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100 対スルベロ・魔紋の使い道

「さすがにそれだけで確信したわけじゃないぞ」


「ええ? まだあるの?」


「アカリは時々意味の通じない古代語らしき言葉を口にしてただろう。俺を訪ねてきたコレットたちを見て、『メイドハーレム』と言ったな。この世界にはたしかに後宮(ハーレム)を抱える国もある。だが、後宮に住む女性には、王の側室として王族に準じた身分が与えられる。使用人(メイド)扱いされることはないはずだ」


「あちゃー、なるほど」


「『トレジャーハンターをやろうとすれば、古代人の言語は必修科目だから』とも言ったな。必修科目という言葉は、一部の高等教育機関でしか使われていないはずの言葉だ。アカリの口にしていた経歴の中で、そういう機関に所属する機会があったとは思えない」


「うぐ、そ、そうだね……」


「『雲散霧消』なんていうあまり使われていない古代語を使ったこともあったよな。かなりの教養人でないと出てこない単語だ」


「そこは、ほら、私が案外教養溢れる系女子だったかもしれないじゃない?」


「知識があることについては否定するつもりはないよ。ただ、その知識の中身が問題だ」


「な、何が問題なのさ?」


「アカリ。おまえは古代人の知識を持って生まれてきたんじゃないか? あるいは、()の天使としての任務を達成し、世界に保存されているという古代人の人格を『(たまわ)った』時に――」


「ああ、もう。正解だよ、正解! どうしてそれだけのヒントでこんな答えにたどり着けるかなぁ! お姉さん、本当にゼオンくんのことを過小評価してたみたいだね! いやー、ほんとすごい。たまげたよ!」


「じゃあ、本当に古代人の知識を持っているのか!?」


「ちょ、近いってば! ゼオンくんは古代にロマンを感じてるみたいだけど、そんなにいいもんじゃないから! でもま、今の状況でいくつかヒントになりそうなことは知ってるかな」


「なんだよ、ヒントって」


「ひとつは、キメラってモンスターについてだね。ゲームによってはキメラというそのままの名前のモンスターがいることもあるけど、この世界はそうじゃない。複数のモンスターを合成することで初めて、キメラになったと見なされるのさ」


 ゲームってなんだ? とは思ったが、まずは後半へのつっこみだ。


「まさか、キメラの合成法を知ってるのか!?」


「知識としてはね。まず、素材となるモンスターを用意します。次に、素材となるモンスターに共通する要素を見つけます」


「共通する要素?」


「あのキメラの場合は、素材が七体とも霊獣なんだから簡単だね。守るべき獣人を失い悲しみにくれていた、という点も、共通要素と見なすことができる。その二つの共通点を媒介にして、特殊な魔導具で素材となるモンスターたちを強引に結びつけるんだ。一度結びつけてしまえば、モンスターたちが元から持つ同一性保持のための生体機能が暴走して、複数のモンスターの身体をひとつの身体にまとめあげてしまうんだ。ちょうど、木に挿し木をするような感じで、ね」


「特殊な魔導具、というのは?」


「融合魔核、と呼ばれるクラフトアイテムだね。魔核って、知ってる?」


「いや……」


「モンスターを倒すと魔石が落ちるよね。あの魔石は、魔核が死んだもの。モンスターの体内には必ず魔核があるんだ。その魔核を中心にマナが体内を巡ってモンスターに力を与えてる」


「その魔核を融合させたのが融合魔核か?」


「そう。でも、言うほど簡単なことじゃないよ? モンスターの生きた魔核を複数くっつけて、魔紋と呼ばれる特殊な刻印で、ひとつの魔核だと世界に誤認させるんだ。この融合魔核に、さらに別の魔紋を刻んで、外への拡張ポートを作っておく。その拡張ポートに、キメラにしたいモンスターの魔核を接続して……」


「魔紋はそんなふうにも使えるのか……。それにしても、とんでもなく面倒な作業に思えるんだが」


「実際めちゃくちゃ面倒だと思うよ。スライムを何体かくっつけるだけでも大変らしいし。いくら共通要素が強かったとはいえ、霊獣七体を合成するのは神業だね」


 まあ、その神業を成し遂げたロドゥイエは俺が倒してしまったわけなんだが。


「その融合魔核を破壊すれば、スルベロを元の霊獣七体に戻すことができるのか?」


「うーん……。普通なら難しいね。普通のモンスターなら、キメラにされた時点で自我が壊れちゃうから。あのスルベロも、元の自我を温存してるとはとても思えない感じだよね」


