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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第3話、消えてゆく者達 その6

     第3話その6


「あ、危ない所でした……」

 そう言いながらも膝をついているアレイスロー。周りを見れば、フリルフレア、バレンシア、ランビー、フェルフェルも苦しそうに膝をついている。何とも無さそうな顔をしているのはドレイクだけだった。

「と、とにかく……毒を何とかせねば……皆、毒消しのポーションは持っておるな?」

 バレンシアの言葉に頷く一行。冒険者ともなれば毒対策に毒消しのポーションを持っているのは常識である。バレンシアとランビー、アレイスローとフェルフェルは毒消しのポーションを取り出して飲みほした。

「ふは~、危なかったぜ」

 ポーションを飲み干し額の汗を拭うランビー。その横ではバレンシアガ「全くじゃ」と頷いていた。

「……………」

 そんな様子を若干恨めしそうな眼で見ていたドレイク。彼の腕の中でフリルフレアが苦しそうに息を乱していた。

「はぁ……はぁはぁ…はぁ……」

 苦しそうなフリルフレア。顔が火照り苦しそうに喘いでいた。

「どうしたのじゃドレイク殿。早くフリルフレアにもポーションを…」

「持っていない」

「何じゃと?」

「持っていないんだ毒消しのポーション。俺には毒の類はほとんど効かないから失念していた」

 苦々しく呟くドレイク。確かに以前共に冒険をしたローゼリットから襲撃を受けた時に人間の致死量の約10倍の毒を舐めたが少し腹を壊しただけで済んだドレイクにとって毒消しのポーションなど持っている意味もないだろう。だがそれはドレイクに限った話であり、フリルフレアは別であった。そしてドレイクは自分にとって必要ないものだから特に意識して毒消しのポーションの類を持ち歩いていはいなかった。そしてフリルフレアも同様に、まだまだ経験浅いため毒消しポーションの必要性に気付かず、持ち歩いていなかった。

 不測の事態に焦るドレイク。だがそうしている間にもフリルフレアの顔色はどんどん悪くなっていく。

「すまん!あとで金は払うから余っているポーションを分けてくれないか⁉」

 焦りながら懇願するドレイク。しかしバレンシアとランビーは深刻な表情で顔を見合わせていた。

「分けてやりたいのじゃが……すまぬドレイク殿。妾もランビーもすでに手持ちのポーションが無いのじゃ」

「すまねえ、赤蜥蜴の旦那」

 頭を下げるバレンシアとランビー。二人の顔には、何故予備のポーションを持っていなかったのかと後悔の色が滲んでいた。

「困りましたね………私も手持ちのポーションは無いんです」

 バレンシア達と同様アレイスローにも後悔の色が滲んでいた。しかしそんな中、フェルフェルが手を上げるとカバンから小瓶を取り出した。

「フェル…もう少し…持ってる…」

「本当かカワセミ⁉」

 フェルフェルに掴み掛ると、そのまま両肩を掴んでガクガクと揺さぶるドレイク。フェルフェルはガクガクと揺られながらも何とか頷いた。

「うん……ただし…これ…毒消し(アンチドーテ)…じゃない」

「は?」

 フェルフェルの言葉に眼が点になるドレイク。毒消しでないなら一体何だというのか?

「これ…霊薬(エリクサー)…すごく…高い…」

「分かってる、ちゃんとその分の金は払うから……」

 ドレイクの言葉に満足したのか頷いたフェルフェルはしゃがみ込むと霊薬の蓋を開けた。そしてフリルフレアの口の中に少し流し込む。しかし霊薬はフリルフレアの口の端から流れ出てしまった。毒によってフリルフレアの意識が朦朧としており、霊薬を飲むことが出来ない様だった。

