第72話「やはり暴力。暴力はすべてを解決する」
「……っ」
「……ふふっ」
先輩たちも何も言わなかった。
その背中で語っている姿こそ、ボクにとっての最大のエールだ。
残された『王の剣』は、あと3本。
いよいよ彼女にも後がなくなってきた。
あと、ちょっと。
もう少しで届く。
「くそっ! このっ、このぉっ!」
アーニャがは無茶苦茶に剣を操作して振り回す。その姿は戦っているよりも、子供が駄々をこねているように見える。その中でも、火の剣に力を集中させているのか、灼熱の炎を周囲にまき散らしている。
そんな光景を見て、声を上げたのは。
……天羽会長だった。
「おらおら、お姫様! 諦めが悪いぞ!」
手に持った魔銃・ヘルに銃弾を装填。
暴れ続ける火の剣を狙って、引鉄を引いた。ズドンッ、という炸裂音と同時に、ガギッと鋼が割れる音がした。よく見ると、『火の剣』の刀身に、銃弾の通った丸い穴が開いていた。
「あーはっは! どうだ、最後の銃弾の味は! こちらとて伝説級の武器を使っているんだ。勝てない道理なんて最初からないんだよ!」
天羽会長は魔銃・ヘルをぶんぶん振り回しながら、上機嫌に笑っている。
これで、あと2本。
とうとう至近距離まで詰められた。
ボクは魔銃・ヨルムンガンドを両手で構えながら、更に距離を詰めていく。
「や、やぁ! 来ないでぇ!」
アーニャの声は、すでに悲鳴になっていた。
彼女は周囲に漂っている2本の剣、『風の剣』と『土の剣』を手に取ると、こちらへと斬りかかってくる。高速移動からの連撃ができる風の剣と、防ぐことのできない砂上の刃を操る土の剣。最初に対峙したときと同じ剣をもって、アーニャはボクを迎え撃とうとする。
だが、彼女は気づいていなかった。
手に取った『土の剣』がすでに、崩れかけていることを―
「いやぁぁっ!」
アーニャが土の剣を握りしめる。
砂状となった刀身に、握る部分だけが残った剣。さらさらと零れる刃を振るおうと、彼女は大きく上段に振り上げた。
一度は敗北を喫してしまった土の剣だが、ボクは怯むことなく地面を蹴りだす。アーニャは気がついていない。手に持った土の剣の異変に。
……姉さんは言った。
……『これでいい。布石は打った』と。ボクと入れ替わる直前まで、姉さんは一番の脅威になる土の剣に攻撃をしていたのだ。この時、このタイミングで。『土の剣』を破壊するために。
「……砕けろ」
ボクが小さな声で呟く。
すると、それが合図だったかのように、パリンッと土の剣が砕ける音が響いた。
突然、持っていた剣が壊れて、アーニャは困惑した表情になる。目を見開いていて、何が起きたのか理解できないのだろう。もちろん、何が起きたかなんて教えてあげないし、考えるような時間も与えない。
その瞬間にも、ボクは彼女へと一歩近づく。
残り『王の剣』は、あと1本。
アーニャの焦燥した顔もはっきりとわかるほどの距離まで詰むことができた。
……ようやく。
……ようやく、ここまで来れた。
ジン、ミク、コトリ、有栖、碓氷君、快司君、ハーメルンさん、誠士郎先輩、ゲンジ先輩、天羽会長。……そして、姉さん。
皆の力を借りて、勝利への活路を強引にこじ開けることができた。いつもと同じで作戦なんかなく、全員で畳みかけるような強行突破で、ようやく掴んだチャンス。
失敗は許されない。
泣いても笑っても、これが最後の一騎打ちだ。
「はぁぁぁっ!」
ボクはヨルムンガンドを彼女に向けて、引鉄を何度も絞る。
螺旋状に放たれた銃弾は、アーニャのわずか手前にある魔方陣によって防がれてしまう。自動防御魔法『王家を守る盾』。中途半端な攻撃では、この魔法によって全て無効化されてしまう。
