第68話「たまには、昔話でも…」
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ふと、昔話を思い出す。
それはまだ、この世界に来る前の、ゲームだったころの《カナル・グランデ》の話だ。ボクたちは、とある戦場に立っていた。
「おいおいおい! こんな状況、どうすればいいんだよ!」
「前線が崩れました! 攻撃がこちらに集中してきます!」
「くそっ。他のギルドは何をやっているのだ!」
音声チャットを介して、メンバーたちの焦りの声が聞こえる。
砂と枯草だけの荒野。
そのフィールドに、何千、何万というプレイヤーが集まって、たった一体のモンスターと戦っていた。とてつもなく巨大な城型のモンスター。その大きさは山のようであり、普通の攻撃ではダメージを与えられない。まるで運営側からの挑戦状ともいえる超ド級のモンスターに、数多くのプレイヤーが参加した。その中には、実力派ギルドも勢揃いしていて、かつてない規模の戦闘となった。
序盤は優勢だった。
有力ギルドが集まっていたせいか、屈強な前衛が何百人と束になってモンスターの進行を防いだ。その隙に、後衛から強力な魔法攻撃を放ち続ける。
だが、モンスターの体力が少なくなり、暴走状態に入ると優劣は一転した。前衛を支えていたプレイヤーが次々と倒されていたのだ。そのせいで、後衛にまでモンスターの攻撃が届くこととなる。
「だぁぁ! こんな山みたいな奴、どうすれば倒せるっていうのよ!」
「ダメだ! 他の奴らがパニックになっている。これじゃ、連携がとれねぇ!」
「み、皆さん! お、お、落ち着いてください! 作戦を考えますので―」
作戦参謀役の誠士郎先輩が、動揺した声で叫ぶ。
だが、そうこうしているうちに、他のギルドのメンバーが次々と脱落していった。役割を忘れて逃げ惑うもの、さっさと諦めて戦闘から離脱するものまで。
そんな混乱した状況のなか。
音声チャットの向こうにいるジンが、大声で叫んだ。
「作戦だぁ!? んなもん関係ねぇ!」
「突撃だ! 突撃するぞ!」
「我らの大和魂を見せてやれ!」
大混乱となった戦場で、ボクたちのメンバーだけがモンスターへと向かっていく。
「ちょ、ちょっと待ってください! 今から作戦を考えますので―」
「それは必要ありませんわ」
「……いつものこと」
「……あぁ」
「おうよ! 俺たちはいつだって、最後はメンバー全員で突撃してきただろう!」
「あーはっはっは! もう、どうにでもなれッス!」
メンバーたちの楽しそうな声を聞きながら、ボク自身も突撃の群れに混じっていく。
いつも通りだった。
最後には、作戦と呼べるものはなく。
ただ、メンバー全員で活路をこじ開けていく。
……それは今も変わらない。
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「はぁぁっ!」
両手に持ったヨルムンガンドで、アーニャのことを狙い撃つ。
残弾が少ないとか、あとマガジンが1つしかないとか、そんなこと考えなしに。ボクは引き金を引き続ける。ダン、ダン、ダンッ、と放たれた銃弾は彼女へと吸い込まれていくが、『王家を守る盾』という自動防御魔法によって防がれてしまう。
「ちっ!」
「ユキッ! 後ろだ!」
天羽会長の声に慌てて後ろを振り向く。
そこには樹の剣から伸びた巨大な植物が、こちらへと向かってきていた。ボクは急いでスキルを発動させて、壁伝いに天井へと逃げ込む。
「っ! 危ない危ない!」
「くそ! この野郎!」
天羽会長が魔銃ヘルを撃つ。
対戦車ライフルから放たれた銃弾は、樹の剣を遠くへと弾き飛ばし、それと同時に巨大な植物の姿が消えた。それを見届けると、会長は銃のボルトレバーを引いて、空薬莢を排出。そして、レバーを押しこんで再装填させた。
ボクは一度、地面に下りて会長の隣に立つ。最後のマガジンを手に取るが、再びポケットへと戻した。まだ、使うときではない。
状況は、良くなかった。
完全に手が足りなかった。ひとつひとつなら対応できる『王の剣』でも、12本を同時に使われたら逃げるしかない。体力と気力、そして残りの銃弾を消耗させながら、息のつまる攻防が続いていた。
「まだまだぁ!」
「オラオラ! 休んでいるんじゃねぇぞ、お姫様!」
ボクたちの視線の先では、アーニャが辛そうに肩で息をしていた。額には冷や汗をかいていて、表情はかなり険しい。『王の剣』と『王家を守る盾』の同時使用は、それだけ負担がかかるということだろう。ボクたちがアーニャが疲れている、今こそ勝機だと思い、果敢に攻め続けていた。
何度、倒されようとも。
何度、吹き飛ばされようとも。
歯を食いしばって立ち上がる。言うことを聞かない体に鞭を打って、折れそうになる心に叱咤して、再び走り出していく
「はああぁぁっ!」
「オラオラオラッ!」
いつものように活路をこじ開けようと、何度も、何度も足掻く。格好悪いな、と思いながらも、それでも諦めない。
怖がらない。
怯まない。
恐れない。
意地と虚勢の二本足で、アーニャへと挑み続ける。
最後の一瞬に、全てを賭けるために―




