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第45話

 夜も更けた深夜、私は自分の悲鳴で飛び起きた。


「は、っ……はっ、は……っ!」


 心臓が五月蠅いほどに鳴っている。息は弾み、翁が用意してくれた夜着は汗でぐっしょりと濡れていた。どうりでやけに喉が渇いているはずである。

 私は息を整え、サイドテーブルに置かれている水差しを手に取った。震える手で何とか水を注ぎグラスを口に運んだ。ほんのりと冷たい水が喉を通り体中に染み渡っていく。そこでやっと私はほっと息を吐くことが出来た。


「……全く、嫌になるわ」


 心底、そう思った。思い出すのは翁の話した元王太子の『呪い』だ。


「簡単に呑み込まれるんじゃないわよっ!」


 呪いなんてないと何度も否定しておいて、まんまと悪夢をみて飛び起きるとは我ながら情けない。


「大丈夫、私は大丈夫よ」


 だってほら、今の私は悪夢に怯えているというより己の情けなさに腹を立てている。『呪い』なんてくだらない物に飲み込まれてやるものですか。百万歩譲って翁が言うように元王太子の『呪い』とやらに掛かっていたとしても、そんなものには負けない。元王太子の『呪い』だなんだ。死人より生きている人間の方がどう考えても強いに決まっているんだから負ける道理がない。元王太子も呪いという文句があるんだったら生きている内に言いなさいよね、言えるものならね、ふん!


「あー、もう嫌ね。目が冴えちゃったじゃないの」


 誰に言うでもなく文句を呟き、私はストールを手に取った。これも翁が用意してくれたものだ。廃村でひっそりと生活をしていた割には手触りのいい上等物のストールである。元とはいえ、さすが王族が使用していた物だ。私はそれを羽織り静かに部屋の外に出た。夜も深く、屋敷は不気味なほど静まりかえっている。けれど窓から差し込む月明かりで全く恐怖を感じなかった。

 階下に降り、目指すは炊事場。水で喉は潤ったものの、目が冴えてしまった私が求めるものは温かいお茶だ。就寝する前に翁が「ご自由に」と案内してくれたお茶が保管されている棚に私の好きなハーブティーがあるのをしっかりとチェックしていたのだ。有り難く頂戴しよう。私のこの荒んだ心をハーブティーで癒して欲しい。

 そわそわと足早に向かうと、炊事場から明かりが漏れているのに気が付く。


「あら?」


 こんな夜更けに誰だろう、と私は不思議に思いながらそっと炊事場を覗き込んだ。そこにいたのは、お湯を沸かそうと鍋を火にかけているキースの姿あった。


「来たか」


 キースはこちらを見て驚きもせずにそう言った。


「来たかって、私が来ることを分かっていたの?」

「予想はしてた」


 つまり私が魘されると予想していたから驚かなかった、と。


「それはそれで腹が立つわね」

「拗ねるなよ」

「拗ねてないわよ」


 癪に障るだけだ。


「じゃあ膨れるなよ。頬がまんじゅうみたいだぞ」


 そう笑われて頬に手を当てて自分で吃驚。無意識のうちに頬を膨らませていた自分に顔が真っ赤になったのが分かった。


「きぃ…っ!」

「くく、唸るな、唸るな。ほら、俺様自ら淹れてやったお茶だ。有難く飲めよ」 

「言い方が気に食わないぃ!」


 恥ずかしい上に腹が立つ。


「いらないのか?」

「いるわよ!」


 誰も飲まない、なんて言ってない。しかもしっかりと私が飲みたいと思っていたハーブティーだ。腹が立つがお茶は飲みたいに決まっている。私は喉を鳴らして笑うキースをキッと睨みながら差し出されたカップを受け取った。キースの淹れてくれたハーブティーに鼻を近づけ香りを楽しむ。うん、良い香りである。不本意だけどキースのくせにお茶を淹れるのが上手じゃない。


