第40話
お待たせしました(o*。_。)oペコッ
「ふ、ふふ、ふははははは…っ!!」
あら、失礼。淑女らしからぬ笑い声ですが今回ばかりは見逃して下さいませ。だって、とてもと~っても愉快な事になっているらしいのですよ、うふふふふふ。
聴取が行われてから5日。私は負った怪我の療養の為に実家の屋敷に戻っていた。額の怪我は血が多く流れたものの大した事はなかったが、肩の打ち身により2週間の自宅療養となった。
そして今日、ラウルと第4部隊に下された処分について、ダグラス様がわざわざ屋敷にお見舞いと報告を兼ねて訪ねてくれたのだ。
まず第4部隊全体の処分は見送りとなった。
今回の件はあくまでも一部の団員の暴走であり、第4部隊全体の責任は問えないと決定されたそうだ。私の疑惑が完全に払拭されていないのも理由の一つだった。納得がいかないと思ったものの、冷静に考えてみればさもありなん。
あの暴力男が証拠として並べ立てたものに、どれだけ私が論破をしても元が杜撰なのだから冤罪が証明されたという事にはならず、疑いが残るという話になったそうだ。もうちょっとしっかりした捏造証拠を持ってきてくれたなら、これでもかと言うくらい論破して身の潔白を証明できたというのに、全く以てままならないものだ。
だが暴力男を含めた騎士4人に関しては、極秘任務だという事にも関わらず、独断で騒ぎを大きくした事と、不当に私を罪人扱いし連行した事での処分は下った。首謀者の暴力男は私への暴行の件も含め、減俸に加え3か月の給料返上、無期謹慎だ。暴力男以外の3人は減俸と3か月の給料返上はブレイスと一緒だが、謹慎は3週間となった。ラウルの処分は部下への監督不行き届きで半年間の減給。そして全員分の給料差額分が私への治療費と慰謝料として支払われると決定された。
今の時点で私への疑いが完全に晴れていない以上妥当な処分ではあるが、私の気持ちとしては金銭より衆人環視の前で土下座して貰いたい。各家から謝罪の手紙が届いたが、プライドの高い騎士様には土下座の方がより屈辱的でしょうし。まぁ無理でしょうけど。
そして正式な処分は、私の冤罪が確定された時点で改めて下るそうだ。ラウルも含め、降格処分は免れないとの事。責任を取って貰うんだから当然だよね。私の冤罪は間違いないのだから、いずれは確定ですよ、降格。ふふ、自業自得です。
「楽しそうだな、おい」
ええ、とっても。とにっこり笑顔でお返事です。
「お前と付き合い長いが、そんな良い笑顔初めてだ」
ダグラス様が呆れた顔でそう言った。
「だって、もうすっごい愉快で仕方がありませんもの、うふふ」
私の笑いが止まらない本当の理由はここからが本番だ。
あの日、ダグラス様の話だと大変な騒ぎになったそうだ。
女性の悲鳴が聞こえたダグラス様が急いで聴取室前に行くと、意識のない私を抱えた書記官様とラウルが言い争っていたんですって。野次馬が集まっているなか、書記官様は私に対してのラウルの行為を非難してくれていたとか。おかげで、今王宮内ではその噂で持ち切りみたいですよ、ぐふふ。
『今までのグレイシス令嬢の悪評は、コールデン卿がわざと流したものだ』『婚約者を蔑ろにするなんて男の風上にも置けない』『爵位が上な事を良い事に、10年間も女性を縛り続けて都合の良いように利用し続けていた』などなど、他にも色々とバリエーションに富んだ噂がわっさわさ。それに比べ、私に対しては『酷い仕打ちをされてきたにも拘らず、一切それを表に出さずに王妃殿下に尽くす臣下の鑑』『自分を犠牲にしてまで婚約者を立ててきた健気な女性』と株は急上昇。ラウルの株は大暴落。
大分針のむしろの様で、相当参っているみたい。もう大爆笑し過ぎて、肩よりお腹が引き攣れて嬉しい悲鳴を上げている。私は10年間謂れのない悪評に塗れてきているのだから、たった5日程度で音を上げないで頂きたい。私の根も葉もない噂とは違って、事実位しっかり受け止めましょうね。因果応報です。ざまぁみろ、わはは。笑いが止まらない。
「ちょっと自重した方が良くないか…?」
顔が崩れてきてるぞ、というデリカシーのないダグラス様の事なんてご機嫌ですから、全然気になりませんとも。でも覚えておけ?
