第70話「そして援軍。仲間と共に…」
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ユキたちと合流する、その数分前。
薄暗い廊下をひたすら走る人影があった。
人形使いのミク。
銀狼族のジン。
そして、その肩に乗っている召喚士のコトリだ。
「おい、ミク! もっと早く走れないのかよ!?」
「……ぜぇぜぇ、あんたねぇ。……あたし達がどれほど苦戦していたか知っているの!?」
ミクは息を切らしながら、ジンの肩に乗っている親友を睨む。
「ちょっと、コトリ!? あんたもそこから降りて走りなさいよ!」
「……やだ」
そういって、大好きなジンにぴったりと抱きつく。
彼らが目指しているのは、この地下迷宮の一番奥だ。そこで今も戦っているはずのユキへ加勢するためだった。『死体の山』を倒した彼らは、勝利の余韻に浸るわけもなく、すぐに奥へと走り出していた。
そして、そんな彼らも知らないことだが。
その後ろから、同じく猛スピードで最奥を目指す者たちがいた。中層からは、魔法使いの少年や幻術師の少女たちが。そして、その上層からは狂戦士と守護騎士と思われる2人の男が。
仲間のために、彼らは最奥部へ向かう―
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「あと、9本っ!」
ボクは残りの『王の剣』を数えながら、最後のマガジンに手を伸ばす。
これが正真正銘、ラストアタックになる。空になったマガジンを排出させて、新しいものを魔銃ヨルムンガンドに装填。最後の銃弾を重みを感じながら、いつでも駆け出せるように腰を落とした。
「頼んだよ、ユキ!」
「……あとは、まかせた」
ミクとコトリの声援に答えるように、軽く手を上げる。彼女たちの救援を無駄にするわけにはいかない。
「……アーニャ、いくよ」
そっと、小さな声で呟く。
苦しそうに頭を抱えて、嘆き叫んでいる彼女のもとへ、ボクは駆け出した。
「……っう」
体が重い。
一歩一歩踏み出す度に、鈍い痛みが走る。これまでの攻防で、全身を酷使しすぎた。体の限界はとうに超えていて、自分でも動いていられることが不思議なくらいだった。
「くっ!」
ガクッ、と膝が折れそうになるのを、なんとか気合だけで堪える。
……もう少し。
……もう少しでいいんだ。
……ボクの言うことを聞いてくれ!
「ぬあぁぁぁっ!」
残された力を振り絞って、最後の攻撃を仕掛けた。
全身の筋肉が悲鳴を上げる。頭痛など感じなくなり、頭が沸騰しそうなほど熱くなる。あまりの極限状態に気を失いそうになるが、それを唇を噛んで絶えてみせる。
アーニャまでは、まだ距離があった。
彼女も疲弊しているとはいえ、『王の剣』は健在だ。ボクの行く手を遮ろうと、彼女の周囲を漂っている。キィン、キィン、と金属がぶつかるような音を鳴らしながら、鋭い刃をこちらへ向ける。
その中でも、一番手前にあった黄金の両刃剣『雷の剣』が、黄金の稲妻を放ちながら突っ込んできた。
その速さは、まさに雷。
目で追うこともできないほどの稲妻に、一瞬だけ足が止まりそうになる、……が、その攻撃をジンが軽々と防いでみせた。
「おらぁ、テメェは俺が相手してやるよ!」
光の速度で動く『雷の剣』を、ジンは銀色の迅雷となって追いかける。もはや残光だけしか見えない雷の剣だったが、ジンにはそれが見えるのか、それ以上の速度で動いては、確実に弾いていく。
「行けっ、ユキ!」
「っ!」
ボクは再び全力で駆け出した。
アーニャまで、まだ遠い。
右手のヨルムンガンドを握りしめ、射程圏内に入るため走っていく。
だが、すぐさま。
次の攻撃が仕掛けられる。
「ぐうっ!」
突然、体が地面に押し付けられた。
……いや、押しつぶされそうになっている。見えない圧力が地面に向かって働いているのだ。まるで、重力が何倍にもなったかのように。
「……あ、あれは」
視線を上げると、幅広の剣が紫色に輝いているのが見えた。王の剣の1つである『重力の剣』。重力を操作する能力があり、人の体など簡単に押しつぶしてしまう。
そして、その隣にあるのは『氷の剣』。
その剣に突かれた武器は、完全に凍りついて破壊されてしまう。すでに、いくつもの武器を破壊されてしまっているが、体をあの剣で刺されたらどうなるか。考えたくもない。
「……くそ」
重力の剣と、氷の剣。
2つの剣が魔力を放ちながら舞い踊り、そして次の瞬間には。トドメを刺すために高速で放たれていた。
重力の網に押しつぶされるか。
氷像となって破壊されるか。
そのどちらかと選ぶこととなった。
……この2人が助けに来てくれなかったら―
「隷属魔法『投獄の拷問鎖』っ!」
「氷魔法『氷結の槍』っ!」
幻術師の少女と、魔法使いの少年の声が響いた。
それと同時に、重力の剣は魔法の鎖に動きを封じられ、氷の剣は無数の槍によって弾き飛ばされる。ボクは自由になった体で、慌てて後ろを振り向いた。
「……有栖、……碓氷君」
そこには、妖艶さが影を潜めるほど必死になった有栖と、折れた魔導杖を辛そうな表情で突きつける碓氷涼太の姿があった。




