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第59話「子供の相手は嫌いだけど、ウチが遊んであげるよ。…御影優奈は邪悪に微笑む」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 ……炸裂銃の『青龍』か。

 ウチはあまり好きじゃないけど、優紀ユキはこの銃を結構気に入っている。単発式で、撃つたびにリロードが必要になるけど。この大口径の銃から発射させる炸裂弾は、手軽な割に高い威力を持っている。具体的に言えば、至近距離であたるとミンチなるくらいだ。


「ほい、っと」


 そんな炸裂銃を、アーニャちゃんの目の前で使った。

 引鉄を絞ると同時に放たれた銃弾は、彼女のすぐ傍で炸裂し、真っ赤な炎が包んでいく。その光景を、同じように爆風に巻き込まれながら見ていた。


 ウチの名前は、御影優奈。

 二年前に死んだ、優紀の姉だ。


「きゃっ!」


 アーニャちゃんは悲鳴を上げながら、後ろへと下がっていく。

 でも、彼女にダメージを与えられたわけではない。自動防御魔法の『王家を守る盾サン・グロリオーザ』で身を守っているから。


「ふぅん。やっぱり頑丈だね、その盾は」


「な、何が―」


「青龍の一発でも壊せないなんて。その盾を一撃で壊すためには、『魔弾』か、それと同じくらいの力が必要なんだね」


 ウチはアーニャちゃんが戸惑っているのをお構いなしに、話を続ける。


「キミを倒すのはウチの役目じゃない。だけど、舞台に役者がいなくなっちゃったからね。仕方ない、ウチが相手をしてあげるよ」


 にやっ、と意地悪そうな笑みを浮かべる。

 そんなウチを見て、アーニャちゃんは表情を険しくさせた。


「あなた、誰なの? ユキのお姉さんって言っていたけど、そんなことあるわけがない。だって―」


「だって?」


「……わ、私は世界の支配者ゲームマスター。だから知らないことなんて、ひとつも―」


「あ~、そんな感じ」


 どうやら、アーニャちゃんは状況を飲み込めていないらしい。

 ……はぁ、まったく。

 ……キミのように頭の悪い子供は嫌いだよ。


「ねぇ、アーニャちゃん。キミはこの世界の王様になって、全てのことを知っているつもりかもしれない。でもね、キミが知らないことなんていっぱいあるんだよ。例えば、……ウチら以外にも、現実世界の人間がいたりとかね」


 老紳士ハーメルンのことを思いだしながら言った。


「それにね、キミは考えることを間違っている。ウチの正体なんて本当はどうでもいいはずでしょ? キミは仲間を殺そうとしている。そんなキミを、ウチは邪魔しに来た。……ほら、話は単純さぁ」


 弾がなくなった炸裂銃の青龍を、ポイッと捨てる。

 そして、地面に転がっているヨルムンガンドを拾うけど、そのまま腰のホルスターにしまった。この銃は何というか、ウチの好みではない。


 切り裂かれたワイシャツの下には傷はひとつもない。この体は、一度死んでいるから、アーニャちゃんが亡霊というのも間違ってはいないかも。


「子供の相手は嫌いだけど、ウチが遊んであげるよ。……ユキが帰ってくる・・・・・・までね」


「ユキが、……帰ってくる?」


「あぁ、そうさ。あの子がこのまま引き下がると思っているのかい? 今も戦っている仲間をおいて、大好きなキミのことを救えないままで」


「っう」


 アーニャちゃんは辛そうな表情で唇を噛む。

 それを見て、やっぱりこの子は素直で優しい人なんだな、と改めて思った。


「……ユキが、戻ってくるわけがない。私はユキを拒絶した。助けに来てくれた手を、自分から振り払ったんだ。それなのに―」


「はぁ、キミの言っていることは無茶苦茶だねぇ」


 ウチは彼女の言葉を遮って、盛大に溜息をついた。

 もはや呆れ果てていた。優紀の将来の相手が、こんな子で大丈夫なのか。姉として心配になるほどだった。


「ねぇ、アーニャちゃん。キミの言い訳は聞き飽きたよ。毎度毎度、同じようなことを言って。その言い訳は誰に言っているの? ウチかい? ユキかい? 違うでしょう。自分自身に言い訳して、それで満足なのかい?」


