表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【過去編開幕】終焉の謳い手〜破壊の騎士と旋律の戦姫  作者: 柚月 ひなた
第一部 第三章 動き出す歯車

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/190

第二十七話 それぞれの理念

 『イリアさん、城門の向こうで戦ってるの! 一人で魔獣を(おさ)えてる!』と、シャノンから(しら)せを受けたルーカスはイリアの待つ戦場へと急いだ。


 一心不乱に走り続け、そうして——ルーカスはようやくの思いで北西の城門前へと辿(たど)り着く。


 全身を汗が伝い、息が上がって呼吸が苦しく感じられた。

 (ひたい)の汗を(ぬぐ)い呼吸を整えながら周囲を見渡すと、激しい戦闘の(あと)が残っていた。


 斬り()せられた、あるいは焼け焦げたような魔獣の死骸(しがい)と、路面に爪痕(つめあと)、黒い焦げの様な(あと)、そこかしこに血痕(けっこん)も。

 

 幸いなのは救助活動が進んでいることだろうか。


 高く(そび)える堅牢(けんろう)な城門付近には甲冑(かっちゅう)(まと)った騎士たちが集まり、黒と赤を基調としたローブを着た軍の魔術師が結界魔術を展開して、身を寄せ合う住民を守っていた。


 その後ろ、外へと続く道を確認すると——跳ね橋が上がった状態になっている。



(ゲート)は街道にあると言っていたな)



 魔獣が侵入しないようにと取られた措置(そち)なのだろうが、これでは外へ出られない。



「だんちょ、早すぎ……っ!」

「……橋が、上がってしまっていますね」



 ルーカスが状況の確認をしていると、ハーシェルとロベルトが追い付いた。


 振り返って見れば、二人も汗を(にじ)ませ肩で息をしている。

 それは彼らの後から現れたアイシャとアーネストも同様だった。



(跳ね橋——跳開橋(ちょうかいきょう)を下げるのは時間がかかる)



 ならばどうするかと、ルーカスは考える。

 視線を彷徨(さまよ)わせ城門を見上げると、歩廊(ほろう)に見覚えのあるシルエットを持つ桃色の髪の少女を見つけた。



「シャノン!」



 声を張って名を呼ぶ。

 桃色の髪が(なび)き、紅い瞳がこちらを見下(みおろ)ろして、「お兄様!」と手を振る姿が見えた。


 ルーカスは見つけた妹の姿を追って、門に付属して構築された円筒形(えんづつけい)の塔へと走る。

 中の螺旋(らせん)階段を休む間もなく駆け上がって上へ。



「お兄様、こっち!」



 歩廊(ほろう)へ出ると、待ち構えていたシャノンがルーカスの腕を捕まえた。


 引かれて胸壁(きょうへき)の方へ歩む。


 胸壁(きょうへき)には甲冑(かちゅう)(まと)った王国軍の騎士と魔術師の姿が多数あった。

 彼らは街道の方を唖然(あぜん)とあるいは恐怖の目で見つめていた。


 視線の先はおそらく、彼女が戦う戦場だろう。



(何故、見ているだけで誰も動こうとしない?)



 ルーカスは彼らの姿に、焦りと苛立ちを(つの)らせた。



「あそこ!」



 胸壁(きょうへき)に寄ったシャノンが、水路を(へだ)てた街道を指差した。

 指を追って、その先を見る。


 ——そこは数多(あまた)の光線が(きら)めいていた。


 空中に展開した無数の魔法陣から閃光(せんこう)(しょう)じ、魔獣を撃ち抜き——いや、もはや無差別に光線が降り注いでいると言っていいだろう。


 広範囲に点在する(ゲート)とその周囲を埋め尽くす光が、魔獣の存在を滅却(めっきゃく)

 余波が地を(えぐ)っていた。


 あれは【太陽】のレーシュの代名詞でもある大規模殲滅(せんめつ)魔術——滅光煌閃翔ディ・ルフレール・ディストラクション


 彼女の姿は閃々(せんせん)と放たれる光と、舞い上がった粉塵(ふんじん)(まぎ)れよく確認出来ないが、そこにいるのは確実だ。


 そして何故、誰も助けに行こうとしないのか、その答えも明白だった。


 近付くものは何であれ、無差別に消し去るあの光。

 それを恐れて、誰も近付けないでいるのだ。



(……近付きたくても近寄れないと言った方が正しいか)



 みすみす出て行ったところで、彼女の魔術に巻き込まれるだけ。

 足手まといになるとわかっているから動けないのだ。


 孤立無援(こりつむえん)

