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聖女アリス、異世界で溺愛されてるけどツッコミが追いつかない。  作者: 高瀬さくら


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70.聖女はラスボスと出会うの?

 ――暗闇だった。


 いや、赤く燃える炎の松明に照らされている石壁の空間。牢屋ではない、よく見れば床は毛並みの揃えられた絨毯だ。これも深紅。


 遠くに目をやれば動物――獅子の描かれたタペストリーがある。

 ここは、部屋?


「ようこそ、私の城へ」


 ギシッと木が歪む音がして、その方向に目を向けると男性が椅子から立ち上がるところだった。


 大きい、巨躯だといってもいい。背が高くて横幅も広くて、筋肉も立派。つまりマッチョ、と言いたいところだけど、上半身だけ鍛えた逆三角形ではなく、全身の均整が整い鍛えてありバランスもいい。

 

 マッチョ、と単純に揶揄できないのは、多分その動きが優美だから。


 スラリとした動きで、アリスに近づいてきて、大きな背をかがめてアリスの左手を取る。

 深紅の目で見つめた眼差しに息を呑んでいると、彼は自然な動作で唇を甲に当てる。


「あなたは、魔王?」



 様とか、陛下、とか迷ったけど付けない。だって先生様とかつけないし。あ、でも天皇陛下か。やっぱり魔王陛下? 他国の王様はつけないな……というか、レジーやヒューは呼び捨てだからいいや。


 魔王は、夢の中のように酷薄な笑みを浮かべるわけでもなく、ただアリスをじっと見て、微かに微笑した。

 その笑みは凄みがある。


 容姿は美形で、体格は怖いほどの迫力で圧迫感がある。だから笑いかけられたことに舞い上がってしまいそうになる一種の錯覚だ。自分は特別にしてもらえる、と。


「グラディウスだ」

「グラディウス」


 アリスは今度も敬称をつけず、ただ名前を繰り返す。彼はアリスに名前を聞かずに、ゆっくりとキスをした手を下ろして、「城を案内しよう」と背を向けた。



 魔王は、夢の中のどのような格好とも違っていた。最初の夢は立派な体躯に布一枚を巻きつけ、腰には大ぶりな剣だった。

 二回目は甲冑、そして今回は深紅のマントに黒いレザーのジャケットにパンツとシンプル。


 ただし、胸を横断する金のチェーンに、腰からぶら下がる見事な宝剣だか魔剣だかは大きなダイヤモンドと赤いルビー付き。ゴージャス!! 容姿も格好もすべて。


 その彼は自分が先に階段を昇り、それからまだ上り途中のアリスの手を自然に取り、エスコートをしながら、王の間に誘う。


 その合間にも見せる漢の猛々しさの笑みに、窓からの斜陽が陰影をつけて、顔の半分に闇が落ちる。無言でついてくるアリスに満足しているという顔だ。


 レジーは儚さが時折よぎり、普段の柔和さが混じるのに、いざという時に見せる戦闘に対する冷静さが魅力。何よりも女性に対する品の良さと時折の強引さがいい。


 でも魔王は、自分に惚れない者はいないという自信を全身から放っている。悔しいが、アリスもついて来てしまった。


「聖女よ、その恰好で不満はないのか」


 彼は王座とその隣にある小ぶりな椅子を前にアリスに問いかけた。恐らく片方は黄金の王の座、もう片方は少し小さく銀で妃の座。


 とはいえ、銀の玉座のほうが細工が見事でルビーが美しい。王座は力を象徴し、妃の椅子は優美を現したのだろう。


「アリスです、名前は」


 アリスが答えると、魔王は片眉をあげて見た。


「アリス」

「以前に名前を聞かれました。もっとも――」アリスは続ける。

「その時は、縛られていたし部下らしき人もいたし、他の聖女もいました。今はどういう状況?」


 フッと彼は笑う。微笑も影がありよろめきそうになる。


「部下も、縛られているのも――これからの君の夢」

「これから、の夢?」

「未来はどうにでもなるだろう。今、私は君を私の聖女として呼んだ。喜んでもてなすよ」


 彼はアリスの背に回りいきなり膝裏と背に手を添えて抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこをして、自分は金の台座に座る。


 慌てて暴れようとしたけれど、支えてくれないから首にしがみつく。すると低く少し意地悪気な笑い声が返り、ついでに彼は指を鳴らす。


 今度は光に包まれるようなことはなかった。レオタードは布が伸び、生地が変色しアリスの体は銀色の長いドレスに包まれる。

 肩は細いキャミソール式。胸の谷間は大きく開いているが、もりもりアップのおかげでスタイル抜群。

 腰にはレースのスリット。振り向けば腰近くまで背や太腿も大きなスリット。

 でもシルクのドレスは肌触りがよくて最高。おまけにレースドレスの裾の金の刺繍が綺麗で、揺れるたびに心がときめく。


「これを、アリス」


 魔王が両手で掲げてきたのは、銀ではなくおそらくプラチナのネックレス。中央に大きな透明なダイヤモンド、その左右には赤いルビーの実が揃い、上品に緑の葉のエメラルド。

 華奢なデザインだから、嫌らしくない。


「足をあげて」


 足を少し持ち上げれば、魔王の太腿の上に膝を載せる形になる。その足首を持ち、魔王は金色の華奢なハイヒールを履いたアリスの足元にネックレスと同じ色のアンクレットをはめる。


 パチン、という音と共に体を軽く上げれば、それは留め金式だった。


「アンクレットくらい、ちゃんとした装備をあげてもいいだろう」


 鑑定スキルがないからわからないけど、大丈夫? まずい効果がついていない? 例えば魔王の手下になるとか。


「疑わないで欲しい。私を君が選ぶという、確信をこめて。ただの誓いだよ」


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