「……それでも、元は亜神とも言われた霊獣。可能性はある」


 と、ウンディーネ。


「融合魔核を破壊するにはどうすればいい? 魔剣をぶっ刺せば壊せるか?」


「そんな単純じゃないよ。融合の力が働いたままの魔核を壊しても、元の状態に戻るわけじゃない。赤と青の塗料を混ぜた紫の塗料を攻撃しても、元の赤と青には戻らないでしょ?」


「じゃあどうすれば……」


「そうだね……。融合魔核の魔紋を書き換えて、魔核自身に『分離』をさせられれば、自然と元の魔核に分裂したりするかも?」


「『分離』か……」


 魔紋ならば、俺のスキル「魔紋刻印」で扱える。

 でも、俺が刻印できる魔紋は、「強靭」「切断」「水属性軽減」「水属性増幅」「爆発軽減」だけだ。


 「分離」というからには、ひとつのアイテムに「分離」を刻むと、そのアイテムが二つ以上に割れるということだろう。

 だが、アイテムというのは通常それ自体がひとつのまとまりであって、二つ以上に割れるようなものじゃない。


「いや、待てよ」


 俺は持ち物リストからとあるアイテムを取り出した。


 巨大な両手剣――エクスキューショナーソードの先に人間がすっぽり収まるサイズのケージがついた、「エクスキューショナーソード(改)」である。

 魔族ネゲイラがケージの中にシオンを閉じ込め、あろうことかゴブリンキングに装備させてたあの剣だ。


「うわっ、何これ?」


 とアカリが驚く。


「このアイテムは、エクスキューショナーソードにケージを合成してるはずだよな。なら、『分離』させることもできるはず」


「い、いや、『分離』っていうのは、『魔紋刻印』ってスキルで付与できる特性のことなんだけど」


「『魔紋刻印』なら使えるぞ」


「えええっ!? 高位魔族が秘伝にしてるとかいう超レアスキルなんだよ? って、ああ、そうか。さっきロドゥイエを倒したとか言ってたもんね。いやー、ゼオンくんは常識ってものが通じないね!」


「アカリにだけは言われたくないぞ」


 ともあれ俺は、「エクスキューショナーソード(改)」に近づき、スキル「魔紋刻印」を起動する。

 変化はすぐにあった。

 「エクスキューショナーソード(改)」の切っ先付近に、目立たない魔紋が刻まれてるのが、薄紫の光で浮かび上がったのだ。


「『融合』だな」


 つぶやいた瞬間、「融合」の魔紋の刻み方が直感的に理解できた。

 同時に、「融合」を解くための魔紋――「分離」の魔紋の刻印パターンが脳裏に浮かぶ。


「よし、『分離』を覚えたぞ」


「えっ、もう!? ゼオンくんってばちょっとなんでもありすぎじゃない!?」


「さすがはマスターなのですぅ!」


 目を剥いて驚くアカリと、素直に持ち上げてくれるレミィ。

 リコリスとリコリナ姉妹は、話の流れのあまりの速さに置いてかれ、ぽかんと口を開けてるな。


「まあ、問題はどうやってスルベロの内部にある融合魔核までたどり着くかってことだけどな」


 「凍蝕の魔剣シャフロゥヅ」を「投擲」しまくれば、スルベロを普通に倒すことはできるだろう。

 さっき投げた二本の魔剣は蛇の頭と猿の頭に突き刺さったままで、二つの頭は半ば氷に覆われてる。

 「看破」で見ても、HPは「10782/14500」と、かなり大きく削れている。


 「物理反射」で剣を弾かれなかったところを見ると、魔剣による攻撃は物理攻撃とは見なされなかったみたいだな。

 おそらくは、「デシケートアロー」と同じく水のマイナス属性攻撃(そんな言葉があるとして)扱いなんだろう。

 となると、単に倒すだけなら魔剣を投げつけ続けるのが簡単だ。


 だが、今回は普通に倒すんじゃダメなんだ。


 悩む俺に、ウンディーネがいつも通りの平坦な声で言ってくる。


「あなたが危険を承知で霊獣のキメラに挑むというのなら、大精霊である私はそれを『試練』と見なす。イレギュラーだけど、大精霊に割り当てられた物語の枠組み(イベント)を当て込むことができる」


「『試練』……?」


 いぶかしむ俺に、ウンディーネはとんでもないことをさらりと言った。


「勇者になるための、『試練』。ゼオンに勇者としての加護を一時的に貸し与える。もし『試練』を乗り越えられれば、その力はあなたのものとなる」

プロローグ抜きで100話目です。

ここまで続けてこられたのも皆様の応援のおかげです。

これからもどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
最初の頃の檻付きエクスキューショナー持っていたのってこの為だったかー構造が壮大
[良い点] まもんまもん まもんの使い道
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