 跳ね橋は上がり、閉じられた城門の向こうで一人戦うイリアに想いを()せて、ルーカスは拳をきつく握りしめた。



「ごめんなさい、お兄様。私じゃこの距離は跳べなくて」

「いや、この距離は正攻法では無理だ」



 シャノンが悔しそうに唇を()んだ。


 城壁の外周には外敵を防ぐため(きず)かれた(ほり)に、水が引き込まれて水路となっている。

 防衛機構であるため簡単に越えられるような(つく)りではない。


 深く、そして広く。

 対岸までは約百メートルの(はば)がある。



「シェリルが居てくれれば良かったんだけど、その……怪我は大した事ないんだけどね。

 瓦礫(がれき)が頭に落ちて来て、軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしたみたい。

 気を失っちゃって、リシアと負傷した人達と一緒に、教会に……」



 リンクベルの通話で怪我をしたとは聞いたが、シェリルがそんな事になっていたとは思っておらず、ルーカスは顔を(ゆが)まる。


 シャノンを見ると「あ、でもほんと大丈夫だから心配しないでね?」と慌てて付け加えられた。



(そう言うのであれば大丈夫なのだろうが……シェリルも心配だ)


「シェリルがいなくても何とかしなきゃって。私だけでもあっちへ行こうと思って、軍の魔術師にお願いしたんだけど、危険だからって手伝ってくれないの」



 跳ね橋は水路に()けられた、王都と街道を繋ぐ唯一(ゆいいつ)の道。

 それが上げられてしまった今、あちら側へ渡る()()()手段はない。



(だが、確かに。

 魔術師の協力があれば話は別だろう)



 シャノンが(にら)みつけるように魔術師を凝視(ぎょうし)している。

 すると話を聞いていたのだろう魔術師の一人が顔を(しか)め、こちらへ視線を向けた。



「当たり前だろう! あんな無茶苦茶(むちゃくちゃ)な魔術、あの場へ行って死にたいのか!」

「でも、イリアさん一人戦わせていい訳ないでしょ!」

「それは……っ! そうだとしても、君が行っても無駄に命を捨てに行くようなものだ!」

「自分の命惜しさに、何も出来ずにいるよりマシよ! 貴方達はそれで恥ずかしくないの!?」



 魔術師の言い分がシャノンの逆鱗(げきりん)に触れてしまったようだ。

 激昂(げきこう)したシャノンが、その場に居る軍達へ詰め寄った。


 その剣幕に気圧(けお)されて、彼らは一瞬(ひる)んだ様子を見せるが、すぐさま反論を口にする。



「オレたちだってそう思ったさ! でも、あの方は『跳ね橋を上げてここには近付かないで』と言ったんだ!」

「わかるだろう? 次元が違うんだ」

「無意味に出て行ったところで、私達では足を引っ張るだけなんだよ……」

「だからって……!」



 シャノンも必死だが、それに負けないくらい彼らも苦し気な表情を浮かべている。



「シャノン、落ち着け」



 ルーカスはシャノンの肩へ手を添え、言葉を(さえぎ)った。


 納得いかない様子のシャノンが「でも!」と抗議の視線を向けて(うった)えて来る。

 だがルーカスは首を横に振り、それを(せい)した。



「気持ちはわかる。けど、彼らだって何も感じていない訳じゃない」



 始めはルーカスも「何故誰も助けに行かないのか?」と苛立ちを覚えた。

 しかし冷静になって状況を確認すれば、得心(とくしん)がいく。


 今の彼女——記憶を失う前の〝旋律の戦姫〟と(うた)われ(おそ)れられた姿を見せる彼女と並び立つには、半端な力は(かえ)って邪魔になる。


 彼らの決断は、無策であの場へ出たとしても彼女の助けにはなれないと、理解しているからこそ。


 それを(わら)い責める事は誇りを(けが)す事と同義、(おろ)かな行為だ。



「大丈夫。俺が何とかする」



 ルーカスはシャノンを(なだ)めるように「ポンポン」と肩を叩いた。

 眉尻を下げ不安に揺れる大きな紅の瞳がルーカスを見上げ、「うん」と頷いたシャノンが肩を震わせ唇を()んだ。



「すまないな。お前達も、ただ見ているだけと言うのは辛かっただろう」



 ルーカスがシャノンに代わって謝罪を()べると、彼らは拳を握り締めた。



「いえ、お恥ずかしいところをお見せしました」

「申し訳ありません、ルーカス団長」

「私達にもっと力があれば……」



 理念と伴わない現実との差異に、己の無力を痛感している彼らを責める事は出来ない。

 そして今一番になすべきは不毛な言い争いではなく、根本の原因である(ゲート)の排除。


 ルーカスは閃光(せんこう)(きら)めく戦場を見つめ、あちらへ渡るための策に考えを巡らせた。

 「面白い!」「続きが読みたい!」など思えましたら、ブックマーク・評価をお願い致します。

 応援をモチベーションに繋げて頑張ります。

 是非、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