第54話「曇天の雷」
ガッガッ、ガガッ!
ジンの鋭い爪と、ゲンジ先輩の大剣が激しく交差する。
その度に、光り輝き。
夜の闇の中、残光が尾を引く。
噴水は崩壊し、井戸も見る影をなくしていた。宮殿の壁はあちこちにヒビが走り、地面には大きな穴が開いていた。
「おいおい、ゲンジ先輩よぉ! アンタは何がしたいんだ!?」
「…そんな男、ここにはいないと言っているだろうが」
ゲンジ先輩は鉄の大剣『ベルセルク』を構え直しながら、ジンと向かい合う。
「…それでも答えるなら、我は与えられた役目をまっとうしているだけだ」
「役目? 何の話だ?」
「…我は警備隊の隊長。法に則って、罪人を確保する。それが我に与えられた役目だ」
「だから、この国の王女を捕まえて処刑しようっていうのか?」
「…」
ゲンジ先輩は何も答えない。
「なぁ、ゲンジ先輩。俺には、アンタが自暴自棄になっているようにしか見えない。もっというなら、暴走している自分を止めてくれる人を探している。そんなようにしか見えないんだよ」
ジンは軽くため息をつきながら頭をかく。
「それが、よくわからねぇ。なんで警備隊の隊長なんてやっているんだ?」
「…貴様に何がわかる?」
「あ?」
「死ぬことを許されない、この体。銃弾でも刃物でも、傷すらつかない。この体でいる限り、我は死を選ぶことはできんだろう」
ゲンジ先輩の話を聞いて、ジンは眉を寄せながら首を傾げる。
「…もしかして。死ねば、元の世界に戻れるとでも、思っていたりするのか?」
「…」
ゲンジ先輩は、何も答えない。
その様子を見て、ジンは思わず天を仰いだ。
「はぁ〜、マジかよ」
戦意を喪失したかのように、だらんと両手をぶら下げる。
「まさか、ここまで」
「…」
「ここまで、…バカだとは思わなかった」
ゆらりと体を揺らす。
少しだけ前かがみになって、真っ直ぐゲンジ先輩のほうを見る。いや、睨みつける。
「なぁ、ゲンジ先輩。…いや、郷田源次郎。お前は臆病者だ。逃げることしか考えていない卑怯者だ」
バチッ。
ジンの毛が逆立ち、電気のような光が一瞬走る。
「だから、俺はお前が嫌いなんだよ」
バチバチバチッ!
銀色のたてがみが鋭利な刃物のように鋭くなっていく。
鋭い閃光が駆け巡り。
銀色の紫電が、ジンを包み込む。
「…構えろ。じゃないと命は保障しないぞ」
前傾姿勢を強め、飛び出すような姿勢をとる。
そして、次の瞬間。
ジンの体は、銀色の雷となって。…巨体なオーガ族の体を貫いていた。
「ぐおおおっ!」
ジンの鋭い爪が、深々と食い込む。
大量の血飛沫を上げながら、ゲンジ先輩は宮殿の壁へと叩きつけられた。
その様子は、さながら。
曇天から降り注いだ、白銀の雷のようであった。落雷のような衝撃に、宮殿の窓ガラスをひとつ残らず砕け散った。
バリッ、バリッ、バリッ!
砕け散ったガラスの破片を踏みしめながら、白銀のジンは軽蔑するように見下ろす。
「立てよ。ゲンジ先輩よぉ! その腐った性根、ここで叩き直してやる!」