いや、でも本当に思わぬところから運が回ってきたよね。だってまさか、聴取室で話した内容が外に漏れるとは思わないじゃないですか。あの時は、ただ目の前の騎士に対して認識を改めて貰おうとしか考えてなかったのに、まさかまさかの展開。書記官様がどうしてそんな事を言ってくれたのか不明だけど、本当いい仕事してくれた。ありがとう、書記官様。名前も知りませんが、今度必ずお礼はさせて下さいませね!
「ところで、ダグラス様」
「ん? 気が済んだのか?」
いえいえ、まだにやけ顔は戻っていませんが。
「王弟妃宮の窃盗の捜査は結局どうなったのです?」
奴らを奈落の底に突き落とす為に、手っ取り早く真犯人を挙げて貰いたいのですが。
「あー、それな…。一応第4部隊が捜査を続行する事になってだな」
「はぁ!?」
処分は見送りだと言っていたけれど、捜査担当も外される事なく続行なんて如何なものですかね。
「……逆恨みでまた同じような事になったら責任取ってくれるんですか?」
愉快な展開になったものの、こんな茶番のような罪を着せられるのは正直嫌だ。絶対にない、と言えるほど第4部隊に信用は置けないし、今回はブレイス達4人の暴走だとしても、同類がいないとは限らない。むしろ絶対にいる。無駄に信者が多いのは知っているでしょう?
「それは大丈夫だ。今回の捜査の責任者は俺だからな」
「……という事は、第1部隊と合同捜査ですか?」
「そうだ。今回の件で第4部隊の問題が表面化されたからな…、テコ入れが必要になった」
わざわざ陛下付きの第1部隊が、王弟妃付きの第4部隊と合同で捜査する意味。
「あぁ…、そう言う事ですか」
第4部隊の忠誠心がどこにあるのか、という問題だ。もし忠誠心が王弟妃殿下にあるのだとしたら、第4部隊は再編成が必要となる。その為に国王陛下付きの第1部隊と合同で捜査するという名目で、隊員をふるいにかけるのだろう。
「ちょっと遅いくらいですよね」
隊長であるラウルが『悲恋の人』と呼ばれるくらい王弟妃に心酔しているのは今日に始まった事ではないし、その部下が上司に倣うのも当然あり得る話なのだから。本来、この問題が表面化される前に、近衛騎士団長であるダグラス様が処理しておかなければいけなかった事だ。
「悪かった、マーシャ」
額の傷を覆っているガーゼに、ダグラス様の指の甲が触れた。ダグラス様が怪我をした訳でもないのに、そんな痛そうな顔しなくてもいいのに。
「はい。その謝罪は受け入れます」
ダグラス様のせいじゃない、と言ってあげたいけれど、それはきっと望まないだろう。案の定、あっさりと謝罪を受け入れた私にダグラス様は納得がいかない表情をしている。
「これは私の自業自得な部分もあるんですよ」
あの時、火に油を注ぐような真似をしたのは間違いなく私だ。いくら論破が不完全燃焼で不満が溜まっていたとはいえ、侍女の立場でしかない私が言う事ではなかった。あの場を丸く収めるとまで言わなくとも、余計な事を言わなければ怪我を負う事もなかったとは思うのだ。だが後悔は全くしていない。
それに怪我をしていなかったら、こんなに私にとって有利な噂は流れなかったかもしれない。暴力を受けたおかげで、私は誰から見ても分かりやすく『被害者』という立場になり、ラウルら第4部隊が『加害者』となったのだ。正に、災い転じて福となす、でなかろうか。
「だが、しかしな…」
さっきまで私が愉悦に浸っているのをドン引きしていたダグラス様は、どこに行っちゃったんだか。
「もう、何がそんなに気になっているんですか?」
私がそれでいいって言っているのにねぇ?
沢山の応援、とっても嬉しいです。
感想も誤字脱字報告も評価も、ありがとうございます。
書記官人気が高くて面白いです。
そして、またまたレビューを頂きました。
狂喜乱舞してます、マジで。嬉し過ぎてどうかなりそうなレベルで(笑)




