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第37話

「…密告と証言が証拠だ…」

「……なんとおっしゃいました?」


 私の耳がおかしくなったのかな。あり得ない事が聞こえたけれど?


「…これが証拠の全てだと言っている!!」


 聞き違いじゃなかったー!!! プイって顔を背けて拗ねても全然可愛くないからー!!


「…本当に?」

「ええいっ、うるさい!! 証言は確かに使用人だが、密告に関しては身分のある方からのものだ。それが何よりの証拠になるじゃないか!」


 荒唐無稽な言い分が出てきた。それがまかり通るとでも思っているのだろうか。


「え…、と、それでしたら、証言、密告に関しての法的証拠となる記録はきちんと残してあるのですわよね?」

「そんなものはない。身分のある方からの密告だと言っただろう! 疑う余地はない!」


 そんな訳ないでしょう。むしろ身分があれば嘘を上手く使う事も必要になるし、嘘を吐かない聖人君子では身分は保てない。それが貴族社会だ。このぼんぼんめ! どれだけ優しい世界で生きて来たの、この伯爵令息は!


「……この程度の証拠で私を罪人だと決めつけたのですか?」


 あまりにも信じられなくて声が震えた。

 唖然としたのは私だけではない。書記官もラウルも、そしてブレイスの両脇と背後を固めていた騎士3人も信じられないものを見たような顔をしている。


「…ダリル、お前はこの女狐を追い詰める確実な証拠を掴んだと言っていたじゃないか。これでは、証拠どころか言いがかり以外の何物でもない!!!」

「我らが敬愛するプリシラ様と隊長を苦しめる諸悪の根源を懲らしめると大口叩いていたくせに、なんだこの様は!!!」

「もうお前だけの責任じゃないんだぞ。第4部隊の責任を問われるんだ。それを分かっているのか!!」


 こらこら、女狐だの諸悪の根源だの言いたい放題言い過ぎ。ここに本人いるからね。私に椅子に座るように誘導してくれた騎士だけは私を悪く言わなかったけど、連帯責任だから許してあげませんよ。

 そもそもブレイスを一様に責め立てているけれど、どういった証拠なのか確認もせずに話だけを鵜呑みにして私を懲らしめようとしたのだ。ブレイスは確かに浅はかだが、それは責任転嫁であって只の自業自得でしょうが。


「だがこの女狐が妃殿下に対し嫉妬をしているのは事実だ! 貴様は隊長が妃殿下の傍にいるのが嫌なのだろう! 隊長が嫌がっているにも関わらずみっともなく婚約者の立場にしがみ付いている位だからなっ!!!」


 とうとう、只の悪口で攻撃するしかなくなったのね。


「ダリル、止めろ」

 

 おっと、珍しい。ラウルが止めに入るなんて。どういった風の吹き回しですか。今までは私が何を言われていても放置だったのに。でも残念な事に興奮が過ぎて耳に入っていないようですよ。


「その程度の容姿で、見目麗しい隊長の隣に立てると思っているのか。プリシラ様に敵うとでも思っているのか。烏滸がましい。才女と呼ばれる事もあるようだが貴様など知識をひけらかす自己顕示欲の強い醜い人間でしかない。淑女の風上にもおけんっ。その醜い様が顔にも滲み出ているぞ!!!」

 

 はいはい。その台詞はラウルと書記官が来るまでに散々聞いているから、もうちょっと違う方向から攻めないと、言われ慣れているので傷付きませんよ。それより正面で暴言を吐かれるものだから唾が飛んで、そちらの方が不愉快である。俯いて顔にかかるのは防いでいるけれど、今度は髪に飛んできそうで気持ち悪い。


「ほら見ろ。事実だから言い返せないじゃないか。貴様のような生意気な女は隊長に似つかわしくないんだ。さっさと身を引けばいいものを、隊長が優しくするから図に乗りおって。身の程を知れ!!」


 いえいえ、言い返さないのではなく、貴方の唾から身を守ってるだけですから。


「いい加減にしろ」

「まだまだ言い足りません!」

「いいから、その口を閉じろ」

「なぜですか! こんな女を庇う必要はありません!! もっとはっきり言ってやるべきです!」

「黙るんだ」

「この女には思い知らせてやらねば!」

「黙れ、ダリル」


 延々と続きそうな言い合いにうんざりする。ちょっと口を挟んでもよろしいですかね?


