第50話「アーニャと炎の剣(サラマンダー)」
ダンッと銃声が響く。
放たれた銃弾は、真っ直ぐアーニャへと向かっていく。
それと同時に、彼女は自分を守るための魔法を唱えていた。
「『王家を守る盾』っ!」
緊急時に展開する自動防御魔法。
それを破るためには、ヨルムンガンドでも4発を撃ち込まないといけないのは、先ほど確認している。
だから、躊躇わず引鉄を引く。
鉛玉が魔法陣と衝突して、わずかに亀裂が生じる。あと2発でアーニャの防御を破れる、と思ったが、さすがにアーニャも黙ってはいない。
手にした炎の剣を大きく掲げて、こちらへと振り下ろしたのだ。
「炎の剣、サラマンダー! 目の前の敵を焼き尽くせ!」
瞬間、燃え盛る火炎がほとばしった。
ドラゴンの息吹、とでも形容しようか。アーニャの手にした巨大な剣から、真っ赤な炎が放たれたのだ。その炎の威力は凄まじく、礼拝堂にある木製のイスを一瞬で炭に変えるほどだった。
「くっ!」
ボクは追撃を諦めて、迫ってくる炎から身を守ることにした。
真横に飛び出して、灼熱の炎を何とか掻い潜る。
わずかに髪が焦げた匂いがした。
「……直撃は、マズいな」
体を起こしながら、無駄ない動きでヨルムンガンドのリロードを行う。
弾が残っているマガジンを捨てて、腰のベルトから新しいマガジンを装填させた。
あの炎の剣の威力は尋常ではない。
耐久力など防御面に優れていない自分では、あの一撃がそのまま死に直結するだろう。……さすがはゲームマスターといったところか。
「だけど、ボクも負けるわけにはいかない」
銀色の銃を腰に構えて、軽く腰を屈める。
そして、思いっきり地面を蹴りだした。アーニャの視界から消えるように、猛スピードで駆けていく。当たったら終わりなら、当たらなければいい。得意分野であるスピードを生かして、彼女の背後へと回り込もうとする。
「っ! 速い!」
アーニャも必死に視線で追ってきて、ボクにめがけて炎の剣を薙いでいく。その度に灼熱の炎が燃え上がり、こちらへと襲ってくる。
「くっ!」
その炎を紙一重でかわしていく。
ちりちりと肌が焼けて、着ているコートの裾が焦げていく。
当たったら終わりだ。
それでもボクは、隙を見てはヨルムンガンドで彼女を狙い撃つ。ダンッと鋭い銃声が響くが、自動防御魔法によって阻まれてしまう。何とか決定的な一撃を入れたいが、今の状況では彼女に近づくこともできない。
「……このままだと防戦一方だ」
炎を掻い潜りながら、ボクは呟く。
やっぱり、自分の身を守ってばっかりではいけない。
どこかで身を斬る覚悟をしないと。
「……この炎は脅威だけど、逆に攻撃範囲が広すぎる。爆炎でアーニャ自身の視界も遮ってしまうんだ。……そこが隙になる」
回避に専念しつつ冷静に状況を観察する。
アーニャが大振りになればなるほど、その時の隙が大きくなる。
だったら―
「アーニャっ!」
ボクは立ち止まり、彼女に銃口を向ける。
そして、ありったけの銃弾を放っていく。ダンダンダンッと絶え間ない銃声が響き渡った。
「っ!」
その攻撃に、アーニャはいち早く反応する。
自動防御魔法である『王家を守る盾』では、この数の銃弾は防げない。そのため、彼女も攻勢に出る必要があった。
「そんな攻撃なんて―」
アーニャが炎の剣を振りかざす。
「意味がないんだってば!」
そのまま力一杯に、その巨大な剣を振り下ろした。
今までとは比較にならないほどの爆炎が、この礼拝堂を焼き払っていく。当然のようにボク自身も、その炎に飲み込まれていった。
「っ―」
その声は火炎の爆音によってかき消された。
目の前が真っ赤になり、体中が焼かれるように熱くなっていく。
息もできない。
呼吸をしてしまえば、肺から焼かれてしまうだろう。
ボクは息を止めて、目を閉じた。
そして、心のなかで1つのスキルを発動させた。
……エリアルドライブ。
「っう!」
地面を蹴り、空を蹴る。
燃える火炎と逆走するように、ボクは炎の中心へと突っ込んでいく。炎を踏みしめて、炎の乱流を紙一重で躱して、天井へと突き進む。
やがて、獄炎を振り切って。
無防備になっているアーニャを眼下に捉えた。
「……見つけた」
ニヤッと笑いながら、再びヨルムンガンドに新しい弾倉を装填する。
そして、自由落下を体に感じながら、真下にいるアーニャへと銃口を向けた。
完全に不意をつくことができた。
これは、やれる!
ボクは確信を持って、引鉄に指をかけたー




