第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第2話、事件を追う者達 その5
第2話その5
翌日、ドレイクとフリルフレア、それにアレイスローのパーティと仮面の探偵オルグの合計8人は連れ立ってコルト山の山頂近くにあるという神殿へと向かっていた。
神殿へと宝珠を運ぶのが仕事のドレイクとフリルフレア。一方アレイスローたちはその神殿が今回の行方不明事件において何かしらの関りがあると考えていた。そして山頂付近には狂暴な魔物が徘徊しているという情報から互いにとって戦力の増強になると考え、共に神殿を目指すことにしたのだった。
隊列は二人ずつ縦に4人で並んでおり、先頭がドレイクとランビー、2番目がフリルフレアとバレンシア、3番目がアレイスローとオルグ、しんがりはチックチャックとフェルフェルだった。
周囲を警戒しつつも、時折雑談を交えながら神殿を目指す一行。そんな中フリルフレアは隣を歩くバレンシアに興味津々とばかりに話しかけていた。
「あ、あの…バレンシアさん。バレンシアさんの故郷のラトファイ竜皇国って、どういうところなんですか?」
「何じゃフリルフレア、気になるのか?」
「はい。実は私…記憶にある限りじゃアレストラル王国から出たことないんで……」
「なるほど。確かにそれならば好奇心も湧くというものじゃな」
「ふむ」と頷いて顎に手を当てるバレンシア。その姿はどことなくドレイクを彷彿とさせた。
「フリルフレアは竜皇国のことをどれくらい知っておるのじゃ?」
「すいません。お恥ずかしながらリザードマンの王国と言う事しか……」
そう言って恥ずかしそうにモジモジとするフリルフレア。しかし、その様子にバレンシアはウンウンと頷いていた。
「まあ、そんなものじゃろうな。安心せいフリルフレア、大概の者たちはそれくらいの認識しか持っておらぬ」
「そうなんですか?」
「そうじゃよ。他国に対する認識などそんなものじゃ」
「そういうものですか……」
バレンシアの言葉に「ほへ~」と感心するフリルフレア。その様子を微笑ましく感じながらバレンシアはラトファイ竜皇国についての説明を始めた。
「ラトファイ竜皇国とは全7柱おられる竜王が1柱、水竜の名を冠する竜王であらせられるラトファイ様がお創りになられた国じゃ。そしてそこに住む民は一部の例外を除いて全てリザードマンの青鱗の部族の者なのじゃ」
「全員リザードマン……それも青鱗の部族…」
「そうじゃ。国を支える王や大臣、騎士、町人から農民に至るまで全てリザードマンの青鱗の部族じゃ。まあ一部他の部族や他の種族が混じっていたりもするがの」
そう言ってウィンクするバレンシア。それに対しフリルフレアはさっきから感心しっぱなしで、またしても「ほへ~」と感嘆の声を上げていた。
「王様も大臣もみんなリザードマン……」
「この世界においてリザードマンがここまで勢力を伸ばしている場所は他にはない。いわばリザードマンの聖地じゃな」
「す、すごいですね…」
「うむ。それに代々の王は青鱗の王と呼ばれ世襲制では無く、皇帝陛下により最も相応しいと思われる者が指名されるのじゃ」
誇らしげに言うバレンシア。だがそんな彼女の言葉を聞いてフリルフレアの頭の上に無数の?マークが浮かぶ。
「え?王様が…青鱗の王って言うのが居るのに、さらに皇帝が居るんですか?」
訳が分からないとばかりに混乱するフリルフレア。それを見たバレンシアは声を上げて笑っていた。
「はっはっはっは!確かに今の説明では分かりにくかったかも知れぬな。何、簡単な事じゃ。皇帝陛下というのはラトファイ様の事じゃ」
「ラトファイ様って……竜王の⁉」
