第51話「ずっと見てきたから」
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ダンッ、という銃声に、アーニャは慌てて上を見上げる。そこで目に映ったのは、爆炎から飛び出したユキが、こちらに銀色の銃を向けているところだった。
……まずい!
アーニャは心の中で焦った。
自動防御魔法の「『王家を守る盾』は、緊急時に発動するものなので、威力の高い攻撃を何度も受け止められない。ユキの銃でも4、5発くらいで壊れてしまう。そうなってしまえば、完全に無防備になる。
加えて、先ほどまでの攻撃で、既に『王家を守る盾』にヒビが入っている。もう、何発も止められないだろう。
「っ!」
この時のアーニャは迷っていた。
ユキの攻撃を避けるために、回避行動に専念するか。
それとも、彼女に向かって攻撃を仕掛けるか。
「……っ」
手に握った炎の剣が、一瞬だけ火の粉を噴き出す。
この炎の剣・サラマンダーの一撃が入れば、ユキだって無事ではいられない。盾が壊れる前に、灼熱の炎で焼き払えばいい。
そこまで考えて、アーニャは巨大な剣の柄を握りしめる。それと同時に、赤い刀身から真っ赤な炎が溢れ出た。……この一撃で終わりにする。
「炎の剣よ、焼き尽くせ!」
アーニャが叫び、頭上へと大きく剣を振りぬいた。
灼熱の炎が、再びユキの姿を覆い隠す。
だが、それでも彼女は怯まなかった。
狙いを定めて、確実にアーニャへと銃弾を撃ち込む。甲高い銃声が響き、『王家を守る盾』が軋んでいく。そして、ユキの姿が炎で見えなくなったと同時に、アーニャを守る盾が砕け散った。
「っう!」
その衝撃で、アーニャは思わず顔を背ける。
片手で顔を庇いながら、2歩、3歩と後ろへよろけた。
時間にすれば、わずか数秒の出来事。
その数秒が、アーニャの致命的な隙となった。
「……エリアルドライブ」
ユキの声が、かすかに聞こえてきた。
その時、アーニャがとった行動は考えたものではなく、反射的に行ったものだった。
ずっと彼女の戦いを見てきたからかもしれない。
彼女と一緒に住んで、彼女の癖などを見てきたからかもしれない。
彼女のことを、誰よりも理解したいと。そう思っていたからかもしれない。
……今、まさに。
……自分の後ろから、彼女が迫ってきている!
「風の剣、シルフ!」
瞬時に、自分の周囲に『王の剣』の魔法陣を展開。握っている火の剣を放して、別の剣を魔方陣から引き抜いた。……風の剣・シルフ。アーニャの武器のなかで最速を誇る、美しい日本刀だった。
「やあっ!」
風の剣を握りしめ、疾風のような速度で背後を切り払う。
まだ火の粉が残り、土煙が立ち込める場所を、振り向きざまに全力で薙ぎ払ったのだ。
そして、それが正しかったのだと、後になってから知ることになる。
「っ!」
息を飲む声と同時に、ガンッと金属がぶつかる重たい音がした。
アーニャが握る風の剣。
その刃の先には、銀色の銃で自分の身を守るユキの姿があった。思いがけない速度の迎撃に、逆に不意を打たれてしまった格好だった。
それでも、ユキの顔から余裕は消えない。
ちょっとだけ唇を緩めて、優しい笑みを浮かべている。
「へぇ、よく分かったね」
「……なにが?」
「ボクが後ろから攻めてくることだよ。完全な死角だったのに、どうしてわかったの?」
アーニャはちょっとだけ迷ってから、素直に答えた。
「……勘よ。あえて言えば、ずっとユキのことを見てきたから。ユキだったら、どういうときに攻めるのか。そんなことを考えてたら、体が勝手に動いていた」
「ははっ、それは凄いね」
ユキは手にした銀色の銃で、風の剣を押し返す。
負けじとアーニャも、剣を握る手に力を込める。ちょっとでも気を抜いたら、剣を弾かれてしまいそうだった
ギギッと刃と鋼鉄が擦れる音だけが、アーニャとユキの間で行きかう。
「……この日本刀は、さっきの火の剣とは違うんだね」
ユキが静かな声で問いかける。
「うん。これは風の剣・シルフ。攻撃速度が売りの、世界で最も疾い太刀」
「ふぅん。火の剣を消して、この風の剣を出したってことか。ということは『王の剣』の能力は同時には使えないのかな?」
「……さぁ。それはどうだろうね?」
肝心なところを、アーニャはぼかして答える。
「もしかしたら、だた同時に使っていないだけかもよ」
「ははっ。それだったら、ちょっと辛いね。あの威力の剣を二本同時に使われたら、逃げる場所もないよ」
ユキはそう答えながら、空いている左手をぶらんを下げた。
その行動を、アーニャは見逃さない。
「じゃあ、ここで問題。次にボクはどういった行動に出るでしょうか?」
ギギッと風の剣を押し返しながら、ユキは訊ねた。
アーニャは視線を彼女の左手に向けながら、淡々と答える。
「ユキの次の行動は、……左手に隠した銃で奇襲をかけてくるつもりでしょ」
今度は考えた末に、正解を導き出すー




