第56話「仲間たちの苦戦」
ユキの失敗は2つあった。
ひとつは、土の剣ノームが遠距離専用の武器だと勘違いしたこと。砂塵の刃を集合させることで、近接攻撃にもなることまで予測できなかった。
そして、もうひとつは。『王の剣』の能力が同時に使えることを見抜けなかった。土の剣と氷の剣を同時に使われたからこそ、ユキは深手を負い、こうやって地面に倒れている。
「……う、うぅ」
ユキの瞳は死んでいない。
だが、体のほうは限界だった。土の剣で斬られた背中からは、まだ赤い血が滴っている。
「……ま、まだ。負けてない」
それでも、ユキは立ち上がろうとする。
右手に銃を握って、何とか足腰に力を入れようともがく。
しかし、起き上がることもできず、無様に地面へと倒れ込んだ。
「私の勝ちだね」
そんなユキに、アーニャが静かに告げた。
その表情には勝利の笑みはなく、苦しんでいるユキを見て辛そうに顔を歪める。
「ごめんね、ユキ。痛いよね、苦しいよね。……でも、すぐに終わるから我慢していて」
「……あ、あぁ」
もう、アーニャの名前さえ呼ぶことができない。
ユキは悔しさに身を焦がしながら、意識だけは飛ばさないように必死に耐えていた。
――◇――◇――◇――◇――◇――◇――
ユキとアーニャが戦っていた礼拝堂から、少し上層にある大広間では。ボスキャラだらけのモンスターハウスで戦う、ミクとコトリの姿があった。
「はぁ、はぁ。……ちょっと、キリがないんだけど」
「……疲れた」
ミクが肩で息をしながら呟くと、それに同調するようにコトリが溜息をつく。
半時前までは、一方的な戦況だった。
中型、大型のボスの集団など、彼女らにとって取るに足らない相手。人形使いであるミクは、大量に式神を召喚して前線を築き、召喚士であるコトリが超大型の召喚獣を呼び出して殲滅させる。ミクもコトリも高笑いをしながら、逃げ惑うボスモンスターたちを倒していった。
その状況が変わったのは、最後の一匹を倒した時だ。
キング・ゴブリンを殴り飛ばし、その巨体は壁に激突すると同時に破裂した。肉片が飛び散り、緑色の血が壁に染みをつくる。そのまま他のモンスター同様に、死体の一部として沈黙も守り続ける、……はずだったのに。
「ったく! 楽勝だと思ってたら、何なんだよコイツは!?」
「……私が知るわけがない」
ミクとコトリの視線の先にあるものは、無数の死骸でできた巨大なモンスターだった。無秩序に積み上げられた肉片に、数えきれないほどのモンスターの腕が生えている。顔はどこにあるのかわからないが、眼球だけは全身に散りばめられている。
「大百足か、百目小僧か? いつからこの世界は、和風ファンタジーの世界観になったんだよ」
「……余計なことを言っているなら、早くあれを倒すべき」
「んなこと、わかってるんだよ! でも、その倒す方法がわからないから困ってるんじゃねぇか!」
ミクは苛立ちながら言った。
この『死体の山』と呼ぶべきモンスターは、無数のボスモンスターの死体が集まってできている。動きは遅く、それ自体が攻撃してくることはないが、厄介なことに彼女たちの攻撃も効かない特性だ。ミクの拳も、コトリの召喚獣も。表面に死骸をまき散らすだけで、すぐに本体が再生してしまう。
「くそっ! 頑丈なのか、ナマッちょろいのか、わからねぇ奴だな!」
「……ミク。文句が多い。うるさいから黙ってて」
「あぁ!? この状況で黙ってろってか!? 即時再生の生ゴミが相手なだけでも面倒なのに、コイツときたらあんな攻撃を―」
「……言っているそばから、また来た」
「ちょっ、マジかよ!? もう勘弁してぇ!」
ミクが嘆きながら肩を落とす。
彼女の見ているほうには、大きく体を震わせる『死体の山』がいた。全身から生やして無数の手を揺らして、声なのかわからない音を響かせる。
そして、その無数の手がピタッと止まると、その手から新しいモンスターが這い出してきたのだ。様々なモンスターのパーツを組み合わせたような、モンスターもどき。彼らは死体の山から生まれて、ミクたちへと襲い掛かる。
終わりのない、怪物の楽園。
それがミクとコトリの戦っている敵だ。
「あぁ~、本当に面倒っ!」
「……同感」
「帰りたい! 家に帰ってシャワーを浴びたい。お風呂に入りたい!」
「……同意」
「ったく! こんな面倒なこと、さっさと投げ出したい! なんで、あたしがこんなことをしなくちゃいけないのよ~っ!」
頭をガシガシと掻いて、ミクは大きな声で喚く。
だが、その直後には。
ギラッ、と猛禽類のような目を輝かせた。
「決めた。コイツをぶっ潰したら温泉に行くぞ! のぼせるまで風呂に入って、サウナに入って、最後はコーヒー牛乳で乾杯だ!」
「……温泉は苦手」
「おいおい。温泉に入っていれば、おっぱいが大きくなることを知らないのか?」
「まじで!?」
「マジよ。ユキのおっぱいが大きいのは、こっそり温泉に入っていたからなんだぜ」
「……わたしのツルペタも、ちょっとは大きくなる?」
「もちろん! ぱふぱふだって簡単にできるくらいさ!」
ぐっ、とミクが親指を立てると、ぐぅっ、とコトリが親指を立てた。
「……じゃあ、さっさと終わらせよう」
「あぁ。最大火力でブチかますぜ!」
ミクが着物の裾から式紙を取り出し、コトリが召喚魔法の詠唱に入る。
「正真正銘、これが最後の人形魔法だ! 式神召喚・零式。『菊一文字』、『天叢雲剣』っ!」
「古代の竜王よ。この戦いを終わらせて、わたしのおっぱいを大きくさせて。召喚魔法『黄昏の龍』っ!」
無数のモンスターもどきを前に、ミクとコトリが最強の攻撃手段で迎え撃つー




