第12話
そんな反応になるよね。分かる、分かる。国民の税金なのに、そんなことに使っては駄目だよねぇ。
「そんなこと大問題でしょう? 次期国王となる王太子が国のお金を好いた女性の為に横領してしまったんだもの。だからバレてしまう前に、どうにかしないといけなかった」
「もしかして、あらぬ疑いっつーのは……」
「そう。婚約者のご令嬢に横領の罪を擦り付けようとした。更にはその横領の罪を暴いたのは王太子である自分と、それに協力をしてくれた平民の女性ってことにしようとしたのよ」
それをもって王太子妃として相応しい功績にしたかったのだ。
「いやいや、待てよ。側近とかいるだろうが。何も言わなかったのか?」
おぉ。察しは悪い癖に、鋭い所はついてくるな。
「これが恐ろしいことに……」
「な、なんだよ。誰も止めなかったのか?」
私は小さく頷いた。止めるどころか、むしろ推奨していたというのだから笑ってしまう。当時は全然笑えなかったけれども。
「更に言えば、当時王太子の側近だった騎士団長ご子息、宰相ご子息、クワンダ国一の大商人ご子息、そーしーて、なんと王太子の双子のご兄弟第二王子まで、その平民の女性にご執心だったのよ!」
その中で平民の女性が選んだのが王太子だったのだ。選ばれなかったご子息たちは自分の愛した女性の為に一緒になって罪を犯してしまった、という訳だ。
「そんなに男を虜にするような美女だったんか?」
それだけの男性を魅了するのだから、想像するととんでもない美女なのかと思うのは当然だ。
「それがね、とても普通の女性、というより女の子だったわ。可愛らしい子ではあったけれど、美女と言うほどではなかったというのが他から見た評価ね」
下町にいそうな、本当に普通の女の子。貴族社会では絶対に育たないような天真爛漫な子だった。平民独特の遠慮のなさや打算のないそのままの笑顔。それがご子息たちにはとても魅力的に思えたのだろうと推察。
「本当どこかの物語にありそうな話だな」
「現実は物語よりずっと奇妙なことは多々としてあり得るわよ」
人がいる分だけ、物の視点、思考はあるのだから。
「まぁ、その計画も第一王女だったクワンダ国女王に暴かれて、逆に廃嫡されたのよ。例に漏れることなく他のご子息たちみんなね」
馬鹿な人達だな、と思う反面、全てを失ってまで貫き通したい恋だったのかとある意味感心したものだ。
「その功績が認められて、第一王女が廃嫡された王太子に代わって立太子されたというわけですか。こちらに嫁いで来れない訳ですねぇ」
しみじみとニールは言うが、それは少し違う。
「うんとね、グラン国では継承権を持った王子から能力や血の濃さで王太子が決まるけれど、クワンダ国では長子が継ぐことが決まっているのよ」
「功績とは別ということですかね?」
「後押しにはなったとは思うけれど、どちらにしても王太子だった第一王子、そして双子のご兄弟の第二王子が失脚すれば、第三子だった第一王女の王位継承は自然な流れなの」
グラン国王太子との婚約が決まっていた第一王女が立太子したのは、そう言った事情から。グラン国に嫁ぐのはクワンダ国王女であれば良かったのだから、第一王女の代わりに第二王女だったマイラ様が嫁いでくることになったのだ。もちろん、その際にはひと騒動あったらしいけれど。
「で、その平民の女性はどうなったのですかね。やっぱり王太子や高位貴族のご子息を誑かした罪でコレですか」
と、首元を親指で一線引くニール。
「本来であればそうなったかもね。でも、王太子や側近のご子息の嘆願により減刑になり、今は修道女として生きている筈よ」
あくまでも計画は平民の女性を除いた男性陣だけで立てた、というのがこの時の弁明らしいことを聞いている。本当の所はどうかなんて、私が邪推しても仕方がないこと。
「女のせいにしなかったってこたぁ、本気で好きだったんだな、そいつら」
「そうでしょうね」
もし全て責任を平民の彼女に押し付けていたとしたら、男性たちの処分はいくらか軽くなっただろうから。貴族からすれば平民の命など軽いと考える者が多い中、それでも女性の命を取ったのだ。愚か者たちだが、いっそ潔いとも思える。
「そんな女性に一生のうちに出会えることができたら、まぁ幸せではあるな」
「たとえその想いが成就しなくても、ってな」
ダグラス様のしんみりとした声に、ガスパールは切なさ満載に答えた。
今のガスパールの頭には、私のメイドであるメアリの姿を思い浮かべているんだろうな、と邪推。きっとそれは私だけではなくて、ここにいるみんながそう思ってるだろう。だって、なにか生暖かい空気が流れているもの。
ちらりとガスパールを見やると、なんか目頭押さえているし……。
「傷心旅行にでも行こうかな、おれ……」
どんまい、ガスパール!




