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第12話

 ライニール様との待ち合わせの場所は、城下町中央に位置する公園だ。そこにある待ち合わせスポットの噴水、ではなく、やや外れにある花園入口だ。こちらも隠れ待ち合わせスポットらしいが、季節が少々外れている為か人は疎らだ。


「おはようございます、ライニール様。お待たせして申し訳ございません」


 待ち合わせ時間より結構早めに到着したのに、すでに待っているライニール様に慌てて駆け寄り、頭を下げた。


「いいえ、想定内です。おっと、『いいえ、私も今来た所です』でしたでしょうか?」

「え、何ですか、それ?」


 言い換える意味が分からない。

 きょとん、と聞き返す私に、ライニール様はクスクスと笑いだす。


「いえですね、恋人達がデートで待ち合わせをする際のお決まり会話だと聞いたので、せっかくなので使ってみようかと」

「そうなのですね。初めて知りました」


 世の中の恋人達はそんな会話をしているかと感心した。でも先に待っていたのに「今来た所」って変じゃない? 気を遣わせない為とか? 遅れてきた恋人を気遣うならわかるけれど遅れた訳でもないのに不思議。様式美的なものなのだろうか?


「ライニール様はお使いになった事がなかったのですか?」


 せっかくだから使ってみよう、と言う位だから今まで使う機会がなかったのだろう。ライニール様なら私と違ってデートの一つや二つくらい余裕でしょうに。


「待ち合わせというのが初めてでしたから」

「あぁ、そうですよね。普通は令嬢のお屋敷に迎えに行くものですものね」

 

 いけない、いけない。ライニール様は伯爵家ご子息なのだから、庶民のように待ち合わせはないよね。普段は休みとなれば何かと呼び出され、待ち合わせする事が多いものだから失念していたわ。あれ、おかしい。それだったら私も子爵令嬢なはずなのだけどな?


「まぁ正直な所、待ち合わせ場所を指定された時には驚きました。貴女の私室までとは言いませんが、近くまで迎えに行くつもりでしたから」

「それはお気遣い頂きましたのに、申し訳ございません」


 口ではそう言うものの、待ち合わせ指定して良かったというのが正直な所だ。もし私服姿のライニール様に迎えにきて貰った所をスズメ達にでも見られたら、また余計な噂が流される所だったわ。うん、待ち合わせ正解。まぁ、ライニール様だったらある程度は配慮してくれるとは思うけれどね。


「いいえ、謝る事ではありませんよ。待ち合わせも新鮮で楽しいものでしたから」

「そう言って貰えて良かったです」


 気分を悪くしたわけではないようで助かった。むしろ楽しんで頂けたみたいで何より。


「そう言えば、貴女はご存じでしたか?」

「何をでしょうか?」

「ここを、です」

 

 ここ、と言って地面を指すライニール様。地面ではなく待ち合わせ場所であった花園入口を指している。


「ここ、ですか?」


 何も考えずいつも待ち合わせに使う場所を指定しただけで、ここに何かの意味でもあるのだろうか。ライニール様は意味深気に私に言った。


「花園の閑散期に限った事らしいのですが…」


 ライニール様は声を潜め、少し屈み耳元に顔を寄せた。


「『秘密の恋人達の待ち合わせ』に使われるそうですよ」

「まぁ‥‥っ」


 秘密の恋人達。それはなんてスズメ達が喜びそうな単語ですね。という事は、今も秘密の恋人とやらが待ち合わせをしているのだろうか、と思い不審に思われない程度に周囲を見やるも、該当しそうな二人組は見つからない。というより、疎らと言え人はいるのだから、密会するには向かないような気もする。しかも閑散期に限ってという事は、繁忙期には秘密の恋人達は別の場所で落ち合うのか。


「ふむ……これは手強いですね」


ボソリ


「はい? 何かおっしゃいました?」

「いいえ、何でも」


 あら、そうですか? 何か聞こえたような気がしたのだけども気のせいだったようだ。


「ライニール様はこのようなお話にお詳しいのですか? なかなか意外です」


 堅物とまでは言わなくても、どちらかと言えば硬派で、ゴシップ的なものに興味があるとは思わなかった。むしろ嫌いな話題だと思っていた。


「人並みに知識として知っておくのは損にはなりませんからね。時に思わぬ所で役に立つ事もあるので」

「役に立つ…勉強になります」


 役に立つ事があると。一体どんな時に役に立つのか聞いてみたいものだ。


「貴女はよくここを?」

「そうですね、ここが丁度、貴族街にも庶民街にも行くのに都合が良いもので」

「では本日は…」

「下町、庶民街のお店に行く予定です」


 孤児院へのお土産に持っていくものを購入しに行くのだから、貴族街のものなんて必要ない。孤児院の子供達が大人になって、少し頑張れば手に入るような、そんなものが良い。


「お嫌ではないですか?」


 一部の貴族には庶民街に入るのをひどく嫌う人もいる。ライニール様は大丈夫だとは思うけれど、念のための確認だ。


「とんでもない。デートは女性が望む所へお連れするのがベストですからね。何の問題もありませんよ」


 おおっと、デートときたか。まぁ、男女が二人で出かけると言ったらデートかもしれませんが、別にマイラ様からエスコートを頼まれたからって、私に気を遣わなくていいのですよ。

 

「ふふ、デートという名のお使いですけどね」

「いえ、お使いという名のデートですよ」


 んもうっ、任務に忠実なのも考え物ですよ、ライニール様。


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