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第34話

「いきなり何事ですか?」


 敵意に満ちた眼差しを向けられ、問答無用な言い様に私は冷静を装い尋ねた。内心もちろん業腹である。


「貴様にはある事件の嫌疑が掛かっている。大人しくついてこい」


 ある事件の嫌疑。

 まさか、と思い騎士の胸元にあるエンブレムを見ると、そこには第4部隊のマークがあった。


「身に覚えのない嫌疑でついてこいと言われましても、承知いたしかねます」

「とぼけても無駄だ。王弟妃宮の宝飾室への侵入、更には窃盗。知らぬとは言わせんぞ!!」


 知りませんがー??? と叫びたーい!! 

 呆れるにも程があるでしょう。私に窃盗の罪を着せてくるなんて何事よ。しかも大声で言い切ったし、馬鹿なんじゃなかろうか、この男は。


 ライニール様から聞いた話では、私の推察は大まかな所では外れていなかったようだが、細かい部分は不明であると言っていた。そして王宮内の不祥事ゆえに、第4部隊の極秘捜査で進められるとも聞いた。だから対外的に私はその件を知らない事になっているし、ましてや公表されていない事をバカみたいな大声で叫ぶなんて、極秘捜査の意味を知っているのだろうか。


 案の定、集まってきた野次馬令嬢達は「まぁ、盗みですって!?」やら「プリシラ様の宮から…」と囁いているではないか。更には「ラウル様の婚約者の…」「例の噂は本当でしたのね…」とまで聞こえてくる。


 その声に、大声で叫んだ騎士の口元が僅かばかり上がったのが分かった。


「大人しく従った方が身の為だぞ」


 勝ち誇った表情で私を見下ろすその顔には愉悦が混じっている。


 なるほどね。極秘捜査にもかかわらず、こんな人目の多い場所でこの発言は、私を陥れる為にわざわざ狙ってきたという事か。


 ほぉ、その喧嘩、喜んで買おうじゃないの。


 横目で近づいてくるダグラス様の姿に、私は僅かに首を振り口出し無用のサインを送る。彼ならば、これだけで私の意を汲んでくれるだろう事は、長年の付き合いで分かっている。


 私は威圧をかけてくる騎士に、負けじと微笑みを浮かべながら見返した。


「それは任意ではなく、強制という事でしょうか?」

「つべこべ言わず、貴様は黙って言う事を聞いていればいい!」


 どうして私が黙って言う事を聞かねばいけないのか。


「お断りします」


 ぴしゃりと私は言い返す。


「貴様に拒否権はない」


 そんな訳ありませんから。何様だ、こいつ。


「協力を願うのならまだしも、私を犯罪者のように扱うのでしたら、それ相応のご覚悟があってのことなのでしょうね」

「侍女の貴様如きを連行するのに、何の覚悟が必要だというのだ。笑わせるな」


 はんっと男は鼻で笑うが、こちらの方が笑い返してやりたいですが?

 確かに私は侍女だ。だが王妃付き筆頭侍女で、れっきとした高級女官である。役付きでもない一介の騎士に『如き』と言われる謂れも、上から命令される筋合いもない。私に命令出来るのは王妃殿下のみ。私は王妃殿下の命令以外を拒否する権利が与えられている。それが『王妃付き』という意味だ、馬鹿者。そんな事もわからないのか、この男は。


「そこまでおっしゃるという事は、言い逃れ出来ない確固たる証拠があっての事と理解しても?」

 

 あるんだよね。私がぐうの音も出ない証拠が。そうでないと、私を強制的に連行する事は不可能なのだから、強気に出られる訳がないよね。


「当然だ!」


 ふぅん、どんな証拠なのでしょうね。まぁ、間違いなく捏造だろうけれども、そんなに自信があるというのなら見せてもらいましょうか、その証拠とやらを。


「なれば、その確固たる証拠で私を罪人だとみなす。それは近衛騎士団第4部隊の総意と受け取ってもよろしいですか?」


 つまりは部隊全体に責任がかかるという事ですよ。ちゃんと理解して答えて下さいね。


「いいだろう。これは第4部隊の総意である!!」


 きっぱりと答えた男の後ろにいた騎士が「おい、勝手に何言っているんだ」と狼狽えた様子を見せた。


 はっはーん。やっぱりこいつら独断で動いているんだ。もしかしたら、そうかもしれないとは思っていたけれど、後ろの3人の狼狽え方からして、リーダー格の男には決定権はないのは明白だ。見た事のない顔だしね。偉そうな態度をとる所を見ると伯爵家以上のご子息だろうが、騎士としての新人なのだろう。

 でも、もう発言してしまったからには撤回は利きませんよ。だってここに居る人全員が聞いているのだから今更無駄です。


「かしこまりました。そこまでおっしゃるのでしたら同行いたしましょう」


 その言葉に周囲がざわつく。


「ですが、私は罪人として同行するのではありません。身の潔白を証明する為に同行する事をお忘れなく」


 罪を認めたと思っている方々がいるようですが、勘違いされては困ります。


「そして証明された際は、もちろん相応の責任を取ってもらいますよ。よろしいですね、第4部隊隊長殿!!」


 遅ればせながらやってきたラウルに、私は振り返り言い放つ。答えなど待たないし、もちろん有無など言わせたりしない。


「まっ…っ!」「ここにいる皆様もお聞きになりましたね。私の嫌疑が晴れた際には、第4部隊隊長ならびに第4部隊に責任を取って頂きます。皆さまはそれの証人です」


 発言しようとしたラウルの言葉を遮って、声を張り周囲を見渡した。困惑した様子を見せる人、しっかりと頷く人、そして興味深そうにしている人がいる。


「あい分かった。この件、冤罪だと分かった場合、近衛騎士団団長ダグラス・ウォーレンが責任をもって適した処分を下そう」


 そう言ってくれると思っていましたよ、自称お兄様。これでもう撤回できないね、ざまぁみろ。

 ダグラス様は素早く駆け付けたというのに、のんびりしていて遅くなった自分が悪いんですからね。さらに言えば、部下を御しきれなかったご自分を恨んで下さい。


「私は逃げも隠れも致しませんわ。さぁ、参りましょうか」


 どんな証拠を出してきてくれるのかな。全て論破して見せましょう。私に罪を擦り付けようとした事を後悔させてあげます。



 あー、楽しみー(怒)!!!


感想・誤字脱字報告ありがとうございます。


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