第100話 親か
「お前は秋村さんの親か」
「親?」
それはどういう意味だろう。
発言の意図を考えるより早く浮谷さんが言葉を続けた。
「秋村さんの進路に干渉するっつったら親以外にいねーだろ。友人Aがあれこれ口出したところで大して影響ねーよ」
むっとする。
まるで俺じゃ燈香の人生には関われない。そう断言されたみたいで胸の奥底がメラッとする。
周りには人影がある。俺は声量を抑えて言葉を紡いだ。
「影響ないってことはないだろ」
「それでも最終的に決めんのは秋村さんだ」
「それが無責任だって言ってるんだよ。背中を押したら責任が生じる。燈香が受験失敗したら責任取れるのか? 取れないだろ。時間は巻き戻せないんだから正しい選択を勧めるべきだ」
「将来って正しいとか間違ってるで決めるもんじゃねえだろ」
「それは他人事だから言えるんだ」
「じゃあ萩原は就職を失敗したら両親を責めんのかよ」
「それは責めないけど」
「だろ? 損するのは選択を委ねた自分自身なんだ。秋村さんだってちゃんと自分で考えるだろ」
口をつぐむ。
一理あると納得する自分がいた。
「そもそもさ、部活辞めるのって本当に秋村さんの意思だったのかよ」
「それはどういう意味だよ」
「秋村さんってひざ故障してたんだろ? 怪我するまでは唯一の一年生レギュラーだったって聞いてるし、プライドとかあったんじゃねーの? 知らんけど」
「知らんのか」
思わずガクッとする。
梯子を外された心持ちに陥った。
「まあ要するにアレだ。未来がどうなるかなんて分かんねーんだし、今の時点で正しいとか間違ってるとか言ったって仕方ねえだろって話だよ。俺としては秋村さんにバレー続けてほしかった」
俺が惚れたのはそういう秋村さんだから。浮谷さんがそう言い残して背を向けた。
「どこ行くんだ?」
「菓子買って帰るんだよ。お前のせいで小難しいこと考えさせられたから腹減ってきた」
大きな背中が遠ざかる。
金髪が棚に消えるまで、俺はその場に突っ立っていた。