「っ! い、言い訳なんて!」


「違うのかい? ウチはずっと、ユキの中からキミを見てきたけどさ。自分の情けない本心を隠すために言葉を繕っているだけでしょ。それが言い訳じゃなきゃ、なんなのさ?」


 あの子の神経を逆撫でるように言い放つ。


「……あ、あなたには関係ないでしょ!」


 反論できなくて、突然怒ったように叫び出す。

 あぁ、本当に子どもみたいだ。

 ガキは嫌いなんだよねぇ。会話が成立しないから。


「関係ないって、そんなことないよ」


「は!? 意味わかんない! なんであなたにそこまで言われなくちゃ―」


「だって、キミは優紀の奥さんになるんだろう? これから家族になる人に対して、関係ないってのは言い過ぎなんじゃないかな?」


「―え」


 アーニャちゃんがぽかんと口を開く。

 その問いは、彼女の頭を真っ白にさせて、何も考えられなくなるくらいには十分だった。


「は、はえぇぇぇっ!?」


 アーニャちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせると、あたふたと慌て始める。あ、結構可愛いかも。


「な、な、な、何を言っているの!?」


「え? 違うのかい?」


「違う! いや、違わないけど! 本当はそうなりたいけど? ……とにかく違うの」


 両手を振り回して、目に涙を浮かべながら叫ぶ。


「そうなのかい? ウチとしては、あの子に伴侶ができるのは喜ばしいことなんだけどね」


「え、ほんと?」


「うん。現実に戻ったらウチが助けてあげることはできないし。優紀の支えになってくれる人がいたらいいな、とは思っているよ」


「ふ、ふ~ん」


 興味のないふりをして、ちらちらとこっちを見てくる。

 前言撤回。

 やっぱり、この子は可愛いかも。


「えーと、その、お姉さん?」


 あ、呼び方が変わった。


「もし、私が現実に帰ったら、……ユキのことをくれるの?」


「えー、どうしようかな」


 予想以上の反応だ。

 面白いから、もっと焦らしてやろう。


「アーニャちゃんって、料理もできなければ家事もできないじゃない。そんな子を嫁にしてもなぁ」


「だ、大丈夫! 現実の私の家はお金持ちだから! 料理ができなくても、家事ができなくても、例え仕事ができなくても、……お金の力で何とかする!」


「うーん、でもなぁ」


「お願いです。この通り」


「いや、頭を下げられても」


「そこをなんとか」


 ウチの前でお願いするアーニャちゃん。頭を深く下げて、精一杯の誠意を示してくる。そんなに優紀のことが好きなら、素直に現実世界に帰ればいいのに。


「……うん、わかった。アーニャちゃんがウチのお願いを聞いてくれたらいいよ」


「本当ですか!?」


 ぱぁっ、と笑みを咲かせる。


「本当だよ。まずは、……頭を上げて真っ直ぐに立って」

「はい!」

「次に、両手を後ろに組んでみて」

「こうですか?」

「そうそう。じゃあ最後に、ぎゅっと目を閉じてくれるかな?」

「わかりました!」


 アーニャちゃんは言われるままに、目を閉じて、両手を後ろに組んで、無防備に立っている。

 あぁ、この子って。

 ……本当に愛すべき馬鹿だ。


「そ、それで、この後はどうすれば?」

「うーん、そうだね」


 ウチはそう答えながら、いっちに、いっちに、と準備運動を始める。


 何度か屈伸をして、関節を筋肉をほぐす。

 そして、最後に。

 右腕をぐるぐると回した。

 ウチは2、3歩ほど下がると、拳を強く握りしめた。

 膝を屈め、腰を落として、最大の力を溜めていく。そして、そのまま無防備に立っている彼女に向かって。


 ……力いっぱい殴りつけた。


「おらぁ! ボディが、ガラ空きだぜっ!」


「ぎゃふん!」


 ウチの渾身のボディブローは、防御魔法で守られたアーニャちゃんを吹き飛ばしていく。そのまま、どかん、と壁に当たって地面へと落ちた。防御魔法で守られているのでダメージはないが、その顔は土と埃で真っ黒だった。


「……うぅ、騙したのね」


「いやいや。さすがに騙されるほうが悪いって」


 ウチは呆れながらアーニャちゃんを見下ろす。

 ……本当にこの子で大丈夫かな?

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[一言] いやなんで騙されるのさw
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