「褒めてくれても良いぞ」


 ニヤニヤと催促するキースは気に食わない。気に食わないが、だがしかし。


「おいしいわ。ありがとう」


 憎まれ口を叩くその裏で、実は優しくされているのはきちんと分かっている。


「そう素直だと逆に気持ち悪いな」


 そう言いながらも口元ゆるゆるなんですが? まぁ、いいけど。


「溢すなよ」

「子供扱いしないで」


 一つとは言えキースの方が年下だ。


「何よ、その目」


 じとーっとした視線。もう何度こんな視線を向けられただろうね。いい加減飽きてきた。


「言いたいことがあれば言えば?」


 受けて立つわよ、この野郎。と戦闘態勢を取る私にキースは肺の空気を全部吐き出すような溜息を吐いた。


「……よく分からなくなった」

「何がよ?」


 主語がない、主語が。そんなので会話は成り立ちませんから。


「子供扱いするなと言うが、お前はどう見ても十代の小娘しか見えん。更に手も早いし足癖も悪い、口も立てば喧嘩も早い悪ガキだ」

「悪ガキって失礼ね、応戦してきたのはどこのどいつよ」


 いくら私が生意気だったとしても騎士たる者が女性に手を上げるなんて言語道断である。キースにだけは言われたくない。


「それは悪かったって言っただろう。どうかしてたんだよ、俺も」

「どうか、ねぇ?」


 何よ、その言い訳になっていない言い訳は。まぁ、私も大人気なかったとは思うけれども。


「そういう所だ。俺様にそんな態度をするのはお前くらいだぞ」

「あら、それは申し訳ありませんでしたわ。今後は改めますわ、ほほほ」


 イラッとしたので淑女モード発動である。というか私だってキースが淑女扱いしてくれれば相応の対応をするのだ。私を軽んじるから同じように敬意を持って接したいとは思わないだけである。


「だからそれは止めろと言っているだろ、気持ち悪い」

「じゃあ文句を言わないでよ」

「文句じゃない。ただな、お前といると混乱するんだよ」


 だから何が分からなくて混乱しているのよ、と私はキースを見上げた。


「貴族令嬢らしからぬ振る舞いをするかと思えば、こちらが吃驚するくらいの教養の高さを見せてくる」

「それで?」

「不本意だが、俺様のマーシャリィ・グレイシスがお前に被って見えることもある。とてつもなく不本意だがな!」


 不本意を二回も言ったわね、しかも強調したわね、嫌みたらしい。キースの言うマーシャリィ・グレイシスなんてこの世に存在してないのよ、はい、ザンネーン!


「信じないのは結構だけれどね、約束は守ってもらうわよ」

「分かってる。約束は守る。だがそうじゃなくてだな」


 キースは頭がガシガシと搔きむしり苛立った様子を見せる。


「もう、さっきから何が言いたいのよ。簡潔に言いなさいよ、簡潔に」


 私が貴族令嬢に見えないからマーシャリィ・グレイシスだと信じられないと言うのは、もう聞き飽きたわよ。


「少しは大人しく聞けよ。それとも『呪い』のせいでそれが出来ないのか?」

「っ違うわよ!」


 確かにイライラはしているけれど断じて『呪い』なんかのせいではない。私は自分を落ち着かせる為にキースの淹れてくれたハーブティーを口に運ぶ。うん、美味しいし良い香りだ。


「どうぞ続けてちょうだい」


 もう余計な突っ込みはしないわ。『呪い』なんてもののせいにされたくないし、仕方が無いから我慢してあげる。


「だからな、俺様は考えた。貴族令嬢でも庶民でもないのなら裏稼業の人間じゃないのか、とな」

「えー……」


 考えて出た結論がそれってどうなんだろう。思いっきり顔は歪んじゃったよね、うん。


「まぁ聞けよ。お前と俺様が初めて会った時の事を覚えているか?」

「当たり前でしょ」


 シエルを庇って崖から落下した時のことだ。それはたった数日前の出来事で、落下中、生存の可能性に目を開けたら、とんでもない美形が飛び込んできて忘れようのない衝撃があったのだ。とはいえ中身を知った今は美形度半減しているけれど。


