書記官視点(タイトル未定)
沢山の応援ありがとうございます。
短いですが、閑話です。またタイトルが思い浮かばないので、このまま投稿です。
次回から後半入りまーす!!
本来聴取を行う際の書記官という立場は、あくまでも記録する為に立ち会いが必要とされている存在である。ただひたすら聴取に耳を傾け、事実の記録を書き記すのが役目であり、尋問に加わる事は無い。
尋問の最中、中には逆上して暴れだす罪人もいるが、騎士の前ではどんなに抵抗しても無駄な足掻きというもの。すぐに拘束され不利になるのは罪人の方であるのが常だ。
だが、今回暴れだしたのは罪人ではなく騎士の方。
思えば今回の聴取は最初から様子がおかしかった。立ち合いに必要な手続きを踏まなかった事だけならまだしも、聴取室に入室した際に参考人として呼ばれただろう女性が私に対して頭を下げ謝罪をした事。そして何より驚いたのが、その聴取の杜撰さだ。証拠ですらない暴論に暴言。これは聴取でも尋問でもない。ただの脅迫だ。
参考人として呼ばれた女性に懇々と諭されていく様子は、正直騎士らの態度を腹に据えかねていた分、胸がすく思いではあったが、まさか騎士ともあろう者が図星を指されたからといって手をあげるとは思いもしなかった。男の力で、ましてや騎士の力で壁に叩きつけられた女性の姿を目の当たりにして、恥ずかしながら身体が動かなかった。パシンというコールデン卿を払いのけた小さな音にハッとして、思わず手を差し伸べたのだ。
差し伸べた手の平にそっと乗せられた手は、とても小さくて華奢な手で、それにひどくショックを受けている自分がいた。
彼女の事は知っていた。いい意味でも悪い意味でも有名人だから、王宮内で知らない人はいないだろう。尋問の最中も、彼女は取り乱す事もせず、怯まず堂々としたもので、噂にたがわず豪胆な才女だと感心をした程だった。
だがしかし手のひらに伝わってくる震えと冷たさ、そしてふらつく身体を受け止めた時の身体の華奢さに、自分が思うよりずっと頼りない儚げな風貌をした女性だという事を知った。あまりにも自然に毅然とした姿勢を取る彼女に、今の今までその雰囲気に飲まれていたのだと初めて気付いたのだ。
ストン、と心の中に何かが落ちた、そんな気がした。
扉を閉めた後にかすかに聞こえた音と、彼女の声ではない悲鳴に、自分でも吃驚するくらい素早く身体が動いた。それこそ騎士であるコールデン卿より文官の自分が倒れている彼女を抱き起こせる程に。
彼女は血の気のない真っ白な顔で、額から真っ赤な血を流していた。そして悲鳴を上げたであろう令嬢が震えて座り込んでいる。
簡単な止血の為に慌ててハンカチで額を抑え、名前を呼ぶが反応は返って来ない。意識が全くないようだった。
婚約者であるコールデン卿が、意識のない彼女に手を伸ばしてきた時、払い除けたのは無自覚での行為だ。ただ、彼女はこの男に触れられたくはないだろう、そう思っただけだったのに。
なぜ、と言わんばかりの表情のコールデン卿に、医師を連れて来て欲しい事と、座り込んでいる令嬢の介抱を頼んだのは私にとっては自然な事だったが、彼は違った。婚約者である自分が介抱をするから彼女を渡せ、そう言ってきたのだ。
どの口がそんな事を、とめまいを覚えた。それと共にどうしようもない腹立たしさも。
彼らの間の事は、先程の聴取でのやり取りでの事しか知らない。けれど、それだけでもコールデン卿が彼女に対してしてきた事は、男として唾棄するべき行為だ。どんな事情があれども許される事ではないのだ。
書記官である職務範囲は越えた発言だという自覚はあった。彼らの事を噂以上に知らない私が言う事ではない、そう思う自分もいた。
だが、言わずにはいられなかったのだ。
私は、彼らの知り合いでも同僚でもない。本当に只の第三者だけれど。
─────卿に彼女の婚約者を名乗る資格があると思っているのか! 恥を知れ!!
令嬢の悲鳴を聞いた野次馬がいつの間にか集まっていた事など気付かずに、私はそう言い放っていた。
レビューをまた頂きました。
有難うございます!!!!!!!!




