第46話
少々短めであります。
「マーシャ殿、もうその辺で」
あまりにも触り心地のいいほっぺに夢中になり過ぎてお仕置きだった事忘れる所だった私にライニール様がストップをかけた。
おっと、いけない。鼻の下伸びていなかったかしら…?
「ほら、ディラン。ライニール様に謝りなさい」
ほっぺから手を放して促すと、ディランは渋々といった体でライニール様に近寄った。
「…ちっ…悪かったよ…」
ぼそっと小さな声で、なんとも不貞腐れた言い草だ。
「ディラン、次は抱っこの刑がいいかしら?」
私的には遠慮なく抱っこが出来てご褒美以外の何物でもないが、ガキ大将で大人ぶりたいディランにとっては、恥ずかしい事極まりない刑だろう。
「うぅ、ご、ごめんなさい!」
私の言葉が効いたのか、今度は大きな声で言い放ったディランに、ライニール様はそっとディランの頭に手を乗せて言った。
「良く出来ました」
優しく撫でられたディランは、顔を真っ赤に染めた。それでも手を振り払わないのは、一応は反省をしたからなのか、もしくは抱っこの刑が怖いからなのか。でも何となく嬉しそうなのはきっと気のせいじゃない。
「男の子なら女性を守ってあげるものです。優しくしなければいけません」
悪戯をする対象ではありませんよ、とライニール様はディランに言い聞かせる。
「むぅ…、でも…っ」
「でも、何ですか?」
言いにくそうに、でもライニール様に促されてディランは重い口を開いた。
「王妃さまも姉ちゃんも、なかなか孤児院に来てくれないじゃんか…。せっかく来たと思ったら騎士の兄ちゃんと話してて、ぜんぜん相手してくんないしぃ…」
「まぁ、ディランたら…っ!」
やだ、何それ。胸がキュンキュンするんですけどー!
「べ、べつにおれは平気だけど、他のみんなは楽しみにしてたから、だからみんなの為に…っ!」
あまりの可愛さに鼻血が出そう。思わず鼻を押さえるけど興奮収まらず。
「ふむ、それは確かにマーシャ殿を独り占めしていた私が悪いですね」
「だろ?」
「えぇ、ならば私も謝らねばなりませんね。すみませんでした」
ぺこりと頭を下げるライニール様。それに驚いたディランは慌てふためいた。
そりゃそうだ。貴族で騎士で、しかも大人のライニール様が子供のディランに頭を下げるなんて、そうそうある事じゃない。私だってライニール様に頭を下げられた日には、とんでもなく動揺する自信がある。
「許してくれますか?」
「ゆ、ゆるすよっ、ぜんぜん大丈夫だよ。だから顔あげてくれよ。お、おれ、そんなことされたら困るだろぉ!」
オロオロするディランの、なんて可愛い事。あぁ、たまらん。
「ディーラン!」
「わぁっ‼‼」
辛抱堪らなくて、背後から近づいてぎゅっと抱きしめる。
「ね、姉ちゃん、抱っこはヤダって言っただろ!!!」
「聞いてませーん。それに、これは抱っこじゃなくて抱擁よ、ほ・う・よ・う」
「いっしょじゃんかーっっ!」
顔だけではなく首筋まで真っ赤に染め上がったディランの抵抗は、興奮状態の私にあっさりと押さえられ、されるがまま。
「もうっ、放してくれよー!」
「えー、私に構って欲しかったんじゃないのぉ?」
「ちーがーうっ! おれじゃなくて、みんなっ‼」
みんな、とか言っているけど、女の子達はリアム君と一緒だし、小さい子はマイラ様とマリィと絵本の読み聞かせに夢中。他の男の子たちは最初こそ私達を窺っていたけど、そのうち他の騎士達に群がっている。
「おやおや、今度は私が仲間外れにされましたね」
どこか面白がるようなライニール様の声をバックに、私とディランの攻防は、花かんむりと花指輪を手にしたリアム君が戻って来るまで続いた。
「ほおずりすんなっ、ばかーっ!!」
その後、リアム君とディランの喧嘩騒動が勃発、のち男の友情が芽生えるのだけれど、それは割愛。
その時の様子を表すと、可愛い×2は尊かった。その一言に尽きるのであった。
誤字脱字報告、ありがとうございます。
そしてまたレビューを頂きました。
有難いです。
今後も頑張ります!!!




