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第67話「信じること、信じられること」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇――  


「ユキーーッ!」


 サンマルコ広場の上空でアーニャが叫ぶ。

 古龍ラグナロクの背には、四人の人物が乗っていた。コトリ、ジン、ミク、そしてアーニャ。


 ジンとミクの傷の手当てをしたアーニャは、ジンたちにつれられて上空にいるコトリと合流していた。


「ちょっと、降ろして! ユキを助けに行かないと!」


 ジンに掴みかかるアーニャ。

 その表情は真剣そのものだった。


 だが、ジンは落ち着いた声で答える。


「助けにいこうにも、あそこは狭すぎる。ラグナロクで攻撃したら、国全体が焼け野原だぞ。なぁ、コトリ?」


「…うん。やけのはら」


「それに俺達だって満身創痍だ。助けに行こうとしたら、こっちが危なくなる。それはユキの望むことじゃないだろ」


「じゃ、このままユキを見殺しにするってわけ!」


 目を吊り上げながらジンを睨みつける。

 そんなアーニャを見て、ジンはわかりやすくため息をつく。


「…はぁ、騒がしい姫さんだ」


 ボリボリ頭をかきながら言葉を続ける。


「ユキは一人でやるって言ったんだ。だったら、俺達はアイツを信じて待つしかないだろう」


「何それ! そんなことして、ユキが死んじゃってもいいの!」


「アイツは死なねぇよ」


 ジンは真っ直ぐアーニャのことを見据える。


「人が死ぬことがどういうことか、アイツはよく知ってる。死んで不幸になるのは自分じゃない。…残された側の人間だ。残された人間の苦しみを知っているアイツが、俺たちを残して死ぬようなことは絶対しない」


「ぐっ…」


 ジンに言い負かされ、不機嫌そうに口を閉じるアーニャ。

 周囲に賛同を得ようと見渡すが、ミクは肩をすくめるだけで、コトリは関心がないように無表情のまま前を見ている。


「なぁ、姫さん。お前も人の上に立つ人間なら、人を信じることを覚えないとな。とりあえず、自分が好きになった人くらい信じてみたらどうだ?」


「なっ!」


 アーニャの顔が一瞬にして真っ赤に染まる。

 そんなアーニャを、ミクが面白くなさそうに見ていた。


「まぁ、本当にやばそうだったら手を貸すさ。その時は、国が滅んでも文句は言わないでくれよ。仲間と国、どっちが大切なのか理解しているつもりなんでね」


「…利己主義なのね」


「現実主義者、と言ってほしいね」


 そう言って、ジンはニヤリと笑った。



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



 …目の前が真っ暗だ。

 ふわふわとした浮遊感を感じながら、そっと辺りを窺う。


 誰もいない。

 あの黒髪の女の子もいなくなっている。


 それはそうか。


 あの子は私だったんだから、いるわけないか。

 もう、ここには私しかいない。


 一人ぼっちだ。

 また、一人ぼっちになってしまった。


『…ねぇ』


 あれ?

 誰かの声がする。

 ここには私しかいないはずなのに。


『ねぇ、目を覚ましたら? いつまで眠っているつもりなの?』


 誰なの? 

 女の人の声だ。

 どうしてか、とても懐かしい気がする。


『キミは、仲間を置いて。このまま何もしないつもりかい? 今、この瞬間でも。キミのことを信じている人たちを裏切るつもりかい?』


 私の頭に、ジンやミク、コトリの顔が順番に思い出されていく。

 …アーニャ。きっと、あの子は泣いてしまうだろう。

 …それは嫌だな。


『だったら、早く目を覚ましなさい。立ち上がって、あの生意気な化け物をブッ飛ばせ! 二度とお前に歯向かわないように、コテンパンに叩きのめしてやりなさい!』


 …ふふっ。随分と物騒なことを言うんだね。

 …あなたは誰なの?


 私の質問に答えるように、声の主は息巻いて言った。


『はぁ、まったく! …ウチの弟。いや、ウチの妹ならそれくらいやってみせろ! ピンチのときこそ笑え。ずっと、そう教えてきたじゃない!』


 その言葉を聴いた瞬間、目の前の暗闇が薄れていった。

 意識が鮮明となり、目覚めが近づいてくる。


『ほらっ、行ってきなさい。ウチは、いつでもキミを応援しているよ』


 女性の声が、どんどん遠くなっていく。

 それと同時に、目を覚ました。


 …今のは―

 …姉さんの声?


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