エピローグ
第一部完となりなます。
つきましては、期間限定で感想欄を開放します。
詳しくは活動報告をご覧ください。
「マーシャ、婚約破棄おめでとう!」
パチパチパチ、と盛大な拍手で祝って貰う私。拍手を送ってくれているのは、マイラ様とマリィ、そして陛下だ。
「ありがとう存じます」
「うふふ、やっとね、やっとだわ」
すこぶるご機嫌なマイラ様に、そんなに気にしてくれてたんだなぁ、と申し訳なくなる半面、心配して貰えていた事が嬉しくも思う。
「おめでとうございますぅ、マーシャさん。これで心置きなく婚活に励めますねぇ!」
「う、うん…そうね…?」
うんうん、分かっているわよ、マリィ。今回婚約破棄に踏み切ったのも、これから生まれるであろう世継ぎの乳母になる為だったことは。もちろん、その為に婚姻を結ぶ必要があるという事もね。でもね?
「あー、マーシャさんったらこの期に及んで怯んじゃってますねぇ!」
「え、いえ、別に怯んでいる訳ではないのよ…?」
ただ、そうね。何と言うか。
「今回の事件に関して、一応の解決はしたけれど、不可解な事多いじゃない? そんな中で悠々と婚活が私にできるかしら? と不安に思っただけというか…うん」
「えー、それは言い訳ではなくてですかぁ?」
全くないとは言い切れないけれど、不安に思っているのも本当だ。
「まぁ、そうですね。確かにマーシャが言うように不可解な事が多すぎて不安に思うのは分かりますよ」
「ですよね!」
ライニール様の賛同に、ほっと一安心。そう思っていたのは私だけじゃなかったんだ。
「だが、今はそれを考えてもどうにも出来ん。考えるだけ無駄だ」
「そうよ。陛下の言う通りだわ。『考えても解決しない事は、その内絶対にまた自分の身に降りかかって来るから、その時に適切な行動がとれるように準備を怠るな』 そう私に教えてくれたのはマーシャでしょ。とうの本人が実行しなくてどうするの?」
「…うっ」
それを言われると反論が出来ない。
「普段はサバサバしているくせに、本当この部類の話になるとポンコツですよねぇ、マーシャさんったらぁ」
それはすみませんね。これでもライニール様の訓練を日々受けて、頑張っているんですよ!
「まぁ、それだけ嫌な思いをしたってことだろ? あんまり皆して虐めてやるなよ」
え、ちょっとびっくり。ダグラス様ったら何か変な物でも食べたの?
「あら、珍しい。いつもはダグがマーシャを虐めているのに、今日は庇うのね」
そう思ったのは、どうやら私だけではないらしい。
「そういう訳じゃないんだがなぁ…、あ、うん、あれだ」
「なんだ、はっきりと言え、ダグ」
はっきりと物を言わないダグラス様を陛下がせっつく。
「あー、なんて言うか、妹を思う兄心?」
兄じゃないし。
「お前はマーシャの兄ではない」
「お兄さんは別にいますよぉ」
「というか、いつまでその設定でいるつもりなの?」
「私もいい加減、その設定を続けるのはどうかと思いますよ、団長」
集中砲火である。ダグラス様、哀れ。
「お、おぅ。やぶへびだったぜ」
「本当に、それですね」
助け船を出してくれた事には感謝しますけど、どうせならきっちり助けてもらいたかったですね。まぁ、それもダグラス様らしいと言えばらしいんですけど。
「それにしてもぉ、確かに今回の件の動機が王弟妃に成り代わりたかったからというのも、少し変ですよね。だってぇ、例えエイリア・ブーレランでしたっけ、その人の計画が成功して王弟妃を追放出来たとしてもですよぉ、子爵令嬢ではそう簡単に王弟妃になれませんよねぇ?」
マリィの言う通りだ。それなのにエイリア・ブーレランは自分がその席に座れると妄信的に信じていた。どうして、そんな根拠のない自信に満ち溢れていたのか、それが不思議でならない。
「王弟妃の席に座るとなれば、最低でも伯爵位は必要でしょうね。プリシラ妃同様、高位貴族への養子に入れば別でしょうが…、今ある高位貴族が養子に迎えてまで王弟妃の席を望むとは思えませんね。旨味がまったくありませんからね」
「そうだな。世継ぎが出来れば、王弟両殿下は臣下に下るのが決定している事だしな」
そうなのだ。エイリア・ブーレランの計画がどうであれ、王弟妃は近い将来、大公夫人となる。王族ではなくなるのだ。
エイリア・ブーレランは、本当に王弟妃という立場を望んでいたのか、もしくは王弟個人の妻を望んでいたのか。
「その真実はもう闇の中なんだろうな」
陛下が深いため息を吐いてそう言った。そう、それはもう一生分かる事はないのだ。
あの夜に捕まったエイリア・ブーレランは、その後、憑き物が落ちたように聴取に応じたという。それから数日後亡くなっているのが見つかった。口封じの線も疑われたが、特段怪しい点が見つからず、突然死という事で決着したのだ。
「もぉぉぉ、暗い話はもう止めて!」
暗い空気を吹き飛ばすマイラ様のふくれっ面に、ぎょっとした。
「マ、マイラ様?」
ちょ、その頬の膨らませ方はヤバいですから。空気抜いて抜いて、マイラ様ってば!
