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第64話「ボクたちは君を助けるために、ここに来た」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 ……胸が、熱い。

 ……姉さんの言葉が、何度も心の中で響いているみたいだ。


 ボクは閉じていた目を開ける。

 そこに広がっているのは、激しい戦いがあった戦場だった。空気まで焦げている。壁や床のあちこちに『王の剣』が突き刺さっていて、どれだけ激しい戦闘があったのか容易に想像できた。


 そして、その中心に彼女の姿が、……アーニャがいた。


 本当に激しい戦闘だったのだろう。

 彼女もまた、無傷ではなかった。小さな切り傷や擦り傷が目立ち、その服も土と埃で汚れてしまっている。

 なにより、彼女の表情に目が引かれた。

 アーニャは疲れ果てていた。顔色に覇気はなく、辛そうに肩で息をしている。それでも闘志は消えてはいないようで、瞳だけは強い光を放っている。負けたくない、という強い意思を感じた。


「……戻って、これた」


 ボクは胸に前でしっかりと拳を握った。

 まだやれる。もっとやれる。抑えきれない感情に身を任せて、ボクはこの場所に立つ。


 ……さぁ、もう一度。

 ……ここから始めよう。


「よう、優紀。どうやら本当に戻ってきたみたいだな」


 声のするほうへ振り向くと、どうしてか天羽会長の姿があった。地上で戦っていたはずなのに、と思ったが。天井から突き出した潜水艦を見て、いろいろと納得した。


「会長、すみません。ボクが負けてしまったばっかりに」


「問題ないさ。それに、あの姫さんの相手はほとんど優奈がやっていたからな」


「……姉さんが」


 ぐっ、心が熱くなる。

 姉さんの想いを無駄にしないためにも、絶対に負けられない。


「姉さんは、何か言っていましたか?」


「いつもと同じ調子だったよ。最後まで楽しそうに笑っていた」


「あはは。でしょうね」


 心に残った、一握りの寂しさ。

 それを敢えて口にする必要はないだろう。


「それで? お前だけなのか? てっきり、ジンや快司も一緒だと思ったのだが」


「あぁ。あの2人はそれぞれやる事があるみたいで。でも、心配いりません。すぐに合流・・しますよ。れよりも、まずは―」


 ボクは腰に手を伸ばして、そこにある銃を引き抜く。


「アーニャを一発、ぶん殴りたい気分です!」


「はっはっは、そうだな!」


 会長も上機嫌に笑って、持っている魔銃ヘルを構え直す。

 これが本当に最後の勝負になる。手にした魔銃ヨルムンガンドのマガジンを抜いて、新しいものと交換。残りのマガジンは、あと2本。他の武器はなく、白虎も青龍もフェンリルも失ってしまった。世界の支配者ゲームマスターである彼女と戦うには、あまりにも心細い装備。


 だけど、それがどうだっていうんだ。

 腰のポーチから予備のマガジンだけ抜いて、その場に放り投げる。ちょっとでも早く動くために、空のホルスターも外して、黒ズボンと白のワイシャツ姿になる。格好なんて気にしない。無様でも泥臭くても。貪欲に勝利を目指す。


