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お料理好きな福留くん  作者: 八木愛里
第一章

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4.冬のポテトサラダ、の巻②*

「ホウレン草は適当な長さに切っていけばいいのかな?」


 福留くんが塩茹でをして水を切った、ホウレン草を見て声を掛ける。


「お願いします」


 まな板にホウレン草を置いて、覚悟を決めたように包丁を握る。包丁を握ることは高校の家庭科の授業以来で緊張する。

 猫の手を意識して手を添えて、真っ直ぐに包丁を下ろした。


「あの……まな板とお腹の距離をもう少し離した方が切りやすくないですか?」


 見れば、私のお腹と、机の端に置いたまな板はぴったりとくっついていた。


「拳一個分くらいまな板から開けた方が良いとは言われていますね」

「そ、そうなんだね」


 つい気合が入ってしまって、前に行ってしまった。

 福留くんの指摘通り、半歩後ろに下がり、まな板との距離を離す。そして、包丁を入れると手に力が入りやすくなった。


「あ……本当だ。切りやすい」


 手を切らないようにと慎重に切っていく。


「そうです。いい感じです」


 ホウレン草を等間隔で切り終わると、ニンジンを銀杏切りーー輪切りの四等分に切って、タマネギは薄切りにして水にさらしたところで材料を切る作業が完了した。


「それではジャガイモを茹でていきましょう」


 福留くんはジャガイモが水に浸った鍋に火をかけた。


「どれくらい茹でるの?」

「竹串がスッと通るぐらいまでですね」


 竹串が横に置かれている。


「ニンジンも茹でるよね? もう一つ鍋必要かな?」


 放置されたイチョウ切りのニンジンが気になった。


「それは……時間差で鍋に投入すれば、ニンジンも一緒に茹でられますよ」


 同じ鍋でジャガイモとニンジンを茹でるということか!

 時間差で鍋を使うとは非常に効率的だ。洗い物も減る。


「ジャガイモの竹串の通り具合がまだ固いかなという状態で、ニンジンを入れると、いい感じの時間差なのですよ」


 何事も経験者の情報は正しい。


「やってみるね」


 五分くらい茹でて、竹串でジャガイモの一つに刺してみる。最後まで刺さらずに硬い感触が残った。


「あ、まだ半分までしか刺さらない」

「今です。ニンジンの投入をお願いします」

「了解」


 ニンジンを追加で入れて少し経つと、竹串がスッと入るようになった。


「茹で上がったみたい」

「お湯を捨てますね。熱いので僕がやります」


 鍋を絶妙な角度で傾けて、お湯だけを出すともくもくと湯気が広がってくる。

 さらに火を付けて二、三分後。軽く混ぜながら鍋の中を見せてくれると、ジャガイモの表面が粉っぽくなってきた。


「これが粉吹き芋ですね」


 このまま火をかけると、水分がなくなってジャガイモに焼き目がついてしまいそうだ。


「ここでお酢をいれるのがコツです」


「お酢! どうしてですか?」


「味が落ち着きますし、酸性にすることで細菌の繁殖が抑えられるのですよ」


「へえ、豆知識だね……」


 脇からお酢をタラ~ッと一回しの少量を加えると菜箸でかき混ぜた。

 ジュッと香ばしい匂いが広がる。


「火を止めてもらって大丈夫です」

「はーい」


 お酢の水分が飛んだところで、コンロの火を消した。


「柔らかいうちにジャガイモを潰してもらっていいですか?」

「やります!」


 自然と先生に対して敬語になる。

 鍋からボールに移した後に、 マッシャーでジャガイモを潰していく。


 単純作業なら得意だ。

 ある程度潰したところで、福留くんは冷蔵庫からマヨネーズを取り出した。


「マヨネーズはちょっと多めの方がおいしいので……」


 星形の口から、ボールに大きく円を描くくらいの長さでマヨネーズを出した。

 マヨネーズが均等になるように混ぜると、ジャガイモの熱が取れてきたようだ。


 ホウレン草と水気を十分に切ったタマネギを加えてから、福留くんが塩と胡椒を振る。

 胡椒は粗挽きの回すタイプのものだ。


「味を見てみてください」


 スプーンですくったものを受け取って、口に含んで味見をする。

 あぁ、マヨネーズの塩分がいい働きをしている。


「いい……と思う」

「よし、これで完成です」


 福留くんは手際よく、ボールから皿へ盛り付ける。

 丸い形の盛り付けは福留くんのセンスのよさを感じられる。


「冬なのでホウレン草を使ってみましたが、夏はキュウリを代わりに入れたりアレンジができますよ」


「あとは、ハムやトウモロコシを入れてもいいかも」


 コンビニで売っている、見映えのよいポテトサラダを思い浮かべる。


「色んな食材を入れて楽しめるね」


「二、三日は冷蔵庫で保存が効くので、多めに作っておいて保存食にもできますから、あと一品ほしい時には助かりますよね」


 ポテトサラダには福留くんの優しさが詰まっていた。

 ポテトサラダに合うメニューということで、チキンライスを作ってもらった。


 フライパンを返す動きが料理に慣れた人の動きで、自然と目で追ってしまう。

 チキンライスとポテトサラダの夕食セットが出来上がり。ランチョンマットにセットされた夕食を眺めると達成感がある。


「「いただきます」」


 福留くんと向かい合って座ると、手を合わせた。

 ポテトサラダに口を付けると、まずジャガイモの素材の甘さが口に広がる。ホウレン草の柔らかさがジャガイモに合っていて、ポテトサラダが進む。


「自分で作ってみてどうでしたか?」


「材料切って茹でるだけで、家でもできそう。あとは洗い物も多くならないように工夫するのも大事なんだなと」


 コツを知った後では、洗い物の量が確実に半分は減ると思う。


「それはよかった」


 会社では見せない、安心したような表情を浮かべた。

 私は料理を教えてもらえるばかりではなく、福留くんの手料理も味わえて嬉しい。

 チキンライスは洋食屋で食べるよりも遥かにクオリティが高い。


 ステップアップするとメイン料理も作れるようになるのだろうか。

 福留くんの指導のおかげで、ポテトサラダが料理のレパートリーに入りそうだ。

 教えてもらったことを忘れないように、家でも何回か練習しようと決意した。



 ○冬のポテトサラダのレシピ

 材料(4人分)

 ジャガイモ(男爵)…4~5個

 タマネギ…中1個

 ニンジン…中1/2本

 ホウレン草…4束くらい

 マヨネーズ、胡椒…適量


 作り方

(1)ジャガイモはよく洗い、皮をむき、適当な大きさに切る。鍋に湯を沸かし、ジャガイモを入れ、竹串がスッと入るぐらいまでゆでる。


(2)タマネギは、薄切りにして水にさらした後、水気を絞る。ニンジンは、銀杏切りにする。ホウレン草は塩茹でした後に水気を切り、2〜3センチくらいに切る。


(3)時間差でニンジンをジャガイモの鍋に投入する。茹で上がったらお湯を出してジャガイモを粉吹き芋にする。焦げる前に小さじ1程度のお酢を入れる。ジャガイモはあら熱を取った後、マッシャーなどで好みの大きさにつぶす。


(4)ボールに、マヨネーズを入れてよく混ぜる。


(5)胡椒以外の材料をすべて加えて混ぜる。最後に、胡椒を振り、サッと混ぜる。


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