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第41話

大変お待たせしました。

更新再開します。


ご心配をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。

書籍が出ようとも、なろうさんにて完結しますのでご安心下さい。

今後とも、よろしくお願い致します。

「あー…、もしかして額とは言え顔に傷って事を気にしてます?」


 そう私が言うと、図星だったのかダグラス様が顔を顰めた。


「直ぐに治りますよ、この程度の傷など」


 本当に大した傷ではないのだ。血が流れやすい場所だったから大袈裟に見えるが、傷自体は小指サイズだ。時間が経てば痕だって残らないとお医者様から太鼓判を押してもらったし。


「嫁入り前だろ…?」

「まぁ、そうですけど…」


 私から言わせれば『だから?』である。ダグラス様が気に病むような事じゃない。


「俺の怠慢が招いた事だ。それに今回の件でお前達の婚約破棄は問題なく受理される。何の憂いもなく結婚相手を探す事が出来るようになるのに、その傷の影響が無い訳ないだろう?」

 

 そのダグラス様の台詞に、私の機嫌は急降下。


「ば…っっっ」


 っっっかじゃないの、という暴言は辛うじて飲み込んだ。


「んんっ……馬鹿ですか、ダグラス様は」


 だが口調を変えただけで台詞は全く一緒だ。吐き捨てなかっただけ褒めて欲しい。


「おい。俺は真面目に言っているんだぞ」


  確かに普通の令嬢が婚姻前の身体に傷を作ろうものなら大騒ぎだ。私とて全く気にならなかったわけではない。だがダグラス様のそれはちょっと違う。


「それは分かっていますよ。でも真面目に考えるだけ無駄です。私が訳アリなのは今日に始まった話ではないし、今更傷の一つくらい増えたからって何だって言うんです?」

「だが…」

「だがもクソもありませんよ。それとも何です? ご自分の怠慢が招いた傷だから、責任を取ってダグラス様が私を娶ってくれるとでも言うおつもりですか?」

「……それは…」


 怯むダグラス様に、私は鼻でせせら笑ってやった。


「出来ないでしょう?」


 例えこの怪我の責任がダグラス様にあったとしても、ダグラス様が私と婚姻するなど有り得ない。彼が優先させるのは私ではなく最愛のご子息のリアム君だ。反吐が出そうになる責任を勝手に背負おうとするな、ばーか、ばーか。 


「それで結構。己の立場をご自覚されているようで何よりです。もしここで頷こうものならメアリ直伝鼻フックをお見舞いする所でしたよ」 


 その台詞に思わずといった風に鼻を庇うダグラス様。


「私は先程言ったでしょう? 謝罪は受け入れますって。ダグラス様の怠慢が招いた事態だろうと何だろうと、これのおかげで10年間溜めに溜めた鬱憤を晴らす機会が巡ってきたんです。感謝こそすれど、怪我を盾に娶って貰おうなんて思いもしませんよ。私を馬鹿にするのもいい加減にして下さい!」


 今のダグラス様は、私を心配しているのではなくてくだらないヒロイズムに浸っているだけ。そんなラウルのようなクソったれな真似しないで。


「ダグラス様は、いつものようにあっけらかんと馬鹿みたいに大口開けて笑えばいいんですよ。そして『良かったな』って一緒に喜んでくださいよ」


 自称兄なんでしょう? デリカシーがないならないで、傷なんて気にしないで私の心が少しだけでも救われたのを一緒に笑って喜んで欲しい。


「……すまん」

「本当ですよ。もう二度とこんな事言わないで下さい。私にも言わせないで下さいね!」

 

 分かりましたか? と念を押して言うと、ダグラス様は極限まで眉尻を下げ頷いた。

 なんでそんなとち狂った事を言い出したのか分からないけれど、何かしらダグラス様的に思う事があったのかもしれない。しょんぼりと大きな体を小さくして大いに反省しているのは伝わってきた。

 その様子はまるで子供が怒られて落ち込ん…いやいや、とんだ幻覚。そんな可愛いものにダグラス様が見えるなんて、あまりの腹立たしさで頭に血が上ったせいかしら。そういえば私、頭打ってたわ。メアリ、お医者様呼んでー!


「で、その後の捜査進行はどうなっているんです? ライニール様から宝飾店での件は報告されていますよね。バウワー伯爵令嬢からの聴取はできたのですか?」


 錯覚はさておき、ダグラス様はしっかり反省してくれれば、それでいい。ただ二度目はないけどね。

 それより知りたいのは、私が気絶した後の捜査状況だ。

 現状では、宝飾店に複数の宝飾を持ち込んだシエルリーフィ・バウワー伯爵令嬢がこの件に関わりがある疑いが一番強い人物である。犯人であるとは言わないが、何らかの事情を知っているのは間違いないだろう。拘束とまでいかなくとも、事情聴取ぐらいはしてますよね。


「……それがだな…」


 歯切れの悪いダグラス様に、私の眉間に深いしわが寄る。


「まさか聴取できていないとでも?」

「………そのまさかだ」

「…頭痛い。一体何をしているんです、近衛は」


 一番関連性が疑われるバウワー伯爵令嬢から聴取を取るのは必須でしょう。


「床に臥せっているらしい」

「随分と都合の良い病気ですね」


 公開訓練でラウルにめちゃくちゃ熱視線送っていたじゃないの。ご病気のご令嬢があんなに黄色い悲鳴をあげるか。


「病気ではなくて精神的な物だそうだ」

「脳内がお花畑なのは今更でしょう?」


 愉快なおつむが更に愉快になったとでも言うのであれば、納得はしないけれど理解はします。だが聴取ができない理由にはならん。


「私にはあんなに大げさな連行をしといて、令嬢一人聴取を行わないとはどういう事です」

「だからだ、マーシャ」

「?」 

「強制的に召喚しないのは2つの理由がある。一つは、お前が強制連行され、その上暴行があったという事実から近衛に対する批判が強まっている。そんな近衛にバウワー伯爵家が令嬢の出向を拒んでいる」


 私という前例がある以上、暴行まがいの聴取を受けるかもしれないという疑念があるのは当然だ。聴取を受けたというだけでも娘の名に傷が付く可能性もあるのだ。貴族としても父親としても受け入れられないのは分かる。


「それに令嬢が心を病んでいるというのも否定はできない。お前が倒れたのを目撃したのはバウワー伯爵令嬢だからな」

「え?」


 そういえば女性の悲鳴が聞こえたような覚えがある。それがバウワー伯爵令嬢だったのか。


「頭から血を流して倒れたお前の姿にショックを受け床に臥せた、と言われては何も言えん」

「…まぁ、それはそうですが…」


 聴取室から出てすぐに気を失ったのだ。馬鹿でも聴取室で暴行を受けたと考えるだろう。16歳の令嬢がショックを受けるのは当然だとは思うけれど、でもやっぱり釈然としない。


「2つ目は、証言をしたというメイドが行方不明な上に、ダリル・ブレイスが密告をした『身分ある方』の名を明かそうとしない」

「行方不明…?」


 いつものような嫌がらせのつもりで行った証言が、これだけ大事に発展してしまったから逃げだしたのだろうか。


「『身分ある方』というのは王弟妃の可能性は?」

 

 王弟妃信奉者のブレイスの『身分のある方』と言ったら、最初に頭に浮かぶのはもちろん王弟妃プリシラ。けれどダグラス様は首を横に振った。


「否定はしないが、可能性は低いと俺は感じている」



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