第62話「開戦!」
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サンマルコ広場は長方形をしている。
この国で最も大きい石畳の広場であり、ヴィクトリア宮殿や大聖堂など重要な建物がいくつも隣接する。建物の壁に囲まれた広場なのだが、閉塞感などは感じない。むしろ、広場の中央に立てば、美しい建造物を一望できる開放感すらある。
そのサンマルコ広場の中央に、ゲンジ先輩は立っていた。
赤と黒のオーラを纏った狂戦士。
足取りが重い。
手も微妙にかじかんでいる。
緊張しているのかな?
息を軽く吸って、ゆっくり吐く。
気持ちを落ち着かせて、真っ直ぐと歩いていく。
一つに束ねたポニーテールと短めのスカートが、朝の風に揺れている。
ひんやりとした空気が、とても清々しい。
余分な力を抜いて、余計なことを考えるのはやめよう。
目の前のことにだけ集中するんだ。
「やぁ、ゲンジ先輩」
バーサーカーとなった、一つ年上の先輩を見上げる。
ジンとミクの猛攻を受け続けていたのだろう。さすがのゲンジ先輩も無傷じゃなかった。いくつもの傷から血が滲んでおり、まぶたの上からは、今もなお出血が続いている。
それでも、なお。
狂気に満ちた闘志だけは衰えない。
「先輩も知ってるよね。十人委員会に所属しているうちは、他人に迷惑をかけたらいけないって。この規則に違反したら、ギルドマスターから、お仕置きを受けなくちゃいけない」
ゲンジ先輩は何も答えない。
意味のない呻き声をもらしながら、狂気に満ちた目で見つめる。
「…何が先輩をそこまで追い詰めているのか、ボクにはわからない。でもね、考えることをやめて他人を傷つけるなんて、絶対にやってはいけないことなんだ」
カチャリ、と銃を持ち上げる。
「…だからボクは。…いや」
長い髪が風に煽られ舞い上がる。
スカートがふわりを浮き、女の子独特の曲線が露になる。
「私は、お前を許せない! その曲がった根性をたたき直してやる!」
手加減はしない。
持ちうる全ての力で叩き潰す。
「私の名前は、御影優紀! 十人委員会の『No.2』。『銃舞姫のユキ』。ギルドマスター代理として、あなたを粛清する!」
銃を腰の辺りに構えて、私は駆け出した。
同時に。
狂戦士の叫び声が、広場に響き渡った…