「会長の残弾はどれくらいですか?」


「これが最後のマガジンだ。あと、5発ってとこだな」


「わかりました。では、会長の好きなように戦ってください。……ただし、最後の1発だけは残してください」


「ほほう? 何か作戦でもあるのか?」


 楽しそうに笑う会長に、ボクはちょっとだけおどけてみせる。


「作戦なんかありませんよ。いつものように戦うだけです」


 その言葉に、会長は首を傾げる。

 だが、ボクの言いたいことがすぐにわかったのか、不敵な笑みを浮かべた。


「なるほど、いつも通りだな」

「えぇ、そうです」


 ボクはそう答えると、ヨルムンガンドを片手にアーニャのほうを見る。そして、両手でしっかりと狙いをつける。


「さぁ、アーニャ。喧嘩の続きをしようか」


 ボクの問いかけに、彼女は緩慢な反応を見せる。

 蓄積した疲労に、体が追いついていない。それでもアーニャはこちらを睨みつけている。


「……ユキ、どうやって戻ってきたの?」


「ボクの力じゃないよ。ジンと快司君、それにたくさんの人たちが力を貸してくれた。君を、この世界から救うために」


「まだ、そんなことを言っているの?」


 アーニャは頭を乱暴に掻いて、その蜂蜜色の髪を乱していく。


「私は、戻らないよ。絶対に、何があっても、あんな世界になんて帰りたくない!」


 彼女の瞳に、再び敵意が宿る。

 自分の周囲に『王の剣』の魔法陣を展開させて、いつでも攻撃できる姿勢を作った。魔法陣に突き立てられた複数の剣。そして、地面や壁に刺さっているもの、今もアーニャが握っているもの。それら全て合わせて12本。

 その12本の『王の剣』の全てを、アーニャは同時に引き抜いた・・・・・


「……『王の剣サン・マルコ』よ。目の前の敵を、全て滅ぼせ!」


 アーニャが叫ぶと同時に、12本の剣は勝手に動き出した。生き物のように身じろぎを見せて、彼女の背後へと飛んでいく。そして気がついたころには、主の命令を待つように漂うのだった。

 彼女がちょっとでも動けば、12本の剣もそれに合わせて動く。


「かーっ! あの剣を全部同時に使えるってのか!?」

「アーニャの最後の大技ですね」


 ボクたちも身構えながら、いつでも攻撃できる体制を整える。


「さぁ、最終ラウンドですよ!」

「おうよ!」


 12本の剣を操るアーニャに向かって、ボクは力一杯に駆け出した―



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



 幾重にも重なる金属音。

 刃と刃が交差して、あるいは弾かれながら、交響曲のような音色を奏でていく。


 ただし、それは死の戦慄だ。

 12本の剣で構成された『王の剣』が、アーニャの指示に従ってこちらへ襲ってくる。右手を振り下ろせば炎と雷が駆け抜けて、左手を掲げれば土と氷の刃が地面から突き出した。ひとつひとつの剣が、伝説にまでなっているその威力は、ボクたちの前に高く立ちはだかる。


「くそっ! もう一度!」

「おうよ!」


 光の剣と闇の剣に弾かれながらも、ボクは空中で姿勢を整える。そして、地面に足がついた瞬間には、再び彼女へと駆け出していた。

 重力の剣を躱して、水の剣を強引に蹴り飛ばす。死角から迫ってきた毒の剣をヨルムンガンドの銃弾で弾き、ボクはひたすら前へと進む。


 子供のように叫ぶ、アーニャに向かって。


「なんでっ! なんで、わかってくれないの! もう、こっちに来ないで! 私に近づかないでよっ!」


 彼女は声が枯れるほど吠えながら、その両手で12本の剣を自在に操っていく。


「ようやく諦めがついたのに! せっかく現実に帰せたのに! なんでユキが私の前に立っているの! どうして、優しくしようとするの! もう私は何もかも諦めたっていうのに!」


 樹の剣が巨大な大木となって押しつぶそうとしてくる。それをわずかに身をそらしてよけるが、目の前に迫ってくる風の剣に襲われる。


「っ!」


 逃げ場がない、と思ったのもつかの間。ボクの窮地に気づいて、会長がすぐさま魔銃ヘルを発砲。高速の銃弾に当たって、風の剣は遠くへと飛ばされる。


「ありがとうございます! 会長!」


「気にするな。……それにしても、お姫様のほうは正気を失くしていないか?」


 アーニャは顔に手をあてながら、苦しそうに唸っている。

 悩んで、絶望して、全てを諦めて。

 それでもボクたちが手を伸ばしていることが、さらに彼女を苦しめているのだろう。


「だとしても!」


 ヨルムンガンドに新しいマガジンを入れながら、ボクは言う。


「アーニャ! ボクたちは君を助けるために、ここに来たんだ!」


 その声が彼女に届いたのか、それは誰にもわからないー

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