「お前の目は死を覚悟したものじゃなかった。崖から落下しているという状況で、だ」

「さすがに直前までは覚悟してたわよ。でも水の音で川が流れているのに気が付いたら希望も湧くってものでしょう?」


 私はそう言うが、キースは大きく首を横に振った。


「それだけじゃない。お前は水の中で力を抜き俺に身体を任せてきた」

「そうしなきゃ、助けに来てくれた人を道連れにしてしまうじゃないの」

「それが頭で分かっていてもそう簡単にできることじゃない」

「んー? それはそうかもしれないけれど…?」


 どうしよう。キースの話の意図が分からない。


「あの状況下でそんな対応が出来るのは訓練を受けたことがあるからだろ。裏稼業の人間なら変に敏いのも、学者しか読みそうにない文献の内容を知っているのも説明がつく」


 だが、とキースは今まで以上に無い深いため息を吐いた。


「それにしては我が強い。その上、初心(うぶ)で間が抜けてるとか裏の人間が務まるわけがない」

「う、うん?」

「裏稼業の人間てのは自分の感情を表に出さないものだ。ましてやお前のように表情をくるくる変えたりしない」

「演技かもしれないじゃない」


 裏稼業の人間だったら演技くらいお茶の子さいさいでしょうに。


「顔だけならまだしも、何を考えているのか丸わかりなのはお前の目だよ。もしこれが演技だったとしたら、俺様の目を欺ける手練れの人間ってことになる。だが、お前はどう見てもそんな風には見えない」

「えー…」


 裏稼業の人間ではないとはえ、こちらとら十年ほど王宮に勤めているのだ。ポーカーフェイスはお手の物なのに大変不本意である。


「おかしいわねぇ」


 以前ライニール様とデートという名のお使いの時に似たようなことを言われた。バチンと小気味良いウインクを飛ばしてきたライニール様を思い出して、やはり私は首を傾げる。

 だってライニール様にはそれは信用している人の前だけで、それ以外には立派な眼鏡を付けている、とも言われたはずなのに。

 私はお茶を一口含み、そしてまたキースの顔をじぃっと見つめてみる。


「何だよ?」


 その視線にキースが気味悪げに顔を歪める。


「いえ、別に」


 そう言って私はまたお茶を一口飲む。

 別にキースを信用していないとは言わない。あぁ違う、私が信じているのはクワンダ国近衛騎士隊長という肩書きだ。それがなければ命を助けられたからと言って信用していない。それなのにライニール様曰く立派な眼鏡が紛失しただと?


「一体どこに落としてきたのかしら?」


 なんて冗談交じりに呟いて笑えれば良かった。けれどどうしてだろう。胸の中に違和感が残る。


「どうした?」


 私の顔を覗き込んだキースの顔が視界に映り、私は首を横に振る。そしてキースにむかって口を開こうとして、


「いえ、何か変な感じがしただけ」


 この覚えのある違和感はリオ達と会った時に起こったフラッシュバックの時にもあったものだ。


「なあに、その顔?」


 だがそれを知らないキースの瞳は不安げに揺れている。


「……馬鹿ね、言っておくけど『呪い』なんかじゃないわよ」


 私は苦笑を隠しもせずにそう言った。けれど『呪い』じゃないと否定しても、キースの顔が納得はできないのだと思う。この付きまとう違和感の正体が分かれば、そしてそれをキースに話すことが出来たなら、少なからずこの症状に理解は得られ、また安心もするだろう。でも私にはそれを口にすることが出来なかった。それはキースが他国の人間だからという理由だけではないのを頭の片隅でなんとなく感じていた。


「心配いらないわ。私なら大丈夫よ」


 だからそんな顔しないでよ、と私はキースに微笑みかける。


「……なんでそんなに強くあれるんだ?」


 心配と疑問の入り交じった声音でキースは言い、私はそれに肩を竦めて答えた。


「…………お前が本当に分からない」

「私をこれ以上知る必要がある?」


 必要以上に親しくなる理由はない。どうせ事が終われば個人間での関係は一切なくなるのだ。私とキースの間に必要なのはクワンダ女王陛下の名の下にある協力関係だけでいい。


「頑なにマーシャリィ・グレイシスだと認めないくせに笑わせてくれるわ」


 そう鼻で笑う。キースの事だから何か反論してくるかと思いきや、何も言わずに私を窺うような視線を向けて、


「だから知りたい。どんな生き方をしてくれば、お前みたいなアンバランスな女が出来るのか」


 キースの今までに無いほど静かな声音と眼差しで言った。


「どんなと言われても……どんな、ねぇ……?」


 単純な疑問なのか、もしくは本当に私という人間に興味があるのか。それは私には判断が付かなかった。何よりだ、キースの問いにどう答えればいいのか、自分自身の事だというのに言葉に詰まってしまう。