だが、問題はない。
既に、この盾の耐久度は把握してある。ヨルムンガンドの銃弾で4発。しかも、壊れてしまったら、再度、かけなくてはいけない。この至近距離の戦いにおいて、そんな猶予など与えるはずもない。メンバーの援軍が来るまで銃を使わずに凌いでいたのは、全てはこの瞬間のためだった。
「っ!」
ダンダンダンダンッ、と銃声が響く。
その4発目の弾が衝突したとたん、バリンッと派手な音を立てて魔方陣の盾が砕けた。緊急時の防御魔法『王家を守る盾』も失い、アーニャを守るものはなくなった。
「ひっ!」
彼女の短い悲鳴が聞こえた。
残された最後の『風の剣』を手に取って、こちらへと振りかざしてくる。既に体力も限界なのか、その剣の能力も使おうとしない。
ただ愚直に、真っ直ぐ斬りつけた。
……だけど、それはもう遅すぎるよ。
「ふっ!」
ボクはヨルムンガンドを振りぬいて、『風の剣』の刃を銃本体で受け止めつつ、を全力で払いのけた。キィンと金属音が鳴って、鋭い衝撃が走る。
「あぁ!」
その衝撃にすら耐えられなかったのか、風の剣はアーニャの手から離れ、遠くのほうへ飛ばされる。とうとう『王の剣』まで失い、完全な無防備となった。
「……っ」
そして、ボクは。
ヨルムンガンドを持っていた手を開いた。
指の隙間から魔銃が零れ落ちていく。
こちらから武装を解除したのだ。
互いに傷つけるものはなく、自分を守るものもない。
手を伸ばせば触れるほどの距離に、アーニャがいる。
それが、どれだけ幸せなことか。
「……ふぅ」
全身を包んでいた緊張が解けていく。
筋肉は一気に弛緩して、柔らかい表情を浮かべる。今も怯えるような顔の彼女に、暴力的な行動は慎むべきだ。そっと、両手を伸ばして、優しく抱きしめればいい。
だって、彼女は何も悪くない。
ただ怖かっただけなんだ。ひとりなのが不安で、心細くて、そんな毎日に押しつぶされそうになっていただけなんだ。
「……や、やだぁ」
ほらね。こんなにも怯えている。
今にも泣きそうになって、とても可哀想だ。
守ってあげたい。
どんなに辛いことがあっても、ボクが守ってあげる。辛かったら逃げればいいじゃないか? 怖かったら隠れたらいいじゃないか? 立ち向かうことばかりが正しいとは限らないでしょ。
そうだ、力に頼っていたら何も解決しないんだ。『暴力』では何も生まないんだから。
「……アーニャ」
ボクはそっと彼女の名前を囁く。
そして、その小さな肩にそっと手を置いた。彼女はビクッと肩を震わせるも、こちらに振り向いてくれる。そんなアーニャに、ニカッと満面の笑みを浮かべて。
優しく言い放つのだった。
「歯を食いしばれ♪」
「へ?」
呆けた彼女を前に、ボクは拳を作りながら腰を落とした。
守ってあげたい? 暴力では何も生まない? 誰がそんなこと思うものか!? 言葉が通じなければ拳で語るんだよ。そうやってボクたちは分かり合えてきたじゃないか。アーニャだって、ずっと見てきただろう。君のことを本当に仲間だと思っているから、ボクは本気でぶつかっていく。覚悟しろ。
「……ぉぉお」
全身の筋肉が再び唸りをあげる!
拳に力を!
魂に火を!
残された全ての力よ。
今この瞬間、右手に宿れ!
「ぉぉおおおおっ!」
ギリリ、と体をバネのように軋ませて、力を蓄える。
弓のように、銃弾のように。
その一撃に全てを放つために。
「おおおっ! ぶっ飛べぇぇーーーーーっ!!!」
やがて放たれた拳という名の弾丸は。
アーニャの頬を、深々と打ち抜いていくのだった―




