表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/132

第3話

「おおぅ、辛辣だな……」


 頭上からの小さな呟きに激しく同意。だって、めちゃくちゃ怖い怖い。これが自分に向けられたら、なんて想像すると冗談抜きでぞっとしてしまう。

 でも正直、『ざまあみろ』とは思っている。それにここまで辛辣に批判されたのだ。ラウルの待ち伏せなどの迷惑行為は終わるだろうと、安心してホッと息を吐いた。その私の様子に、ダグラス様が視線をチラリと寄越し、それからすぐにポムッと慰めるように頭を撫でてくれた。

 気持ちは嬉しいけれどね、子ども扱いされているようで、ちょっと気分は微妙。それにいつも長々と撫でるし、力加減も少しばかり強いのだ。髪は乱れるし、頭が振り回されるのは勘弁願いたい。が、すぐ手が引っ込められて私は首を傾げた。

 いつもどんなに嫌がっても止めてくれないダグラス様が、何も言っていないのに止めるなんて違和感しかない。


「?」


 その行動が不思議で頭の中ではてなマークを浮かべながら見上げると、ダグラス様は微妙な顔して私を見下ろした後、促す様にライニール様たちに顔を向けた。更に首を傾げる私もそちらに顔を向けると、ライニール様は何かを含んだような視線が。そしてラウルは叱責されて俯いていたけれど、そこから覗いた視線に思わずダグラス様の袖にしがみついてしまった。

 意思のない、暗い光を宿した無表情とでも言えばいいのだろうか。でも、その表情は一瞬。本当に私と視線が合ったその瞬間だけで、ラウルはまた俯き、再び顔を上げた時には見慣れた芝居じみた苦悩の表情を浮かべていた。

 

「あぁ……なんてことだ……」


 フルフルと震える手を胸に添えて、いかにも心が苦しいと言わんばかりに再び始まった独りよがり劇場。さっき見たあの表情は見間違いだろうか。変に胸騒ぎがする。


「何を言っているのです?」


 ラウルの表情に気付かなかったライニール様の台詞に、ハッと我に返った。

 確かに叱責されてからいきなりの独りよがり劇場に、話の脈絡がわからないのだから、この問いは当然の事だ。


「ライニール隊長は団長たちを見て何も思わないのですか!」

「いえ、特に」


 さらっとそう返したライニール様に、ラウルは納得がいかないと言うように頭を振り、更にはなぜか嘆き始めた。


「あぁ、なぜだ、マーシャ。君を信じていたのに……っ。なぜ……っ、私の心を無情にも凍てつかんばかりの氷の矢で射抜くような真似をするのか!」


 くらりとまるで眩暈を起こしたように、ラウルはたたらを踏み放った台詞に一瞬の静寂。

 

「「「……………………は?」」」


 やっと言葉の意味が脳内に到達した私たち3人の心は一緒だったと思う。


「……凍てつかんばかりの氷の矢、ですか?」

 

 繰り返されたライニール様が紡いだラウルの台詞に、ぶっはーっ!!と心の中で吹いた。そりゃもう盛大に吹き出した。見たこともないラウルの顔に覚えた胸騒ぎは、この台詞に見事に全部ぶっ飛んだとも。

 何となくではあるが意味は分かる。私の拒絶に自分は心底傷付いていますっていうアピールでしょ? 分かるけど、演劇や詩で使われるならまだしも、恥ずかしげもなく現実にそれを口にする人って初めて見たよ! え、え、今の聞き違いじゃないよね。ライニール様が繰り返したから聞き違いな訳ないかー、そっかー。ぶっふふふふ、え、本気で? いやだ、誰か噴出さなかった私を褒めてー! 


「えぇ! 私の心は攻撃を受ける度に血を流しています」


 私の心中で吹き荒れる爆笑の渦を他所にラウルは嘆き続ける。


「ライニール隊長、確かに貴方がおっしゃったように必要な手順を踏んだとしても彼女は私を受け入れはないかもしれません! どんなに望んだとしても、頑なになってしまった彼女の心が私を拒絶する」

 笑っちゃダメ、笑っちゃダメ! そう思うのに、ラウルが発言するたびに盛大な笑いの発作が私を襲う。何か一言でも発すれば絶対に笑いだしてしまうだろうから、もうそれは必死である。ラウルの恥ずかしい叫びを止める事なんて出来やしない。何気に掴んだ腕から伝わる私ではない震えに、ダグラス様が同じように笑いを堪えているのが分かった。


「その拒絶は今までの私の行いが招いた事は自覚しております!」


 あら、自覚はしているのね。というか、自覚していてこれなのね。普通は身を恥じて近づかないようにするものだけど、こんな恥ずかしい台詞を吐いちゃうお花畑だからしかたがないのかなー、ぷぷぷ。

 ラウルが悲痛を演技すればするほど、腹筋が鍛えられていく。


「マーシャの心を茨の箱に閉じ込めてしまったのは私の罪です…っ」

「「………っ‼‼‼‼‼」」


 茨の箱きたーーっ、ぶははははははは! ねぇねぇ、茨の箱な私の心ってなになに? え、いつのまに私の心は茨の箱とやらに閉じ込められたのよぉ、ぷぷぷ。

 もう私もダグラス様も今にも吹き出してしまいそう。周囲の野次馬に気付かれない程度に、笑うなよとダグラス様に肘でつつかれるが、私も同じような意味でつつき返している。あのセリフを間近に聞いて吹き出さないライニール様、凄すぎる。


「だからこそ、私はマーシャの茨を取り除く義務があるんです。むしろそれは私にしかできないと自負しております。言い換えるなら、それは天から与えられた私への試練です!」


 天 か ら の 試 練 ! !


「どんなにその茨から傷つけられようが私は彼女の為になら、その傷は甘んじて受け入れるつもりでした。ですが……っ!」


 きゅっと眉を寄せて、涙をにじませた瞳で私を見やるラウル。いや、彼の視線は私だけではなくダグラス様にも向けられている。その瞬間更なる笑いの発作に襲われた私は、さっとダグラス様の背中に身を隠した。


「私を攻撃しているのは茨ではない…っ。心無い氷の刃です……!」


 もう、やめてー! 矢から刃にシフトチェンジしちゃってるぅ! 意味不明過ぎて私の腹筋は崩壊寸前よー‼


「何の根拠があって言っているのです。それは卿の思い込みでしょう」

「思い込みではありません。この光景がそれを物語っているではありませんか!」


 私にはラウルの言っている意味が分からなかった。会話が成りたっている事から、どうやらライニール様には通じているらしいから凄い。しかもこの光景とは何のことやら。

 だがその疑問はラウルの次の言葉で判明した。


「仲睦まじく肩を寄せあう、団長と彼女はどう見てもただならぬ関係です!」

「「はぁ!?」」


 おもわずあんぐりと口が開いてしまった。しかも淑女らしからぬ大口だ。ダグラス様の背中で隠れていなかったら、とんでもなくみっともなく顔を晒す羽目になっただろう。

 周囲の隠れた多くの視線が、私とダグラス様に集中するのが分かった。 


素敵なロミオ文句を募集します(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