「私は……そう、一生懸命生きてきただけだわ」


 蘇る記憶はマイラ様の侍女として生きてきた十年間だ。けれどそれを知らないキースには理解は出来ないだろう。案の定、彼は不可解な面持ちで私を見つめている。


「貴族令嬢のままだったら、今私はここに居ないわ。生き抜くために、守り抜くために私は変わったの」


 そこには出来る出来ないという選択肢はない。やるしかなかった。どんなにはしたないと苦言を呈されても、小賢しいと蔑まれても、私は生き抜くための手段を貪欲に求めたのだ。


「普通に生きていたいとは思わなかったのか?」


 そう言われて、普通ってなんだろうか、と考える。今の私が貴族令嬢として規格外なのは、周囲から散々言われてきたし自認もしている。つまり規格外になる前の私が元々進む予定だった道を歩んでいたら、と考えた瞬間、


「冗談じゃないわ!」


 思わず大きな声が私の口から飛び出した。

 キースがいきなりの大声に驚いたのは分かっていたが、あふれ出た憤り言葉が溢れ出す。いつもの私ならここで思い(とど)まる所なのに、どうしてだろう、全くと言っていいほど口は閉じてくれない。


「もし私が『普通』を選んでいたら、あの脳内お花畑野郎と結婚まっしぐらだったのよ。冗談じゃないわ、気持ち悪い。なんで余所の女性に心を寄せているクソ野郎となんか結ばれなきゃいけないの!」


 しかも、だ。あのクソ野郎と婚姻を結んでいたなら、間違いなく夫(とか想像でも言いたくない)の想い人である王弟妃に夫婦で仕えることを望まれただろう。そしてそれは間違いなく拒めない。うっわ、最低最悪、気持ち悪ぅ!


「百歩譲って……いいえ、全く譲れないわね。譲れはしないけど、確かに恋に落ちるって自分でもどうしようもないことだって言うことくらいは知っているわ。でもね、人間には理性ってものがあるのよ。本能に負けてどうするの。相手がいることなのよ、自制くらいしなさい、子供じゃないのよ⁉ どうしても気持ちを隠し通せなかったのなら、まず誠意を見せるべきでしょうが、誠意を!」

 誠意どころか謝罪の一つもないなんて、あいつの騎士道は何処(いずこ)よ? 


「それだけなら未だしも、やっと破棄出来たのになんでまだ私に付き纏うかな、あのど屑ノータリン共は‼」


 厚顔無恥にも程があるがでしょう! 私はそんな暇じゃないのよ、うっとおしいったらありゃしない。


「しーかーも、私とダグラス様があらぬ仲だと盛大な勘違いなんてしやがって……っ!」


 お口が悪いことは重々承知だ。でも止まらない。


「ダグラス……、もしかしてダグラス・ウォーレン殿か?」

「そうよ。クワンダ国でもその名は知られているでしょう?」


 私が直接的に知るダグラス様がどんなにアレな性格だとしても、他国でも名高いグラン国屈指の剣士だというのは事実なのだから。


「彼とお前が?」

「だーかーら、クソ面倒くさい勘違いをされて大迷惑だって話! 私はアレらとは違うのよ。ちゃんと理性の利く大人なの! もう、いやいやいやいや、鳥肌止まらないんですけど、冗談でもそんなこと言わないでちょうだいよ。うわぁ、本当にやだ。ないないないない、あり得ない。いやぁあ!」


 もう嫌悪とかそんな生ぬるいものではない。きちんとした婚約者(相手)がいながら簡単に心を移す愚か者と私と一緒にしないで。私は理性も自制もきちんと持ち合わせているの。そんな恥知らずじゃないの。