「そうじゃ。ラトファイ様が皇帝として国の頂点に君臨し、王の任命や重要事項の最終決定を下される。そして青鱗の王率いる国の重役たちがラトファイ様に伺いを立てるまでもない通常の政治を行うのじゃ」
「なるほど……それって、通常の政治も全部ラトファイ様が行った方が良いんじゃないんですか?」
「いや、ラトファイ様はなるべくリザードマンたちの自主性に任せようとしていたのじゃ。本来なら国を作ったときにラトファイ様はそのまま隠遁されるおつもりだったようじゃが、当時の青鱗の民の熱烈な要望を受け仕方なく皇帝の座に就かれたらしい」
「そうだったんですか……」
納得した様に頷くフリルフレア。正直話の内容が難しく、あまりついていけて無かったが、それでも話の内容を自分なりに噛み砕いて頭に叩き込む。
「えっと、つまり……ラトファイ様が皇帝で…その下に青鱗の王様が居て……?」
「はははは、フリルフレアにはちと難しかったかの?まあ、そんな小難しい政治的な話よりも飯の美味い国だと思ってくれれば良いわ」
バレンシアの言葉にフリルフレアの表情が明るくなる。
「御飯が美味しいんですか⁉」
「うむ、リザードマンは根本的には狩猟民族じゃからの。野生の動物を狩ってその肉を調理して食べる。野生の動物の肉はたんに焼いただけじゃと硬かったり、半生だと危険じゃったりするからの、他の国にはない安全で美味い調理法が開発されていったんじゃ」
「なるほど~」
感心しているフリルフレア。すると前を歩いていたドレイクが顔だけを後ろに向けてきた。
「飯が美味いのは良いな。そのうち行ってみるか?」
口を挟んできたドレイク。どうやらフリルフレアとバレンシアの会話を聞いていた様だった。
「ホント、ドレイク⁉」
「ああ、部族が違うとはいえ同じリザードマンの国である以上俺の記憶の手掛かりも掴めるかもしれないしな」
「ドレイク殿、それならば妾達と一緒に行くのはどうじゃ?妾ならば首都ラトファイデルを案内できるぞ?」
「本当ですか⁉」
バレンシアの言葉に嬉々として喜ぶフリルフレア。ドレイクも「それは助かるな」と頷いていたが、次の瞬間正面に鋭い視線を送ると隣を歩いているランビーの襟首をつかんで引き留めた。
「ぐえ!……な、何しやがる⁉」
「待てコソ泥、何か近づいてくる」
「コソ泥って……まさかオイラの事かよ⁉」
それに答えずにドレイクは背負った大剣を引き抜いた。そのドレイクの様子にオルグを除いた7人はそれぞれ武器を引き抜く。
ドレイクは大剣、フリルフレアは短剣、バレンシアは薙刀、ランビーは小剣、チックチャックは長剣、フェルフェルは弩弓、アレイスローは杖を構えた。
「来るぞ!上だ!」
ドレイクが叫んだ瞬間上空からバッサバッサと羽ばたきの音が聞こえる。そして上空から「グルアアアアアアア!」と叫び声を上げながら巨大な影が2体舞い降りてきた。
降り立った2体の影、その奇怪な姿はどう見ても闇に属する魔物だった。その魔物はライオンの様でありながら、ライオンの首の横に竜の顔と山羊の顔が生えていた。そして背中には蝙蝠の翼を持ち尻尾のあるべき場所からは蛇が生えている。
「な、何だこいつ⁉」
ランビーが臆したのか後ろに下がる。それに対しアレイスローがドレイクとバレンシアのすぐ後ろまでやってくる。
「キマイラ……ですね。それも2体……まさかこんなところでキマイラに出くわすとは……」
そう言って杖を構えるアレイスロー。すでにチックチャックもバレンシアの横に並んでいた。
「こ奴ら、妾達の行軍を邪魔するつもりか?」
「行く手を阻むならば我が剣の錆にするまで!」
そう言って薙刀と長剣をそれぞれ構えるバレンシアとチックチャック。そしてドレイクは大剣を肩に担いで言い放った。
「邪魔するなら斬り捨てる…行くぞ化け物共!」




