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第7話

前話、修正行っています。

読まなくても大丈夫だとは思いますが、受ける印象が少し変わっているかな?

申し訳ございませんが、気になる方は後半部分だけ確認して頂けると嬉しいです。

「なんですって!?」


 王宮の東にある庭園で、可愛らしい声で高らかに叫んでいるのは、私の主でありグラン国王妃マイラ様。


「私のマーシャに、あのノータリンめぇぇぇぇ!!」


 キーッ、と今にもハンカチを破ってしまいそうな勢いだ。

 確かにあれはノータリンだけど、王妃がノータリンとか言ってはいけません。そう軽く諫めると「むぅ」と小さくむくれるものだから可愛くて堪らない。


「はぁ、頭が痛いな。なんでそうなるのだか俺には理解が出来ん…」


 そしてマイラ様のお隣に腰を掛け、眉間を押さえているのが、マイラ様の伴侶であるレオンハルト・バル・グラン国王陛下である。


 話の内容は、もちろん先ほど私が受けた被害の事である。後で報告だけするつもりだったのに、どこぞの団長様がポロリとこぼしてしまったおかげで、洗いざらい話さざるを得なくなったのだ。今のように怒ってくれたり悩ませたりさせたくなかったと言うのに、本当に余計な事をしてくれたものだ。


「あれは頭の作り自体が我々とは違うのですから、考えるだけ無駄ですよ」


 ライニール様が陛下の言葉にそうお答えするが、陛下の眉間の皺は取れない。


「ライニール様のおっしゃる通りです。私の事でしたらお気になさらないでくださいませ」


 陛下とマイラ様に新しく淹れ直したハーブティーをお出しする。頭と気分をスッキリさせる効能があるペパーミント配合のお茶だ。いい香りに、私はにっこりとほほ笑んだ。


「あれくらい、毒々しい蛾が数匹寄ってきて少々気持ち悪かった程度の事ですよ?」


 最後のでっかい蛾がやたらと気持ち悪くて蕁麻疹が出そうだったけれど。


「……笑顔で言うことか、それ」

「えー…それが、その程度なの…いやぁ…」


 陛下はげっそりとした表情をし、マイラ様は蛾が寄ってくるのを想像してしまったのか、気持ち悪そうに二の腕を手で摩った。


 その程度ですよ。いなくなれば平気だし、気持ち悪いのは寄ってくる時だけだし。


 同じ王妃付き侍女のマリィが、私と同じように焼き菓子を両陛下の前に置く。軽い食感のクッキーの間にチョコレートが挟まっているものだ。


マーシャさん(灯り)に集まってくる蛾って事ですねぇ。一か所に集まってくれているおかげで対処しやすくていいじゃないですかぁ」


 マリィがきゃらきゃらと無邪気にそう言った。

 語尾が伸びてしまう癖が中々治らず、一見のんびりとした穏やかな娘に見えるけれど、なかなかどうしていい性格をしている。


「灯りを交代してくれてもいいのよ、マリィ?」

「ごめんなさい。無理です」


 そうでしょうとも。私も関わらないで済むなら関わりたくない。寄ってくるから仕方なく相手をしてあげているだけだ。


「でも類は友を呼ぶって事ですよねぇ。愉快なおつむを持つ人って結構いるものなのですねぇ、不思議ですぅ」

「見ている分には面白いんだがなぁ」

「ダグラス様はそうかもしれません、ね!」

「いっ…!!」


 すれ違いざまにヒールの踵で思いっきり踏みつけてやる。この位の仕返し、騎士団長様にはどうって事はないでしょう、ねぇ? 


「その類に貴方も入っている事を自覚した方がいいと思うわ、ダグラス」

「っ…てぇ……、俺?」


 マイラ様に言われた言葉が理解出来ないダグラス様は首を傾げる。


「フォローは出来んぞ、ダグ」


 陛下にまで言われるものだから、更に首を捻るダグラス様を誰も擁護はしない。

 まぁ、私とラウルのアレを「痴話げんか」と称するおつむは愉快以外の何者でもないでしょうよ。


「あー、揶揄ったのは悪かったが、どっちにしろ報告は必要だっただろ?」

「だからと言って、ダグラス様のような方法は好きにはなれません」


 プイっと顔を背ける。


「お前の報告は簡潔過ぎて足りんだろうが…」


 はぁ、とため息を吐くダグラス様。そして苦笑したライニール様が言葉を加えた。


「概ね、今回の報告は『王弟妃殿下のご友人』『贈呈品の紛失』『嫌がらせ疑惑の噂』と言ったところでしょうね」

「それ以外に何か?」


 ライニール様が言った通り、その3点の報告をしようとしていたのだ。

 

 『王弟妃殿下のご友人』に関しては、シエルリーフィ・バウワー伯爵令嬢の存在が新しく増えていた事。他2名に関しては1年前と変わりがないという事。

 『贈呈品紛失』に関しては、品がある程度高価な物である事が推定される為、以前と同じように個人的攻撃なのか、または別の理由にての盗難なのか、王宮内の不祥事にも関わる可能性があるので、調査を進言。

 『嫌がらせ疑惑の噂』に関しては、10年も経って今更このような幼稚な嫌がらせの噂が出回るという事に不自然を感じた為、他に何等かの思惑があるのではないかとの疑念。


 以上、何が足りないというのか、私には分からない。


「えー、『誰から贈られたプレゼントなの?』とかぁ、『噂は誰から聞いたの?』って、私は気になりますよぉ」

「えぇ?」


 余計な事でしょう、それは。

 独りよがり劇場の詳細とか、伝わるのはあれの気持ち悪さぐらいだ。


「報告に必要だとは思えないですが…」


 うーん、と私は頭を悩ませる。


「いいえ、私にとっては必要よ」

「マイラ様…」


 椅子から立ち上がり、私の目の前で立ち止まる。


「あなたが考えそうな事は分かっているわ。私を自分の事で煩わせたくないとか思っているのでしょうけど、そんなの余計なお世話よ」


 マイラ様は私に真っすぐな眼差しを向けた。


「私はあなたの為に怒りたいし、泣きたいし、笑いたいわ。それをあなたが奪う権利はないわ、そうでしょ?」


 私の手を取って伝えてくれたマイラ様の言葉。


「貴女のそれは美点であり欠点ですよ。少なくとも、我々は貴女の為に怒ったり泣いたりする事を煩わしいとは思わないという事を心に留めておきなさい」

「もちろん、笑うのは大歓迎ですよぉ」


 ライニール様もマリィも同調するものだから、何とも言えないむず痒い感じに居心地がどうも悪くて、つい俯いてしまう。耳がやたらと熱くて堪らない。


 分かっている。

 戸惑いや申し訳なさ、気恥ずかしさ全てひっくるめて、嬉しくてどうしようもなくて、私は照れているのだ。どうこの好意に応えたら良いのか分からなくて、でも何か応えたいとも思っていて、混乱した私の口から出た言葉は、


「……善処します」


 たったのそれだけ。


「そうしてちょうだい」


 それでも、満足そうにマイラ様が満面の笑みを浮かべた。

















「でも、やっぱりダグラス様の『痴話げんか』は違うと思うんですよね」

「お前、あれはどう見ても夫を尻に敷く恐妻の図だっ…ぃてぇぇ!!」


 その台詞にすかさずこれでもかと言わんばかりの体重を込めて踏みつけてやりましたとも、捻りもいれて、もちろん先ほどと同じ所に。


 誰が恐妻だ、コノヤロー!!!!!


「えー、台無しぃ」


 マリィの小さな呟きを、私は知らない。


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