第4話
「お前は一体何を言っているんだ?? ありえん事実なんだが……」
寝耳に水、青天の霹靂である。
「誤魔化さないで頂きたい!」
ダグラス様が呆れつつも否定するが、それをラウルは大きな声で遮った。
「今だけじゃない。以前に団長は私の前で堂々と彼女の肩を抱いていました! その時はまだ私の婚約者だったマーシャに、です!」
信じられない。この人、自分の事を棚に上げて私の不貞行為があったと叫んでいるのだ。しかも相手はダグラス様だと!?
「しかもその時に私に向かって団長は言いました。『彼女は自分にとって代わりのない大切な人』だと! これが私に対しての宣戦布告でなくて何だと言うのですか!」
ラウルの告発に周囲の野次馬達がざわつき始める。「不貞ですって」「略奪?」「近衛騎士団長と筆頭侍女が」と、どこからもなく次々と私の耳に届き始めていた。
「今だって、ライニール隊長だっているのに真っ先に団長の元に飛び込んだ。これは二度目だ。今も、あの時だって「黙りなさい!」」
その先の台詞はライニール様の一喝で遮られた。
笑いを堪えていた震えは、あまりの怒りの震えにすり替わっていた。ライニール様の一喝が少しでも遅かったら、先に私の怒りが爆発していただろう。
「です「黙れ、ラウル・コールデン! 自覚があると宣言したにもかかわらず、貴様は彼女に何をしたのか覚えていないのか! それとも覚えていての発言か‼」」
「……っ」
「ダグラス団長の元に彼女が逃げ込んだ、それだけで不貞と決めつけるのはこじつけだ。そもそも逃げられるような行為をしていたのは誰か!」
「婚約者ではなくなりましたが、私とマーシャは幼馴染です。逃げるという行為が私に対して後ろめたい事をしているという証明です!」
「だから、貴様は彼女に何をしたのか覚えていないのかと聞いている!」
「彼女の心を傷つけたのは自覚しています。そしてその傷を癒すのは私の義務だと…っ」
「笑わせるな! 傷付けたのは心だけではないだろう! 貴様の婚約者として過ごした10年もの間、彼女の名誉や尊厳をも貶めておいて、なお同じことを繰り返すつもりか!」
「……ぅ」
「それだけじゃない。先日の冤罪事件の事をもう忘れたのか! 再編成される前の第4部隊が彼女に何をしたのか、今のこの場で事細かに説明でもしようか!」
「それ…は……っ」
「その事を踏まえ、もう一度しっかりと見てみろ!」
敬語口調の取れたライニール様の叱責。ラウルを貴様呼ばわりしていることからも、どれだけ彼を怒らせているのか垣間見える。
「彼女は後ろめたいから逃げたんじゃない。貴様に対して恐怖を覚えて、怯えているからこそ逃げざるを得ないのだ‼‼」
その勢いに、私もダグラス様も口を挟む余地なんかどこにもなかった。
「それに団長だけではなく、彼女は私にとっても間違いなく『代わりのない大切な人』だ。もちろん私だけではなく、王妃宮の皆が思っていること。貴様の理論だとその皆が宣戦布告していることになるな」
「それとはこれとは違います!」
「違わない。婚約が破棄されてなお、何の権利があって彼女を貶めるか! くだらない戯言を口にしていると自覚をしろ!」
「……くぅ…っ」
何の反論も出来なかったのか、力なくラウルは項垂れた。見なくても分かる。これだけ叱責されても、自分に酔った芝居じみた台詞口調を崩していないのだから。
なんて情けない、恥ずかしい男。
私とダグラス様の不貞をでっちあげて、何がしたかったのか。婚約破棄の非が誰にあったのか、今や周知の事実になっているのだ。少しでも自分の非を減らしたいが為の行動なのか、それとも本気で私とダグラス様の間に何かがあると勘違いしているのか。
どっちにしても、この行動は私のラウルに対しての嫌悪を強めるだけ。
「……もうそこまでにして下さいませ……」
あまりの怒りと呆れが逆に頭を冷静にさせた。
冷静と言っても溢れ出す怒りに身体中は震えるし、声もまた同じように擦れ震えるが、この場を収めるには最適だ。
「マーシャ、大丈夫ですか?」
ダグラス様の背中に隠れるのを止めた私に、駆け寄ってきたライニール様が一定の距離で止まった。
「えぇ、大丈夫です。ありがとうございます、ライニール様」
私の怒りが爆発する前にライニール様が怒ってくれたから、まだ理性を保っていられる。
「ダグラス様も、ありがとうございます」
見上げて、ダグラス様にもお礼を述べた。そして、ごめんなさい、とも視線で謝罪を込める。私相手に変な疑いがかかる羽目になってしまって、本当申し訳ない。
「……おう」
気にするな、とダグラス様は笑ってくれるが、私は悔しくて仕方がない。
「……マーシャ……」
私に懇願するように手を伸ばしてくるのを、縺れそうな後ずさりで答えてやる。私が後ずさった事にショックを受けつつも、ふらついた身体を支えてくれたダグラス様を見て、やっぱり、と言った表情をするラウル。
「これを、見て頂けますか?」
そう言って、私はラウルに向けて、けれども周囲の野次馬にも見えるように手を差し出した。
その瞬間、ひと際大きく周囲が騒めく。
「見て分かるでしょう? 震えが止まらないのです」
自分の身体を抱きしめる。それでも震えは止まらない。
「これが、私が貴方を拒絶する全てです。それ以外の理由は何一つございません」
暗にライニール様の言ったことが正しいと、それだけでラウルだけではなく周囲にも知らしめるのは十分でしょう? 言いたいことはライニール様が全て言ってくれた。なら私は余計なことは言わず、それに全力で乗っかるだけだ。
「下種の勘繰りは止めて下さいませ」
どんなことにも動ずることの無い女傑と言われている王妃付き筆頭侍女が初めて見せる弱さに、周囲がどんな解釈をするのかなんて想像するにたやすいのだから。
素敵なロミオ文句ありがとうございました。
どこかで使わせてもらいますねーーー!!
まだまだ募集中(笑)