「んもぉぉぉ! 今日は、私のマーシャの婚約破棄おめでとうお茶会なのよ!」
「え、え、あ、はい。それはありがとうございます」
うんうん、せっかくのマイラ様の心遣いを台無しにしてしまってごめんなさい。謝るから、そのお顔は戻して。折角の麗しいかんばせが残念な事になってますから!
「ふくれっ面のマイラも可愛いな」
「ありがとう、陛下。大好き」
ううん、このバカップルめ。
「もう、マーシャがしないといけない事って何か分かる?」
むむむ、とわざと顰め面を作るマイラ様に、私もうーんと首を傾げて考えてみる。
「…婚活?」
そう答えて窺うと、マイラ様は体の前に腕で大きなバッテンを作った。
「ぶっぶー。残念、不正解でぇっす」
「え、違うんですか?」
悩む事も考える事も違うなら、最初に戻って婚活だと思ったのに、まさかの不正解。
「はぁい。私が答えてもいいですかぁ?」
「はい、マリィ。答えをどうぞ」
「正解はぁ、『婚約破棄おめでとうお茶会を楽しむ』だと思いまぁす!」
え、それなの? そんなまさか。
「きゃあ、マリィったら、大・正・解!」
「嘘ぉ」
「本当ですぅ。マーシャさんもまだまだですねぇ」
キャッキャと笑い合う二人に、思わず脱力だ。肩をがっくりと落とし、脱力している私にマイラ様が目の前で指を立てて見つめて来た。
「ほら、わかりましたか? 不安があるのは分かるけど、その不安でせっかくの楽しい時を逃しちゃ勿体ないのよ」
「…そうですが」
「そうなの。それにマーシャは大丈夫よ。私達がついているもの! 結婚相手だって私が厳選して厳選して探してあげるから心配しないで」
それはちょっと期待している。
「それは俺も協力しよう」
「え…陛下も…?」
思わず口から出た不安。
「俺が協力しちゃいかんのか?」
「いえ、別にそういう訳ではございません」
ただ、不安が募るだけで。
「心配するな。大船に乗ったつもりでいるといい」
「あ、はい…」
心底不安ではあるが、間違いなく自分で探すよりは効率的ではあると思う。でも不安。
「まぁまぁ、そんな不安そうな顔をしないで」
「は、はぁ…」
ライニール様にそう諫められて、そんなに顔に出ていたかな、と顔に手を当てる。
「そう言えば、マーシャ」
「はい」
何でしょう? 表情以外にも何か不味い事でもありましたかね?
「これを」
ん? と差し出したものを見ると、そこにはライニール様から頂いた髪飾りがあった。
「…あ」
「第一部隊から預かってきました。貴女に返すようにと」
私が自分の存在を知らせる為に、あの半地下の小窓から外へ投げ出した髪飾り。ライニール様から頂いた戒め品、改め恩品(恩人的な?)だ。
あの時は私だと確実に分かる品を目印にしたかったという事もあり、この髪飾りを使ったのだ。でもせっかくライニール様から頂いた品なのに、なかなか戻ってこないから、もう返して貰えないのだと半分諦めていた。戻ってきてよかったぁ。
「まぁ、ありがとうございます」
つい顔を綻ばせ、受け取ろうと手を髪飾りに伸ばそうとした、が。
「ライニール様…?」
んん? その無言の制止は何かしら?
戸惑っていると、マイラ様の咳払いが聞こえて視線を向ける。そこにはマイラ様とマリィがジェスチャーと小声で『屈め!』との指令でガッテン。
あ、はいはい。飾ってくれるというのね、了解。これも女性扱いになれる為の訓練、訓練。これはもう二度目の事ですので、お茶の子さいさいなんですよ、あっはっは。
なんて内心笑い飛ばしながら、さり気なく頭を傾け、ライニール様の手が頭に回ってきた時、私の身体が思わぬ反応をした。
「は?」「え?」「はい?」「あ?」「……うわぁ…」
ズザザザッと思いっきり後方へ飛び退いてしまった私に、飛んでくる皆の呆気に取られた声。
「あ、あれ……あれぇ…っ⁉」
当の私も自分の行動に思わず侍女の仮面が外れて素丸出しで混乱中。
鳥肌が二の腕と言わず全身に、そして大量に溢れ出す冷や汗。顔色が真っ青だろうことも鏡など見ずとも分かり、さすがの私もこれはまずいと自覚せざるを得なかった。
「…これはまた面倒な…」
陛下が唸るように言ったその台詞に恐る恐る視線を向け、そして返ってきたなんとも言えぬ、気まずそうな困ったような面々に先程とは違う冷や汗がタラリ。
なんじゃ、こりゃぁぁ~~~???
これからどうなる、私の婚活事情‼
本日で第一部が完結致しました。
応援して頂きありがとうございます。
第2部は10月から連載開始予定です。
引き続き、よろしくお願い致します。




