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第61話「遅かったな、ユキ。待ちくたびれたぜ」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 真っ白な廊下が続いている。


 ここはどこだろうか?

 見覚えのない景色に頭をひねるけど、やっぱり見当もつかない。


 そして、そうやって考えている間にも、ボクの足は自然と前へ進んでいく。


 不思議な気分だった。

 体は妙に軽いのに、心だけがずっしりと重い。

 何か、大切なことを忘れているような。

 そんな気持ちになってくる。


「……ボクは、……どこへ向かっているのだろう」


 その問いに答えるものはいない。

 ただ白く清潔感のある廊下には、ボク以外には誰もいない。前のほうを見ても、廊下が果てしなく続いているだけ。横には、額縁のついた窓があるけど、廊下と同じで白く塗りつぶされている。


 後ろを振り返ろうものなら、そこには何もない。進んだ先から、廊下がなくなっていく。


 戻ることはできない。

 ただ、ひたすら、前に進むしか道はない。

 だけど、本当にそれでいいのか、と問いかける自分もいる。


 立ち止まって何をすればいいのか?

 何を、思い出せばいいのか?

 ボクの思考は、勝手に過去に遡ろうとしている。大切な何を忘れないために。大事だったものを見失わないように。ぼんやりとした記憶にはない、心や体が覚えている思い出の欠片を、ひとつずつ集めていく。


 気がつけば、足が止まっていた。

 思い出の欠片はどんどん集まってきて。

 とある風景を思い出させる。

 それは、何も特別なことでない日常。

 ボクがいて。

 仲間たちがいて。

 そして、彼女がいて。

 楽しそうに笑いながら、ふざけあって、ちょっと喧嘩になって。です、すぐに仲直りして。いつもの皆で笑っていられることが、こんなにも特別だったことに気がつく。


「……そうだ、ボクは」


 慌てて後ろを振り向く。

 そこには何もない真っ白な空間が広がっている。手を伸ばしても何も掴めず、足を出しても地面すらない。


 だけど、この先には。

 彼らがいる。

 ボクのことを信じて戦い続けている仲間がいる。

 そして、救えなかった彼女のことも。


「……アーニャ」


 ぼやけていた思考が、少しずつ晴れていく。

 アーニャを助けるために教会の地下迷宮に進み、仲間たちの助けもあって彼女と再会できたけど、……ボクは負けてしまった。


 そもそも勝負にすらならなかった。

 本気の彼女を倒すには、『十人委員会』のメンバー全員の力が必要になるほどだ。だけど、それは叶わない。ジンと快司君は先に現実に戻っているし、今やボクも同じ道を辿っている。


「……やっぱり、ダメだったのか」


 悔しさが込み上げてきて、唇を強く噛んだ。

 情けないと思った。

 不甲斐ないと思った。

 ボクは、たったひとりの女の子さえ助けられないのか。

 心の底から、誰よりも大切にしたい彼女さえも。

 救えないのか?


「……くっ、うぅ」


 何か手はないのか?

 もう手遅れなのはわかっている。それでも、彼女を助けられる方法は残っていないのか? このまま彼女だけをあの世界に残すなんて。そんなこと、あっていいわけがない!


「くそっ!」


 苛立ちのあまり、廊下の壁に拳を突き立てていた。

 何もできなかった自分が本当に惨めであった。


「……やっぱりボクには、誰かを救うことなんてできなかったんだ」


 小さな声で零れた本音。

 誰にも聞こえず、どこにも届かない、心の叫び。

 独りきりの廊下に、静寂となって消えていく。

 そう、思っていた。



「そうじゃねぇ。お前はあいつを救える。いや、お前じゃなきゃダメなんだよ」



 ボクは驚いて顔を上げた。

 とても聞き慣れた声だったから。その声に、今までどれだけ助けられたことか。


 昔から、そうだ。本当のピンチになったら、いつもボクを助けにきてくれる。そう、まるでヒーローのように。


「遅かったな、ユキ。待ちくたびれたぜ」


 ボクの視線の先には。

 銀色の狼男が、……ジンが満面の笑みで立っていた。この何もない真っ白な廊下で。

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[一言] まさかの友との再開
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