「お、落ち着け。ほら、お茶を飲め、な?」


 ギャーギャーと騒がしい私を落ち着かせる為か、新しく淹れ直したのだろうハーブティーが差し出された。うむ、無駄に良い香りである。


「ふぅ……、ごめんなさいね。でも本当に心の奥底からしみじみと思っているの。『普通』を選ばなくって良かったって!」


 こぶしを握りしめての力説である。呆気な顔をしているキースの事なんて見えちゃいない。頭の中はアンポンタンらから少しでも離れたいという願望で一杯だ。


「脳内お花畑とかノータリンとかアレとかよく分らんが、お前が苦労しているのはよく分かった」


 そんなに哀れむような眼差しを向けないでちょうだい。欲しいのは同情じゃない。心の安定だ。


「マイラ様の為ならどうって事はないけれどね、あの厚い面の皮を被った恥知らずかつ反省のハの字すら省みないアレらに対しての苦労なんてしたくないし無理‼」


 どうしても受け入れられない。全身を走る体調不良とは関係がない悪寒に、私は自分の体を抱きしめた。


「その、なんだ、ノータリン共の話は別として、ダグラス・ウォーレンとはどんな関係なんだ?」

「はぁ?」


 なぜそんなことを訊くのか、私は盛大に顔を顰めた。


「まさか、キースまで私とダグラス様があらぬ仲だとか言い出すんじゃないでしょうね」


 ムカムカとお腹の奥底から苛立ちが沸き上がる。


「まて、違うから待て」

「じゃあ、どういう意味よ!」


 納得が出来る答えでなければ、私の足がキースの足の甲へ吸い込まれるけど?


「いや、だからな。貴族でも平民でも裏稼業の人間でもないなら、ダグラス・ウォーレンの部下じゃないか? とそう思ったわけだ、うん」


 だから決して『あらぬ仲』とか疑っているわけじゃない、とキースは言った。


「ダグラス様の部下なら私は騎士よ?」


 グラン国では文官でさえ女性の雇用はないのだ。騎士なんてとんでもない。


「だよな。お前の手は剣士の手じゃないものな」

「そうよ。馬鹿ね」


 いくら私をマーシャリィ・グレイシスと認めたくないからと言って、女騎士は突拍子も無さ過ぎる。クワンダ国では女騎士が当たり前だとしても、グラン国では騎士になれるのは男の特権なのだ。それを知らないわけでもないだろうに。


「だが『あらぬ仲』を疑われるくらいには親しくしているんだろう?」

「親しくない、とは言わないわね」 


 自称私の兄を騙るくらいだ。むかっ腹も立つことも多いが、良くしてもらっている自覚もあれば、ダグラス様曰く『代わりのない人』と言ってもらえるくらいには信用も信頼もされている自信もある。私だってダグラス様のことを一目置いているし。口に出していったことはないけれども。

 だが、である。改めてダグラス様との関係性を問われると、これといってしっくり当てはまる単語が見つからない。

 例えばこれがガスパールなら、知り合いと言う名の『友人』だし、ライニール様は共にマイラ様にお仕えする『同僚』。マイラ様は言わずもがな敬愛する『主』で、マリィは同じ王妃付き侍女であるが気持ち的には『教え子』だろう。メアリは私の『メイド』にして『育ての親』であり、未来の『継母』である。多分一番近いのはライニール様と同じ『同僚』だ。でも何か違う。

 何が違うのかと問われれば、これもまた説明に困ってしまう。

「そうねぇ……、敢えて言うのであれば『同志』かしら……?」

 本当に敢えて、であるが。

「同志?」

「そう、同志」


 今でこそラインハルト陛下が王位についているが、二年前までグラン国は王位継承争いで荒れていたのだ。私はマイラ様を、ダグラス様はラインハルト陛下をお守りしていた。お互いの主が伴侶同志であることから協力し合うのは当然のこと。


「あとは、うん。『転機』かな」


 それは人との関係性を現す単語としては間違った使い方かもしれない。案の定、キースは困惑した顔して私を見つめている。


「ちょっと長くなるかもしれないけれど、それでも話を聞く気がある?」


 後数刻もすれば日が昇り、忙しない明日がくるだろう。それでも聞きたいと、私を知りたいと言うのなら、どうせ眠れやしないのだから話をすることは構わない。

 どうする? と再度答えを促すと、キースは私を見つめたまま頷いた。


お待たせしましたー!!

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