表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/358

第15話「アンチマテリアルライフル」


「皆、そろったわね!」


 十人委員会の会議室にて、ユキが威勢良く言い放つ。ポニーテールにまとめられた黒髪が、凛とした雰囲気を醸し出すのに一役買っている。


 会議室の円卓には、ユキを除いた5人が座っている。

 右から、ゲンジ、ジン、コトリ、ミク、そしてアーニャ。 

 ユキは一通り仲間達の顔ぶれを見渡すと、笑みを引っ込めて真剣な表情を浮かべる。


「今回の作戦は、絶対に成功させなくてはいけない。そのためには、皆の力が必要なの。お願い、協力して」


「作戦ってなんだよ。まだ小泉副会長を探すつもりか?」


 ユキの言葉に、ジンが口を挟む。


「やめとけって。この祭りの騒ぎじゃ、何したって見つからねぇぞ。それより、書類仕事のほうはいいのか?」


 ジンの軽口に、ユキが射殺さんばかりの視線を向ける。


「はぁ? 何か言った?」


「なんでもない。気にするな」


 即答するジン。引きつらせた愛想笑いを浮かべながら、そそくさと姿勢を正す。

 ユキは円卓に両手をつくと、牽制するように仲間達を順番に見ていき、反論できない空気を作り出していく。


「じゃ、説明するね」


 ユキは足元に置いてある2つの荷物のうち、1つを手に取った。大きな羊皮紙が丸まっているものだ。


「皆、これを見て」


 ばさっ、と円卓に広げたのは、この国の地図だった。サンマルコ広場を中心に、ヴィクトリア本島が細部まで書かれている。


「前回のライブでは、小泉副会長を見つけることはできなかった。それはなぜか? ゲンジ先輩が言うには、小泉副会長は必ずどこからか見ていたはずだって」


 確認するように見ると、ゲンジは重々しく頷いた。


「つまり、会場には来ていなかったの。覗きか、盗撮か。どこか会場から離れた場所にいる可能性が高い」


 ユキが地図上のサンマルコ広場を指差しながら、ぐるぐると円を書く。


「ねぇ、アーニャ。『魔法石』を使った覗きや盗撮って可能なの?」


「たぶん、できるよ。ライブで使ってたスピーカーや映写機と似たようなものだし。でも、音や映像関係の魔法石は高価だから、普通の人には手が届かないかな」


「私たちみたいに、ある程度。お貨に余裕があれば、問題ないってことだよね」


「そうだね」


 アーニャが両手を頭に組んだまま答える。


「恐らく小泉副会長は盗撮・盗聴の魔法石を利用して、隠れた場所からライブを見ていたに違いない」


「おい、待てよ。それじゃ、探しようがないじゃねぇか」


 ジンが無理難題といわんばかりに声を上げる。

 だが、すぐにユキが返事をする。


「大丈夫。手は考えてあるから」


 にっこりと余裕のある笑みを浮かべると、隣に座っているゲンジを見る。


「ゲンジ先輩。もう一度ライブをしても、小泉副会長は同じ手を使ってくるかな」


「間違いなく、同じ手を使うだろうな」


「アーニャ。カーニバル実行委員に、2回目のライブができるか確認してもらった?」


「確認済みだよ。祭りの最後を締めくくってくれってさ」


 ゲンジとアーニャが自信満々に頷く。

 そんな2人を見たユキは、小さな握りこぶしを作った。


「ライブをしても見に来ないなら、…引きずり出せばいい!」


「は?」


「引きずり出す?」


 ジンとミクが首を傾げていると、ユキが地図上のサンマルコ広場の一角を指差す。

 そこには、時計塔が描かれていた。


「サンマルコ広場には、この国で最も高い建物である『時計塔』が立っているでしょ。ここからなら国中全体を見渡すことができる。ライブ中にアクシデントを起こして、小泉副会長を外に引きずり出すの。そして、その隙に捕獲する」


「おびき寄せて罠にはめるってか? そんなの、うまくいくのか?」


「大丈夫。小泉副会長が姿さえ見せてくれれば必ずうまくいく」


「逃げられたらどうするんだよ?」


「絶対に、逃がさない」


 ユキは自信満々に微笑む。

 そして、足元に置いてある2つ目の荷物を手に取った。両手で重そうに持ち上げると、よっこいしょと掛け声をあげて円卓に載せる。


「こいつを使うから」


 ぱんぱん、と手をたたくユキ。満面の笑みを浮かべながら、小さくない豊満な胸を張る

 だが、それを見た他の仲間たちは、…言葉を失っていた。


 重厚な真っ黒な銃身。

 鈍く光る銃口。


 長く伸びた銃身が、物言わぬ寡黙な戦士のよう。

 明らかに長距離の射撃を想定されて作られた、2本足の銃座に肩当てのストック。

 銃本体の大きさだけでも1.3メートルほど。

 狙撃・・用の銃口をあわせると、2メートルくらいになってしまう。


『魔銃・ヘル』

 銃の種類は、アンチマテリアルライフル。2キロ先のレンガの壁さえ粉々にできる、超長距離の対物・・ライフル。


「時計塔でこいつを使えば、ヴィクトリア全域がほぼ射程範囲に…」


「おいおいおい! ちょっと待てよ! 本当に、そのバケモノ銃を小泉副会長に向ける気なのか?」


「…何か問題でも?」


「大アリだろ! そいつは大草原とかのフィールドボスに使う代物だろうが! 巨大ゴーレムすら粉々に砕く威力を持っているんだぞ! 人に向けていいものじゃねぇんだよ! あの人を肉片にするつもりか!」


 珍しく声を荒らげるジン。

 しかし、ユキの表情に一遍の曇りもない。


「大丈夫じゃない? 副会長って頑丈だし」


「いや、そういう問題じゃ…」


「それにね。私、許せないんだ。私だけが1人で頑張っているのに、小泉先輩だけのうのうと引きこもっているなんて。なんか、こう。殺意みたいのが沸いてきちゃうよね?」


 にこっ、と笑いながら仲間達に賛同を求める。


「ひっ!」


「…ユキ、怖い!」


 アーニャとミクが顔を青くさせながら震えだす。


「それに、この『ヘル』の『魔弾』なら、間違っても弾が届かないなんてこともないしね。絶対に、ぜっーたいに、生け捕りにするんだから!」


 ユキが愛しいものに触れるように、魔銃ヘルに手を添える。


「作戦決行は明日。この国の安寧のために。十人委員会の未来のために。なにより、私のお祭りのために。皆、がんばろっ!」


 おー、と可愛らしく手を上げるユキ。

 他の仲間も気おくれしながら、お~、と手を上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