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第45話「シャボン玉がひとつ」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇――


 淡い色のシャボン玉がひとつ。

 胸の中で生まれては、ぱんっと小さな音を立てて弾けていく。


 また、ひとつ。

 また、ひとつ。


 心のなかで生まれるシャボン玉を、私は必死になって破裂させていく。その度に、楽しかった思い出が、優しかった言葉が、中から溢れてきた。


『アーニャ。今日から一緒に住むんだよね。これからよろしくね』


『おい、アーニャ。あたしが買っておいたシュークリーム、どこにいったのか知らない? ……って、なんでお前が食っているんだよ!』


『アーニャ殿。カーニバルの準備は問題ないぞ。アーニャ殿とユキの晴れ舞台、我が絶対に成功させてみせる!』


『アーニャさん、お願いがあるのですが。今度、ユキりんの3サイズをこっそり測ってきてくれませんか? ……え、ダメ!? どうしてですか!?』


『ねぇねぇ、アーニャ―』


『おい、アーニャ―』


 ぱんっ。

 ぱんっ。

 シャボン玉が弾けては、幸せな思い出が蘇ってくる。


「……もう、やめて」


 アーニャは自分の膝を強く抱きしめる。

 楽しいことなんて思い出したくなかった。

 幸せだったなんて思いたくなかった。それだけで、この世に未練が残ってしまう。もう一度、あの時のように楽しく笑っていたい。一緒の時間を過ごしたい。


 ……あの人たちと、会いたい。


「なんでよ。もう諦めたじゃない。それなのに、なんで。……なんで、楽しかった時のことを思い出しているのよ」


 ふわり、ふわり。

 シャボン玉が弾けると、心が温かくなってしまう。

 もう二度と手にできない時間だからこそ、何でもないようなことがとても大切に思えてしまう。

 ……そんな時間を全部ぶち壊しにしたのは、自分だってわかっているのに。


「皆。お願いだから、ここまで来ないで」


 彼らの顔を見てしまったら、今度こそ決心が揺らいでしまうだろう。楽しい日々が、また始まるかもしれない。幸せだった毎日がやってくるかもしれない。

 ……そんな、在りもしない幻想を見てしまう。


「嫌だ。現実なんかに帰りたくない。だってあそこは暗いもの。何もやっても上手くいかないし、誰も振り向いてくれない。……お父さんや、お母さんだって」


 心が痛い。

 泣いてしまいそうなほど。

 悲鳴を上げてしまいそうなほど。

 そんな辛い感情から、逃げて、逃げて、逃げ続けて。

 そして最後には、胸のなかで生まれたシャボン玉を見つけてしまう。


 ぱんっ。

 ぱんっ。


 小さな音と一緒に溢れてくる思い出は、心の傷を癒すように温かい。


 あぁ、本当に。

 楽しかった思い出というのは、……残酷だ。


「知りたくなかった。こんなに辛い気持ちになるんだったら、楽しい時間も、幸せな思い出も、全部いらないよ」


 大好きな人。

 大切な人たち。

 好きだといってもらいたくて、仲間だといってほしくて。

 ……皆と一緒にいたかった。


「自分が本当に嫌い。あの人たちに何をしたのか、わかっているの? 嘘をついて、騙して、都合が悪くなったら逃げ出して。そんな最低な人間なのに、……どうして?」


 どうして、彼らはここに向かっているのだろう。

 なんで、必死になって戦っているんだろう。


「私のことなんて、放っておいていいのに。なんで? どうして? そこまで必死になって私のことを助けようとするの!?」


 誰もいない礼拝堂に、アーニャの声が響く。

 その悲鳴のような声は、誰にも届くことなく、沈黙の闇に消えていく。

 ……そのはずだった。


「それはね、ボクたちは君のことが大好きだからだよ」


 誰もいなかった場所に、大好きな少女が立っていた。

 長い黒髪を揺らしながらー

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