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第43話

 私はあれから2週間ほどで復帰をする事ができた。

 額の傷と肩の打ち身は順調に回復し、額の傷に関しては周囲の内出血がなかなか消えず困っていたけれど、前髪に隠れる場所という事と、お見舞いで頂いたマイラ様お墨付きの白粉で一見分からなくなっているので人前に出ても無問題。本当に優秀だわ、このお化粧品。少々お高いのだけど一式揃えてしまおうかと目下悩み中である。


 そして今日は待ちに待った王妃直轄の孤児院慰問の日。約束通りリアム君と共に孤児院へやってきた次第である。


「みなさん、こんにちは。リアム・ウォーレンです。今日は王妃さまのご厚意でごいっしょさせていただきました。仲よくしてくださいね」


 孤児院で子供達の前でのリアム君のご挨拶と、にぱっ、とお花が飛んできそうなリアム君の笑顔にハートを射抜かれた人多数。女の子なんか頬を真っ赤に染めている子もいたりなんかして、本当にもう罪作りなんだから、リアム君ったら!


 え、私? 射抜かれるどころか心臓鷲掴みされていますが、それが何か?


 孤児院に来るすこし前も、王宮で久方ぶりに会ったリアム君はマイラ様にご挨拶をした後、真っ先に私の怪我の心配をしてくれて優しい言葉とハグをくれました。もうそれだけで癒される、癒される。リアム君浄化効果すんごいわー。小さな私の紳士は相変わらずカッコ可愛い‼ ダグラス様要素、本気で皆無‼


「ねぇ、マーシャさま…」


 内心リアム君の愛しさに悶えていると、孤児院のドリィが私のドレスの裾をツンツンと引っ張った。丁度リアム君と同じ8歳の女の子だ。


「はあい。何かしら、ドリィ?」


 視線を合わせるようにしゃがみ込んでにっこりと返事をすると、ほのかに頬を染めながら内緒話をするように顔を寄せてきた。

 

「あ、あの子…天使さまなのかな?」


 分かる────っ‼‼ 

 

 そう叫んでしまいたかったけど、今の私は王妃付き筆頭侍女として孤児院へ来ている身だ。自重、自重。


「ふふ、そうね。天使様のように優しい男の子よ。話しかけてみてはどう?」

「えぇ…、はずかしいよぉ」

「そんな事言ってないで頑張ってごらん。リアム君もきっと話しかけてくれるのを待っているわ」

「そ、そうかな?」

「えぇ、ほら行ってらっしゃい」

「う…うん!」


 背中を押してあげると、ちらちらとこちらを振り返りながらリアム君に近づいていくドリィ。そんな彼女に気が付いたリアム君が、ぱぁっと顔を明るくして期待するような表情でドリィが傍に来てくれるのを待っている。

 そりゃそうだ。マイラ様と一緒に来たって事はリアム君が貴族だって事を孤児院の子供達は理解している。だからあんなに素敵なご挨拶をしたというのに、すぐリアム君に近づく子供達はいなかったのだ。悪い意味の敬遠ではないが、遠巻きに眺められてしまってリアム君もどうしたらいいのか困っていたのだろう。そんな時に恐る恐るでも近寄って来てくれる女の子に期待してしまうのは、なんらおかしい事ではない。


「あ、あのぉ…」

「はい!」


 期待通り話しかけてくれた事に元気いっぱいに返事を返すリアム君だが、ドリィは反対に萎縮してしまったのかビクリと身体を震わせた。


「あ、ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたね」


 そんなドリィの様子に気が付いたリアム君はへにょんと眉を下げる。


「あ、あぅ…っ」


 真正面でその表情を目の当たりにしたドリィの顔が見る見る間に真っ赤に染まっていくのを、微笑ましい眼差しで眺める私達。

 言葉を中々発せられないドリィが助けを求めるように私に視線を向けて来た。けれど私はグッと小さく握りこぶしを握って、頑張って、と応援するだけに留める。助けを求めてくるドリィには申し訳ないけれど、ここで大人の私がしゃしゃり出る訳にはいかないですし、同じ年ごろの可愛い子ちゃんがどうするのか眺めていたいというのが正直な所である。それに私が助け舟を出さなくても小さな紳士のリアム君が自分に話しかけてくれた女の子に対して無下にする訳ないじゃないの。


「あなたのお名前をきいてもいいですか?」


 気を取り直したように、リアム君は笑顔でドリィに話しかけた。


「えっと、あの、私、ドリィって言うの」

「とってもかわいい名前ですね。ドリィちゃんって呼んでもいいですか?」

「う、うん!」

「うふふ、うれしいです。僕のことは好きに呼んでくださいね」

「うん。えっと…リアムさ…っ」

 

 へにょん。


「あ、ぅ…リアム…、くん?」

「はい!」


 今の見ました!? ドリィが『リアム様』と呼ぼうとしたのを眉毛の上げ下げだけで『君』付けに変えさせましたよ。本来ならば高位貴族ご子息であるリアム君の敬称は『様』付けが正しいのだけど、相変わらずの力技。お見事としか言いようがない。私も数年前にやられた事があるのですが、何も間違った事してないのに悪い事をしたかのような罪悪感が湧き出て来て半端ないんだよね、あれ。そして私は知っている。アレをリアム君に教授したのは私の隣にいるこの人だという事を。

 ちらり、と横目で見上げると、眼鏡の奥から冷やりとする何かが飛んできたので、慌てて何事もなかったかのように視線を可愛い子ちゃん二人に戻す私である。余計な藪は突ついちゃ駄目。


「あの、あのね。あっちの丘の方にきれいなお花が咲いているの。花かんむり作りに行かない?」

「お花でかんむりが作れるのですか? 僕、作ったことがありません」

「あたしが、お、教えてあげるからっ」

「はい、ぜひおねがいします!」


 二人して頬を染めながらニコニコしているのを見ると、先程の冷やりとした何かが浄化されていくわぁ。あぁ、可愛い。

 

「王妃様、マーシャさん。僕、行ってきていいですか?」


 くるり、と振り返ったその顔は期待に満ちている。


「もちろんだわ。ねぇ、マーシャ」


 マイラ様がにっこりとほほ笑みながら答える。それに加え私も頷くと、リアム君の表情が、ぱぁっと輝くものだから眩しくて仕方がない。


「えぇ、行ってらっしゃい」

「はい! 楽しみにしていてくださいね、マーシャさん!」


 何を? と思ったけれど、おくびにも出さずにドリィと二人で駆け出していくのを見送ると、その二人を追うように「あたしも行きたい!」「ドリィずるい‼」と追いかけるドリィ以外の女の子達。この一瞬でハーレムを築くとはさすがだわ、リアム君。

 女の子に先を越された男の子たちは、リアム君に興味はあったのに遊びに誘えなくて残念そうな顔をしている。


「ふふ、みんな愛しいわぁ…」


 思わず心の声がポツリ。


「っく、くく…、んん、失礼」

「笑いたいのでしたら、どうぞご遠慮なく」


 ライニール様の堪え切れぬ笑い声に私は自棄気味に言った。ついうっかり心の声が漏れてしまった羞恥はひた隠しである。


「いえいえ、君の気持ちも分からなくはありませんよ」

「そうでしょうとも。みんな可愛いですからね」


 そこは否定しようがないでしょう。子供は可愛くて、愛しい存在だ。


「マーシャさんは子供が好きですからねぇ。ちょっと変態じみてますけどぉ」

「一言余計よ、マリィ」


 変態とは何事よ。子供は等しく可愛いのが当然の摂理でしょうに。


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