そうだな」

 そう言うと駆け出すドレイク。フリルフレアもあわててその後に続いた。

 吊り橋を渡り、そのまま崖沿いに下っていく。目指しているのはチックチャックの遺体が眠るその場所だった。

・・・・・・・・・・・・・・・

 ドレイクとフリルフレアがチックチャックの眠る場所に来た時、それは地面に大量の赤いシミを広げながら横たわっていた。胸元が真っ赤に染まり倒れて動かないそれはもうすでにこと切れていることが一目で分かった。それでもドレイクは首筋に手を当てて脈を確認する。

………当然の様に脈は無かった。

「うそ……ランビーさん………」

 フリルフレアが膝から崩れ落ちる。

 ドレイクとフリルフレアの前には物言わぬ屍となったランビーが横たわっていた……。


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