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第13話

大変お待たせしました。

 庶民街とは通り名であり平民が住む地域だ。中央公園東側に位置して、花園入口から徒歩10分程だろうか。それから目的の店までさらに10分程。計20分歩かなくてはいけない。

 もちろん馬車を使うというのも手ではあるが、貴族街でならまだしも歩いていける距離で庶民街に行くのはあまりお勧めしない。基本的に平民は徒歩での移動が常であり、少しの距離でも馬車を使うのは貴族が多い。庶民街に足を踏み入れる事を嫌う貴族がいるように、平民もまた貴族が来ると敬遠する傾向が未だにあるのだ。

 10年前に比べたら随分その傾向も少なくなりはしたのだが、根強く残っているのは仕方がない事なのだろう。


 もちろん私達も徒歩で店へと向かった。その道すがら、ライニール様と並んで会話を交わしながら歩く。


「2本の虹をご存じですか?」

「2本、ですか?」

「はい。主虹と副虹というものがあって、色がはっきりとしているのが主虹ですね。副虹はとても光が弱くて薄いため、条件が良い時しか確認できないようです」

「まぁ、なかなか見る事ができないのですね」

「えぇ、ですから条件が重なり、見る事が出来たら幸運が舞い降りてくる、とも言われています」


 来る前は気が進まなかったのが嘘のように、会話が弾んだのはいい事だけれど、私はライニール様の紳士然としたエスコートにむず痒さを感じてしょうがなかった。


 会話が弾むのは、女性ならば興味がありそうな内容で話を振ってくれているから。行く道はなるべく日陰を選び、人通りが多い道に入れば私を守るようにさり気なく誘導する。デート経験のない私では説得力がないかもしれないが、生まれてから25年、こんな完璧なエスコートを受けた事は未だかつてない。普通の令嬢なら違和感を感じる事はないし、それを居心地の良いものとして当たり前に受け取るだろう。


 私とライニール様の付き合いは、彼が第1部隊副隊長時代から現在までの4年にも満たない程度だ。その間、このような扱いを受けた事は無く、常に仕事上で一定の距離を保ちながら接していたので、どうしても違和感を感じてしまう。そして何より、これだけ女性の扱いに長けているのに、彼が独身な事が不思議でたまらない。

 四男とは言えども、騎士を輩出してきた由緒正しき伯爵家子息で、只今現在王妃付き近衛隊長という階級を得ていて、銀髪碧眼の銀縁メガネが非常に似合う美青年ですよ。道理をわきまえた分別のある公平な人で、多少神経質な所はあるものの、性格的にも何も問題ない。ラウルなんかより絶対にライニール様の方が良いと思うのだけれど、世の中のお嬢様方は何をしているのかね、こんな好物件を放置しているなんてけしからん。いや、もしかしたら、とんでもなく理想が高くてお眼鏡に適う女性がなかなか見つからないのかも。そちらの理由の方が納得する。


「私の顔が何か?」

「いえっ」


 ついうっかり顔をじっと見てしまったせいで、ライニール様に不審に思われてしまった。


「あの、今日は髪を下ろしてらっしゃるんだなぁ、と思いまして…」


 慌てて探した理由がそれだ。でも嘘ではない。普段オールバックなのに今日は髪を下ろしているので、いつもより雰囲気が柔らかく見える。


「雰囲気が随分と違いますので、なんか不思議な感じがして…」

「あぁ、今はプライベートですから。変ですか?」

「そんなまさか。少し慣れないだけです…」


 慣れないのは髪型だけではなくて、今日の貴方のその態度全てなのですが。とは口にできない。しかもプライベートって違うよね。マイラ様からのお願いという名の命令だよね。付き合わせて本当に申し訳ない。


「それは良かった。そういう貴女も今日は雰囲気が違いますね」

「えぇ、今朝マリィが化粧をしてくれたので」

「とてもお似合いで素敵です」


 にっこりとお嬢様方がとろけそうな笑顔で褒められました。

 マリィの腕が良いのですよ、と言いそうになってぐっと堪える。流石にそれは可愛げがなさ過ぎるだろう。せっかく褒めて下さったのだから素直に受け取ればいいのに、どうしても捻くれてしまう。素直に喜ぶ事が出来なくて、もにょもにょとした微妙な気持ちになってしまって、どうすればいいのか困ってしまう。


「…まぁ、ありがとうございます」


 無難にそう言うしかなかった私に、ライニール様も少し微妙そうな表情をした。


「……」

「…ふむ」


 ライニール様が何かを考えている仕草にビクッと肩が揺れた。せっかく気を遣ってくれていたのに、私の態度があれで怒らせてしまっただろうか。


「なんというか…君は本当に難儀ですねぇ」

「…え?」


 恐る恐る顔を上げると、苦笑を隠しもしないライニール様がいた。


「落ち着かないのでしょう?」

「………申し訳ありません」


 バレているのなら隠しても無駄だ。素直に頷く。


「君が謝る事ではありません」

「ですが…」


 素直に単純に、そうマリィに言われていたのに全然ダメだ。


「私が少々間違えてしまったのです」


 間違えた、という言い方をするライニール様だが、私には意味が分からなかった。


「勇み足…でしたね」

「え?」

「君は気にしないで下さい」


 そんな事を言われても、何を言っているのか分からないのだから気になってしまう。何を間違えて、何を勇み足したのかさっぱりだ。


「少々、趣向を変えてみましょうか」

「はい?」


 もう、どうしよう。本格的にライニール様の言動の理解が追い付かない。


「私は恥ずかしい事に庶民街は詳しくありません」

「えぇ、はい…」


 恥ずかしい事では決してないでしょうに。ライニール様は生粋の貴族なのだから詳しい方が吃驚する。まぁ、一通り地図は頭に入っているでしょうが、お店などの詳しい情報は知らないだろう。


「格好良くエスコートしたかったのですが、残念な事にできそうにありません。ですので、君が私をエスコートしてくれませんか?」

「私がライニール様を…ですか?」

「えぇ」


 それでライニール様は良いのだろうか? 

 確かに私の方が絶対に詳しいと思うし、元々お土産を購入する店には私が案内するつもりだったので、その方が楽と言えば楽だけれど、男性の面子的に大丈夫なのだろうか。私に気を遣い過ぎてはいないだろうか。

 そう思ってライニール様の顔を見つめるも、楽しそうな表情を浮かべている。


「楽しませてくださいね」


 半歩程下がったライニール様がそう言った。

 にっこりとした笑みが、先程のとろけるような笑みとは別の見慣れたもので、なぜかホッとして肩の力が抜けた。


「分かりました。頑張りますね」


 ライニール様がそう望んでくれるのなら、全力で対応してみようではありませんか。

 素直に単純に、頑張りますとも。 

レビューを頂きました。有難うございます!! 

狂喜乱舞だぜ、コンチクショー!!!!


で、登場人物の容姿について表記が欲しいとのことでしたでので、本文に少しづつ加筆していきます。


とりあえずライニール様だけ。

銀髪碧眼のオールバックの銀縁眼鏡です。

碧眼に関しては、アイスブルーです。

ラウルの碧眼ですが緑がかった青です。


どこかで、まとめてみますね。

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