第41話「人形魔法」
忘れられた島の住人を、銃を持って取り囲んでいる警備隊の男たち。
その先頭にいる大柄な男、ダルトン副隊長。
ミクが近づいて声をかける。
それは、いつものように気だるそうな声だった。
「なんだ、貴様は?」
「あー、アタシ。最近、この辺りに来たものなんですけど、何かあったんですか?」
ミクは肩に羽織った着物の袖を揺らしながら、ごく自然な態度で警備隊と島の人たちの間に割って入る。
「むぅ、見慣れぬ奇妙な格好だな。何者だ、貴様?」
「いやいや。質問してるのは、こっちなんだけど…」
そう言って、ぼりぼりと頭をかく。
「…ねぇ。アンタ、子供を銃で撃ったよね。なんで撃ったの?」
ミクが子供のほうを見る。
子供をかばって撃たれた母親は、痛みに耐えるように表情を歪めていた。
だが、そんなミクの質問を聞いて。
ダルトン副隊長は笑いを堪えず噴き出した。
「ぷっ。ぷはははははははっ! なんでだと? 貴様はなんにも知らないんだな! この島に住んでいる住民はな、国に住む居住権を持たない者たちなんだ。つまり、死んだところで誰も困らない、クソの肥溜めなのだよ!」
ダルトン副隊長の笑い声は止まらない。
後ろに並んでいる警備隊たちも、くすくすと笑っている。
すると、ミクの目が。
すっ、と細くなった。
その目は獲物を狩る猛獣。…いや、猛獣を狙う狩人に近かった。
「アンタら、クズだね」
「…は?」
ダルトン副隊長が笑うのをやめて、じろりとミクを睨む。
「本当にアンタが警備隊の副隊長なの? アンタみたいな人間が、人の上に立てるとは思えないんだけど。…あー、だから、隊長から降ろされたのか。納得だわー」
「なに?」
ダルトン副隊長が怒りに身体を震わせる。
目は血走っていて、額には血管が浮き出ている。
「…今、貴様は何と言った」
「クズ野郎、って言ったのよ。自分より弱いものを虐めて楽しんでいる小心者が。イキがってるんじゃないわよ」
その言葉が、ダルトン副隊長の怒りに火をつけた。
手に持っている銃を持ち上げると、怒りに震える手でミクを狙う。
「黙れ、小娘!」
雄叫びが広場に響く。
そして、同時に。パンッという炸裂音がした。
男が銃の引き金を引いたのだ。
銃弾は、男の持つ銃から飛び出し、真っ直ぐにミクへと向かっていく。
男は、にやりと笑う。
だが、次の瞬間。
その表情が凍りついていた。
「…な、なんだと」
銃弾はミクにまで届いていなかった。
ミクの眼球まで、あと1センチのところで。何かに弾かれたように地面に落ちていた。
そこにいたのは、屈強な大男だった。
瞬時にして、ミクの側に現れた男。その男が、飛んでくる銃弾を拳で弾き落としていたのだ。鋼のような肉体に、2メートルは超えるような体躯。
そして、額には。
召喚に必要な式紙が貼り付けられていた。
「…式神召喚。『拳王:参式』」
ミクが、小さな声で詠唱を終えていた。