「止めなくて結構ですよ、コールデン卿」

「マーシャ…っ」


 なんでそんな意外そうな顔をしているのでしょうね、ラウル。私が貴方達の言い合いを止めるのはおかしいですか?


「隊長は貴様を庇って下さっているのだぞ! なんだその可愛げのない態度は!」

 

 貴方も私を貶すその態度はぶれないね。それに一見そう思うかもしれないが、ラウルは決して私を庇っていたのではない。


「どうぞ言いたい事はおっしゃって。第4部隊の皆様が、私をどのように思っているのか分かりやすくてよろしいですわ。ブレイス卿以外の方も、女狐、諸悪の根源とおっしゃっていましたしね」


 ふふ、と左右の騎士に笑いかけると、さっと顔色を変えた。


「でも不思議ですわ。そう呼ばれる原因も、私が冤罪をかけられた原因も、事実とは異なる事で発生しているようですもの。ねぇ、コールデン卿?」

「…っ」


 ダリルの暴言を止めたかったのは、こうやって私が話を切り出してこないようにする為だよね。


「ハッ、何が事実と異なるだ。事実だろうが!」

「いいえ、私の事実とは違います」


 そう、私が妃殿下に嫉妬しているというのが事実として周知されているのが問題なのだ。


「やめろ、マーシャ。この件とそれは関係がないだろう」

「関係ありますわ。だってそれが私の動機として扱われていますもの。この動機を覆せば、間違いなく私の冤罪は確定ですわ。そうでしょう?」


 嫉妬から犯行に及んだというのなら、私が嫉妬心を持っていない事を証明すればいい。そうすれば、女狐や諸悪の根源などと言われる事もなくなり一石二鳥だ。


「そこまでしなくても、冤罪だった事は隊長である私が認める」

「隊長! まだ冤罪だと決めるのは早いです。処分を受けるのですよ。自供させればいいではないですか!!」

「彼女は無実だ。それにどう自供させるつもりなんだ。この程度の証拠で拷問にでもかけるつもりか! そもそもお前が勝手に第4部隊を巻き込んだせいだろう」

「ぐ…っ」


 そうそう。そうするように誘導したのは私だけど簡単に引っかかる方が悪い。でもそれだけではなくラウルの監督責任も重いと思うけれど。


「マーシャ。それでいいだろう?」

「嫌です」

「きちんと謝罪はする」

「それは当然です。私はまた同じような事が起こらない為にはっきりさせておきたいと申し上げているのです」

「責任をもって同じことが起こらないようにする」

「信用できません。だってコールデン卿は嘘つきですもの」

「……っ」


 反論はできないよね。正確には嘘つきとは少し違うかもしれない。ラウルがした事は、周囲が勘違いしていても何も訂正をしなかっただけなのだから。


「隊長を嘘つき呼ばわりするな!」

「ブレイス卿は黙っていて下さい」


 貴方の出番はもう終わりですよ。私が相手をするまでもない馬鹿で至極残念でした。おかげで鬱憤が余計に溜まって気分が悪い。


「コールデン卿は『そこまで』とおっしゃるけど、別に大したことではないでしょう。只、周囲の認識が間違っていると教えてあげるだけですわ。それとも何です。コールデン卿からしたら『そこまで』重大な事なのですか?」

「そうじゃない。これ以上は必要ないと言っているんだ」


 必死ですこと。でも必死になればなるだけ不審に思われるだけなのに、お馬鹿さんね。訝し気にラウルを見ている部下達の様子が分からないのかしら。でも止めてあげません。


 今日この場で、その間違った認識を正して差し上げます。


評価、感想、ご指摘、誤字脱字報告、有難うございます。

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