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第51話「合流」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「遅かったな」


 深夜。誰もが寝静まった時間。

 朽ちた教会前で、ジンが手を上げる。


「ごめん、ちょっと準備に手間取ってた」


「そうか。まぁ、こっちも到着したとこだしな」


「…ミクは?」


「ミクなら、その辺を走っているんじゃないか? まったく、猪みたいな女だよ」


「ははっ、気合十分だね」


 ボクはポニーテールの先端をいじりながら、ミクの心境を察する。ゲンジ先輩に完敗したこともあるけど、この世界で走れることに、じっとはしていられないのだろう。


「ジンは大丈夫?」


「準備のことか? 俺は特に準備するものなんてないぞ?」


「そうじゃなくって…」


 ボクが口を開くと、ジンが黙って上を指差す。

 そこには月も、星もない。真っ暗な夜空が広がっている。


「あー、なるほど…」


 ボクは納得したように声を漏らす。


「見つけたんだね」


「んー、見つけたというか、見つけてもらったというか」


 ジンにしては、珍しく歯切れが悪い。

 そこへ、息を切らしたミクが。ボクとジンの間に割って入ってきた。


「うりゃー、この不届きもの!」


「うわっ! …って、不届きものってなに?」


「はあ? ゲンジの奴にお礼参りに行くんでしょ。なんでアタシを誘わないのよ!」


 ミクは腕を組んだまま、キツイ目つきでボクを睨んでくる。

 服装はいつもと同じ、ジーンズとTシャツ。その上に着物を羽織っている。柄は、真っ赤な枝垂桜だ。


「えーと、ジンから聞いてないの?」


「うるさい! こういったことは、本人が話に来るべきでしょ!」


「う、うーん…」


 ボクが困っていると、ジンがにやりと笑う。


「ミクはな、俺からじゃなくて、ユキに直接お願いされたかったんだよ」


「ばっ! な、何言ってるのよ!」


 ミクの顔が一瞬にして真っ赤になる。


「放っておいても来るくせに、難儀な奴だよな。ユキに頼られたかったんだよ」


「もう黙れ!」


「ぐおっ!」


 ミクの正拳突が、ジンの腹に深々と突き刺さる。


「べ、別に、ユキが心配だからとか、そんなんじゃないから。アタシにだって、ゲンジの奴に借りがあるだけだし!」


 ミクが顔を赤く染めたまま視線をそらす。

 殴り倒されている狼男と、顔を赤く染めてもじもじしている人形使い。この二人が、今夜の攻略パーティだ。


 そして、もう一人。


「くそっ、ミクの奴。本気で殴りやがって。…それじゃ、ユキ。呼ぶぞ」


「うん、お願い」


 ジンが腹を押さえたまま、片手を上に上げる。

 すると、上空から。何か風の切るような音が聞こえてきた。何もなかった夜空に、二つの星が現れる。その星は仲良く並んだまま、少しずつ大きくなっていく。


 いや、それは星ではなかった。

 眼だった。

 人の頭部ほどもある眼球が、光に反射していたのだ。


「…すごいね」


「…あぁ。俺も最初見たときは、本気でビビったよ」


 バサ、バサッ。

 翼をはためく音が、風斬り音をかき消していく。やがてそれは、教会前の海へと着水する。


 鋭い眼光。

 凶悪な牙。

 全てをはじき返す強固な鱗。

 そして、無数の羽がそびえる六枚の金色の翼。


 この世界で太古から存在する最強種。あらゆる生物の頂点に立つ存在。そして、世界を黄昏へといざなう破滅の龍。


 『古龍・ラグナロク』。

 そして、その巨大な龍の背中には、小柄な人影があった。


 狐の耳と尻尾をもつ小さな少女。

 白のワンピースに水色のマフラーを巻いている。彼女は現実世界と変わらず、感情の薄い顔でボクたちを見下ろす。


「…待った?」


「いいや、待ってないよ。コトリ」


「…そう」


 召喚師のコトリ。現実では、小鳥遊ゆみ子。

 彼女もまた、ボクたちと同じように、この世界に来ていた…

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