第14話「私をお祭りにつれていって」
「もう、やだもん! 私だってお祭りに行きたいもん! なんで私ばっかり、こんな目に合わなくちゃいけないの?」
ぐずっ、と今にも泣いてしまいそうな表情を浮かべる。
「ユキよ、とにかく落ち着け。十人委員会の代表であるお前が取り乱してどうする。言葉遣いだって、女子のものになっているぞ」
「ふん、いいもん。どうせ、ずっと女の子のままなんだし。こんなときにまで、気をつかってられないよ」
机に突っ伏して、不貞腐れるように唇を尖らせる。
その様子を見て、ミクは内心、可愛い…とか思いながら、ゆっくりと執務室に入っていった。
「…なんか、あったの?」
ミクの問いかけに、ゲンジとハーメルン伯が振り返る。二人とも無表情のまま、ミクのことを見つめかえす。
「あっ、ミク!」
最初に声をあげたのは、ユキであった。
がばっ、と顔を上げると、ものすごい勢いで抱きついてきた。
「ミク! 助けてよ~」
「ちょっ、ユキ!?」
困惑するミクをおいて、ユキはぎゅっと強く抱きしめてくる。長い黒髪が踊り、柔らかい感触に包まれる。嬉しいのか、困ったのか、よくわからない感情に飲み込まれながら、ミクは何とか声を絞り出す。
「い、いったい。どうしたっての?」
ユキは、途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、今まで頑張ってきた書類が全部無駄になったことを説明する。
「過ぎたことを言っても詮無きことであろう」
「じゃあ、どうしろっていうのよ!」
「うむ、そうだな」
ゲンジはしばらく考えたあと、ポツリと呟いた。
「…やはり、誠士郎がいれば一番なのだが」
「え?」
ミクとユキが同時に声を上げる。
「なんだ、知らないのか? 生徒会副会長である誠士郎は、書類整理の鬼として有名だったのだぞ。あやつが副会長に任命されてから、無駄な書類が消えて、生徒会室の本棚もすっきりしたと、生徒会長殿も言っていた」
「…小泉、…副会長」
ミクに抱きついたままのユキが、小さな声で呟いた。
「うむ。小泉誠士郎であれば、この難局も乗り越えられるはずだ。…だが、その誠士郎が見つからないのでは、話にならんのだがな」
「それよ!」
ユキが顔を上げると、ぎゅっと小さな手を握り締める。
「小泉副会長さえいれば、こんな仕事しなくても済むはず!」
「いや、その小泉先輩が見つからないんでしょ?」
ミクが言葉を挟むが、ユキは嬉々とした表情を浮かべている。
「大丈夫! 私に、いいアイデアがあるの! ミク、ゲンジ先輩。皆に召集をかけて。一時間後に会議室に集合ね!」
それだけ言うと、ユキは長い髪をなびかせながら執務室から出て行った。
部屋に残されたミクとゲンジ、そしてハーメルン伯は、ぽかんとした表情でその場に立ち尽くしていた。