「仕方…ない…」

 フェルフェルは霊薬をひとくち口に含むと、自分の唇とフリルフレアの唇を合わせた。そして口の中に霊薬を流し込む。

コク、コク。

 わずかな音を立てて霊薬がフリルフレアの喉を通る。そして毒が打ち消されていくのか、フリルフレアがうっすらと眼を開けた。

「大丈夫…飲める…?」

 フェルフェルが霊薬の瓶を差し出す。まだ少しボーっとしながらもフリルフレアはその瓶を受け取り、口を付けた。

コクン。

 少し可愛らしい音を立てて霊薬を一口飲みこむフリルフレア。だが次の瞬間クワッ!と眼を見開くと瓶に吸い付く様に中の霊薬をゴクゴクと音を立てて飲み干した。

「ぷはー!何これ⁉超美味しい!ドレイク、お代わりないの⁉」

「あるかぁ!」

 思わず叫ぶドレイク。その横ではフェルフェルが紙とペンを取り出し『霊薬代 5000ジェル』と書くとドレイクに差し出していた。

「赤蜥蜴…これ…」

「ああ、分かった………5000ジェル⁉」

 その紙を見て眼をまん丸くするドレイク。驚きのあまり眼が飛び出そうだったが、フェルフェルはいつも通り無表情で「うん…」と頷いていた。

「よし!これで毒は問題ありませんね。次は谷底に落とされたチックチャックです」

 アレイスローの言葉に頷く一同。いくら臨時のパーティーとはいえ放っておくわけにはいかない。

「どうする?オイラが下まで降りようか?」

 そう提案するランビーだったが、フリルフレアとフェルフェルが首を横に振った。

「この高さを下りるのはいくら盗賊のランビーさんでも危険ですよ」

「フェルと…フリル…翼…有る…」

「はい、私とフェルフェルさんの二人で見てきます。私なら回復魔法も使えますし」

 そう言って頷き合うフリルフレアとフェルフェル。

「仕方がありません。お二人にお任せしましょう」

「そうだな。白騎士野郎、無事だと良いが……」

 アレイスローとドレイクが頷くのを見てフリルフレアとフェルフェルは谷底に向かって飛び降りた。

 途中何度も翼を羽ばたかせ減速する。そしてゆっくりと谷底に降り立つ2人。

「チックチャックさん……無事でしょうか?」

「この高さ…望みは…薄いと…思う」

 上を見上げるフェルフェル。はるか上空の崖の淵から落ちたのだ。いかに鎧を着こんでいたとしても無事だとは考えにくかった。

 そのままチックチャックを探し周囲を見て回る二人。

「チックチャックさん!ご無事ですか⁉いたら返事をしてください!」

 そう叫びながら探し回るフリルフレア。だが、不意に隣を歩くフェルフェルに口元を押さえられた。

「もう…良い…見つかった…」

「え⁉チックチャックさ……⁉」

 チックチャックを見つけたフリルフレアとフェルフェル。だが、そこに倒れているチックチャックを見てフリルフレアは言葉を失った。

 ……貫かれていた。

 地面に倒れ込んだチックチャック、その胸には槍が突き刺さっていた。先ほどのレッサーデーモンの使っていた槍だとすぐに推測できた。つまりチックチャックは谷底に落ちながらも何とか生き永らえたのだろう。だがそこにレッサーデーモンが襲い掛かりチックチャックはあえなくその命を散らしたのだ。恐らく、落下の衝撃でまともに動けなかったところを襲われたのだろう。槍で貫かれた胸の致命傷以外に抵抗したらしい外傷はは全く無かった。頭や手足が綺麗なままな分、胸の中央に突き刺さっている槍が何か悍ましいものに感じられた。

「チックチャックさん……」

 目を閉じて手を合わせるフリルフレア。横ではフェルフェルも同様に手を合わせていた。

「フリル…チックチャック…連れて帰ろう…」

「………そうですね」

 チックチャックの無念を思うと涙が込み上げてくる。フリルフレアにとってチックチャックはまだ出会ったばかりの存在だった。だが、1度は寝食を共にした仲間だといえる。それに冒険者ランク9と言えばもうベテランの領域である。そのベテランであるチックチャックが格下の魔物であるレッサーデーモンに後れを取るなど、さぞ無念だったであろうと想像できた。

 チックチャックの無念を思い涙するフリルフレア。それを見たフェルフェルは瞳こそいつもの眠たそうな半眼であったが、口元にわずかな笑みを浮かべていた。

「フリルは…優しい…ね」

「そんな……私なんて所詮ただのヘッポコ駆け出し冒険者ですから…」

 そう言って少し無理に笑うフリルフレア。そしてチックチャックの身体を掴む。フェルフェルも同様に反対側を掴んでいた。

「フリル…行くよ…」

「はい」

 そのままバサバサと翼を羽ばたかせる二人。鎧を着こんだヒューマンの成人男性の身体だ、フリルフレアにはかなり重かった。それはフェルフェルにとっても同様だったのだろう。だがそれでも二人は何とかチックチャックの身体を崖の上へと運ぶことに成功した。

 そしてチックチャックの身体を改めて横たえるとドレイク達の元へと行った。

「おお、二人とも戻ったか」

 二人を出迎えるバレンシア。だが、フリルフレアとフェルフェルの表情、そして力なく首を横に振る二人を見て全てを察した様子だった。

「そうか……やはりダメじゃったか……」

 残念そうに呟くバレンシア。近寄ってきたアレイスローも目を伏せていた。

「残念ですね……」

 そう言ったアレイスロー。彼にしてみれば兄の死を知らされたばかりだというのに、さらに臨時に組んでいたとはいえパーティーのメンバーを失ったのだ。そのショックは大きかった。

「わざわざ運んできたのか……ご苦労だったな」

 フリルフレアとフェルフェルに労いの言葉をかけるドレイク。そしてチックチャックの遺体の傍に近寄っていった。そして胸に突き刺さった槍を見てその最後を察したのだろう。静かに両手を合わせて眼を閉じていた。

「白騎士、仇のレッサーデーモンは倒したから何も心配するな。安らかに眠れよ」

 手を合わせていたドレイクの横にランビーもやってきた。

「チックチャック……堅物だったけど、良い奴だったのに…」

 思わず涙ぐむランビー。それでも乱暴に涙を拭うと拳を握りしめた。

「安心しろよチックチャック。今回の依頼は必ずおいらたちが解決してお前の墓前に報告するからな」

 拳を震わせながらそう誓うランビー。そしてチックチャックの遺体をまじまじと見つめていたが、何か気になったのかチックチャックの遺体の全身を触り始めた。

「どうしたコソ泥?」

「いや、どうしたって言うかさ……」

 ランビーがそう言った瞬間、バレンシアから叫びが飛ぶ。

「こらランビー!亡骸にベタベタ触るでない!」

「す、すいません姐さん」

 バレンシアの言葉に大人しく引き下がるランビー。

「ドレイク殿。チックチャックの亡骸、せめて簡単にでも土葬してやりたいと思うのじゃが……」

 近寄ってきたバレンシアの言葉に頷くドレイク。

「分かった。穴は俺が掘ろう」

 そう言うとドレイクは素手で土をかき分け穴を掘り始めた。


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