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第4話「ボクは、・・・アイドルになることが決定した」


「みんなーっ! おつかれーっ!」


 蜂蜜色の髪に、同じ金色の瞳。

 誰もが見惚れてしまいそうになる、太陽のような笑顔。

 ラフな服装に、ネコ耳がついたパーカーを羽織っている。


 彼女はアリーシア・マリ・ドージェ・ヴィクトリア。

 この国の王女で、次期女王になることが決まっている女の子。ボクたちは親しみをこめて、『アーニャ』と呼んでいる。


「あれ、どうしたの? 何だか重い空気だけど?」


 アーニャが明るい笑顔を振りまきながら、ボクたちの座っている円卓をぐるりと回る。

 ボクは苦笑いを浮かべながら答えた。


「ちょっと、会議が行き詰っててね…」


「ふーん。そうなんだ」


「ねぇ、アーニャ。例の情報は集まった?」


「あー、ユキの仲間の話ね。残念だけど、全然ないのよね」


「…そう」


 ボクは小さくため息をつく。

 ボク達以外の十人委員会のメンバーは、ジンやゲンジ先輩のように特徴的な外見を持っているわけじゃない。十人委員会『No.5』の神無月先輩だけはエルフ族だけど、他の人はみんな人間種だ。身長が2メートルあるオーガ族のゲンジ先輩や、全身が銀色の毛で覆われた銀狼族のジンみたいに目立つわけじゃない。


 生徒会長を除いたメンバーは、残り4人。

 このままで見つかるのかな?


「はぁ…。どうしようか」


「なんだかよくわかんないけど、大変そうだね。私でよかったら相談に乗るよ?」


「はは、ありがと。アーニャ」


「うんうん。どんど頼っていいんだよ。なんたって、ユキは私の嫁だからね。どんな頼み事でも聞いちゃうよ」


 そう言って、アーニャがイス越しに後ろから抱きついてくる。首元に顔を埋めて、すりすりとしてくるが、抵抗するのも面倒なのでされるがままとなる。

 そうしていると、遠くの席に座っていたミクが、赤い髪を逆立たせながら立ち上がった


「ちょっと、ユキから離れなさいよ! ユキも、せめて抵抗くらいしなさい!」


「いや、いつものことだし。なんか慣れちゃった」


「慣れちゃダメでしょ!」


 ズカズカとミクが近づいてきて、無理やりにアーニャを引き剥がす。


「あーん、ミクのいけずぅー」


「うっさい! あんたも事あるごとにユキに抱きつくのを止めなさいよ! 外でも、家の中でも、キャンキャン盛ったネコみたいに!」


「いいじゃない。ミクが監視しているせいで、私はユキと一緒にお風呂にも入れないんだよ。これくらい許してよ」


「ダメ! 絶対、ダメ!」


 ミクの怒った顔を見て諦めたのか、アーニャは大人しく空いている席に腰を下ろした。


「ふん、いいもん。まだチャンスはあるし」


 その言葉を、ボクは聞かなかったことにした。


「…それで、これからどうするのだ? アーニャ殿も来たことだし。もう一度、先ほどの話を聞いてもらったらどうだろうか?」


「その話はもういいよ、ゲンジ先輩…」


 ボクは力なく肩を落とす。


「さっきの話って、なに?」


「アーニャは気にしなくてもいいよ。却下された案だから」


「えぇー、気になるよ~」


 アーニャがむくれる様に頬を膨らませていると、ジンがにやにやと笑いながら口を挟む。


「ユキがアイドルになって、ライブをするんだと」


「ちょっ、何で言うの!」


「別にいいじゃねぇか」


 ジンが答えると、アーニャがわからないと言うように首を捻る。


「アイドル? なにそれ?」


「つまり、カーニバルの初日に、ユキが可愛い服を着てステージで歌って踊るわけだ」


「ユキが可愛い服を!」


 ガタン、とアーニャが立ち上がる。


「あぁ。しかも、エロい。…じゃなかった、エモい。スカートなんて飾りで、中を見せるために穿いているもんだし、脇や背中の露出もデカい。時にはマイクスタンドに跨ったり、意味もなくスカートを翻したり。とにかく、あざといくらいにエモ可愛いんだ」


「…なんて」


 ぽつりとアーニャが呟く。


「…なんて、…いいアイデアなの!」


 アーニャが満面の笑顔を浮かべる。


「カーニバルの初日に、ユキのエモ可愛い姿が見られるなんて! こんなに素晴らしいことはないわ! よし、今すぐカーニバル実行委員に準備させましょう! サンマルコ広場に中心に、ものすごいステージを作ってみせるわ!」


「ちょっと待ってよ、アーニャ!」


 ボクは慌てて立ち上がる。


「その話はナシになったの! そもそも、ボクにアイドルみたいなことができるわけないでしょ!」


「大丈夫! ユキは可愛いからっ!」


「いや、意味がわからないよ! そもそも、アーニャはアイドルのこと、ちゃんとわかったの?」


「要は、すごく盛り上がるオペラ歌手みたいなもんでしょ。あんなの、歌の良し悪しじゃなくて、カリスマがあるかでしょ。ユキなら絶対に大丈夫!」


「無理無理無理無理無理無理ッ!」


 ボクは首をぶんぶん振り、長い黒髪が豪快に舞う。


「あんな恥ずかしいこと、できるわけないよ!」


「恥ずかしいの?」


「恥ずかしいに決まってるよ! 大衆の面前で、あんな衣装を着て踊るなんて。考えただけで鳥肌が立ってくる!」


 庇うように、両手で自分の体を抱きしめる。

 それを見たアーニャが、がっくしと肩を落とした。


「そっか。それじゃ、仕方ないよね」


「…わかってくれた?」


「うん。よくわかった」


 沈んだ表情をしながら、ボクのことを見つめる。



「つまり、私と一緒だったら恥ずかしくないってことだよね?」



「へ?」


 何を言っているの、このは?


「ユキの頼みじゃ、しょうがない。私もフリフリの衣装を着て、ステージに駆け上がろかな」


「いやいや、待ってよ! どうしてそうなったの!」


「だって、そういうことでしょ。ひとりじゃ恥ずかしいから、一緒にいてくれる人を探していたのね」


 アーニャがキラキラした目でボクを見てくる。


「私に任せなさい! 最高のステージを用意してあげるわ!」


 そう言って、アーニャが走り出した。


「ちょっと! アーニャ、どこに行くの!」


「カーニバルの実行委員会のとこ! 今回の祭りに、目玉のイベントがないって嘆いていたのよ! ヴィクトリ王国の王女である私と、十人委員会の代表であるユキが祭りを盛り上げるといえば、喜んで快諾してくれるわ!」


「ちょっ、待ってよ!」


「自宅軟禁にしてた元老院のジジイたちにも働かせましょう! ユキの気に入るようなステージを用意するから。期待して待っててね!」


「人の話、聞いてる!?」


 ボクの叫びも虚しく、アーニャがものすごい速度で走り去っていった。バタン、といつもより大きな音を立てて扉が閉まる。


「…あ、…ああ」


 ボクは膝をついて、その場に倒れこんだ。


「…どうしよう」


 振り返って、仲間達に助けを求める。

 だが、誰ひとりとして目を合わせようとしなかった。


 この瞬間。

 ボクは、…アイドルになることが決定した。

更新再開!

週末に、2〜3話くらいのペースで上げていく予定です。

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