第44話
5月10日に1巻を発売いたしました。
ありがとうございます。感謝です!!
「昔からそうよね、マーシャは」
何を今更、と言わんばかりのマイラ様の台詞。
「マイラ様まで…」
「あら、だって幼い頃の私によくデレデレしていたではないの。必死に表情を取り繕っていたけれど、好々爺のように眦は下がっていたわね」
「う…っ」
幼き日のマイラ様にとんでもなくデレていたのは自覚があるが、まさかバレバレだったとは。だが断じて変態ではない。ただ少しばかり子供に限らず可愛いものが好きで、更に言えばマイラ様の存在は格別に可愛かっただけである。
「私とマイラ様が揃って並ぶとそれも3割増しでしたよぉ。懐かしいですねぇ」
どこまで鼻の下が伸びるのかとワクワクしたものです、とマリィは懐かしそうに笑った。
「…あぅ」
マリィの言い様に撃沈である。だってマイラ様に負けず劣らずマリィの幼少期も可愛かったのだもの。可愛い×2で表情筋が崩壊してもおかしくないじゃない?? それでも頑張って淑女の範囲内に収めていたのだから褒めて欲しい。
「それはそれは…くくっ」
笑いを堪えきれていないライニール様をちらりと見上げると、さっと顔を背けられる。そんなに笑いたいのなら笑ってくれていいんですけどね。そんな対応の方が羞恥を増加させるんですよ、もう! これがダグラス様なら遠慮なく足を踏みつけてやれるのに、ライニール様にはできやしないし。
「とても微笑ましいエピソードなのですから、そんなにむくれなくともいいではないですか」
「失礼な。別にむくれてなどいません」
「おや、心なしか頬が膨れているようですが?」
「嫌ですわ、ライニール様。目の錯覚なんてお疲れにも程がありますよ!」
ふん、と鼻息荒く返すと、ライニール様はまた吹き出す。
「くく。まぁ、そんなふくれっ面も可愛いとは思いますが」
「…なっ!」
くわっと熱が顔に集まっていくのが分かった。それは羞恥か怒りか、もしくは両方だろうか。
髪飾りを頂いたあの日から、隙を見ては甘い言葉を吐くライニール様に振り回されるようになった。口説かれ慣れろ、という事なのは理解している。ライニール様的にも職務の一部だと考えての行動なのだろう事も。
そのおかげで第2部隊隊員の皆様方も最初の方こそ驚いていたものの、ほんの数日でこの光景に慣れてしまった。当の私は一向に慣れる気配すら見えないのにね!
ぐっと理性を働かせている私の耳に、「まぁ!」「あらあらぁ?」とマイラ様とマリィの面白がる声が届く。ここで醜態を晒すと余計に揶揄われるだけにもう必死である。
「もぅ…っ」
小さな声で呟くと、生暖かい眼差しが方々から飛んできて居た堪れない。本当に勘弁して欲しい。
「本気ですよ?」
そんな私を他所に、ライニール様はわざわざ顔を覗き込むように腰を屈めてまで追い打ちかけてくるものだから、ついイラっと。
「まぁ、ありがとうございますっ」
これでもかって言うくらいの見え見えの作り笑いで対応すると、返ってきたのは何とも形容しがたい笑みだ。
「…これはまだまだですね」
そして更にはダメ出しである。
悪うございましたねーっ、と内心言い返すけど、表面上では愛想笑いでニッコニコ。
「君が、ではないのですが…ね」
ため息交じりの謎フォロー。意味分からん!
そううだうだしていると、気が付けばマイラ様とマリィは少し離れた所で、子供たちに絵本の読み聞かせを始めていた。ライニール様以外の近衛騎士達もそれに合わせるようにして配置を移動している。
「ところで、マーシャ殿」
ライニール様のいつもの声音に、ハッとして作り笑いを止める。
「今回の件ですが…」
ダグラス様から聞いたのだろう。ライニール様の言わんとした事を察して私は頷いた。
「えぇ、少々面倒な事になりました」
王弟妃宮からの宝飾品紛失の件が、最初から私を陥れる為なら、必然的にマイラ様を陥れる為と同義だからだ。更に言えば、新枕の儀まで間もない大切な今の時期を狙って行われた事だとしたら。
「考え過ぎだと良いのですが…」
「他に何か気になる事が?」
私はコクリと頷く。
「一言でいえば不気味です」
「不気味、ですか…?」
ライニール様が私の言葉に反応を返す。
「ラウルが私への贈り物をしたというこの時点から気持ちが悪くはあります。何を今更?と思いますし、このタイミングでという疑問も湧きます」
この10年間無視を続けていたラウルが、どういう思いで私へネックレスを贈ろうとしたのだろう、と。
もちろんそれだけではない。
「王弟妃宮の宝飾品盗難と私への贈り物紛失。バウワー伯爵令嬢の持ち込んだアネモネ宝飾店への修理の依頼。そして第4部隊暴走での私への冤罪。何より『高貴な人』の存在が不気味です」
私は一呼吸置いた。
「情報源を考えれば、王弟妃が『高貴な人』と言うのが一番自然な流れではあるんですが…」
「王弟妃にはマイラ様と敵対する理由がない、と」
そうなのだ。ダグラス様は可能性が低いと言ったが、その通りだと私も後で思い直した。
確かに私とプリシラ王弟妃の関係は良いものではない。だが、マイラ様と王弟妃の関係は良好とは言わないものの悪くもない。
もし王弟妃が『高貴な人』であって、両陛下を陥れる事を企てたとしても、彼女の益となる事は無いのだ。
「今までの流れが、こう何と言いますか…釈然としないといいますか…」
思い返せば、最初は王弟妃プリシラの気まぐれからだったと思う。もしあの時、私とラウルが二人きりになる事がなかったら、ネックレスが紛失している事に気付いただろうか。そして王弟妃宮の宝飾品紛失発覚へと展開しただろうか。そもそも宝飾品紛失とはいえ、王弟妃の宝飾とラウルからの贈り物紛失は同一なのかと疑問に思えて。
「もし誰かの思惑なのだとしても、筋が通らない気がするのです」
なんともはっきりと言えない、この気持ち悪さをずっと感じている。
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そしてまたもやレビューを頂きました。
本当にありがとうございます。
更新頑張ります。次の更新はそんなに待たさないですよ!!




