第34話「病院の栄養食が、お前を待っているぜ!」
「きゃ、きゃぁぁ!? あ、アーニャ! 何やってるの!」
慌ててスカートを押さえようとする。
だが、アーニャが許してくれない。
「ほらほら、もっと見せてあげたら。ユキは見えないところまで、女の子なんだから」
「や、やめてよ!」
恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。
鉄格子の向こうにいるミクも唖然としていた。
「も、もう! いい加減にしてっ!」
ボクはアーニャの手を引き離すと、急いでスカートを直す。体中からは、汗が噴出していた。
「あーら、残念。もっと見ていたかったのに。…でも、いいか。一緒に住んでるんだし、ユキの下着姿なんて見放題だもんね」
ぷちん。
牢獄から、何かが弾ける音がした。
「昨日なんか、一緒のベッドで寝たのよね。ユキの寝顔、とーっても、可愛かったんだから」
ぷちっ、ぷちん!
牢屋の住人から、凄まじい威圧感を放っている。ミクの顔は、もはや人間がしてもいい表情ではなくなっていた。
あれは、鬼だ。
目がギラリと赤く光り、噛み締めた口元から、シューシュー何かが漏れる音が聞こえる。
「…ねぇ、ユキ。その女の言っていることは本当なの?」
相変わらず、声は落ち着いたものだ。
だが、その本心は別にあることを知っている。腹の底から冷えるような怒りが、ボクに向けられている。
「…正直に言いなさい。さもないと、アンタだってただじゃ済まないわよ」
ギラギラ光った目がボクを射抜く。
怖い。
怖すぎる!
恐怖に全身を震わせながら、ボクは静かに首を振った。
「…そう。わかった」
ズンッ、とミクが立ち上がった。
そして、鉄格子に近づくと、ゆっくりと拳を構えた。
「はぁっ!」
ドゴンッ!
ミクの拳が鉄格子に触れた、その瞬間。
鉄格子は一瞬にして吹き飛んでいった。牢屋の壁を突き破り、跡形もなく消えてしまう。
…あぁ。後衛から援護する『人形使い』のはずなのに。
こういうことをしてしまうから、彼女のステータスを思い出させてしまう。その超前衛的な能力値を。
ガラガラガラッ!
刑務所の壁は崩壊し、外から太陽の明かりが入ってくる。その光りを浴びながら、ミクはゆっくりと牢獄から出てきた。
「…やれやれ。喧嘩なんて、中学で卒業したっていうのに」
ミクがアーニャに向けて、ズビシッと人差し指を突きたてる。
「このクソ女が、再起不能にしてやる」
そんなミクを見て、アーニャは悠然と構えている。両手を腰に当てて、鋭い眼差しを向ける。
「ふん。あんなことを言われて、頭にこない人はいないのよ。来なさい、返り討ちにしてやる」
バチバチと視線が交差する。
あ〜、マズイ。またミクが病気を拗らせている!
「ちょ、ちょっと待ってよ! アーニャ、ミクもさ!」
「止めないで、ユキ。時にはね、拳じゃないと理解できないことがあるのよ」
ミクが拳を握りながら、アーニャを激しく睨みつける。
そんなアーニャも自分の世界に入り込んでいた。
二人が静かに対峙する。
一触即発の空気だ。
ザッ、とミクが一歩近寄る。
その瞬間。二人の目が、カッと開いた。
「おらっ! 病院の栄養食が、お前を待っているぜ!」
「くたばりなさい! そんな薄味なもの、あなたが食べてろ!」
彼女たちの拳が激突する。
…その時だった。
遠くから、男たちの悲鳴が聞こえてきた。




