第44話「十人委員会の『No.6』と『No.7』は無数のモンスターに戦いを挑む」
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ボクの目の前では、壮絶な戦いが繰り広げられている。
人形使いであるミクが拳だけで敵を蹴散らし、召喚士のコトリは岩石でできた巨人を召喚して戦っている。最初こそ、ボスモンスターだらけの部屋ということで驚いてしまったが、そんなに慌てなくてもよかったのだと悟る。
「あー。ミクもコトリも強いなぁ」
この部屋の入り口で、彼女たちを見守っていたボクは、半ば呆れながら呟く。
彼女たちの強さもそうだが、何より立ち回りがいい。
無暗に突撃しているようにも見えるけど、ちゃんと敵に囲まれないように戦っている。多数相手の戦闘経験が豊富だから、自然とこんな立ち回りができるのだろう。他のメンバーだった、ここまで上手くいかないかもしれない。
「おらおら、どうした!」
「……やっておしまい」
圧倒的な敵の数を前に、わずかな反撃を許さない。
もう少ししたら向こう側の壁、つまり、この部屋の出口が見えてきそうだった。
「よし、ユキ! 突破口は開いてやったぞ!」
「……早く行くこと」
彼女たちの声に導かれて、ボクは駆け出した。
ほとんどのボスモンスターはミクとコトリの連携攻撃によって封殺されている。だが、何体かのモンスターはその攻撃から逃げ出していて、ボクの走る先をウロウロとしている。
ギャギャッ。
彼らはボクのことに気づくと、その瞳に再び戦意を灯らせた。
ボスモンスターとしての矜持なのだろうか。彼らは戦うことをやめない。ボクは風のように駆けながら、腰の銃に手を伸ばす。
魔銃・ヨルムンガンド。
いくつもの激戦を潜り抜けてきた愛銃。そのずっしりとした重みを感じながら、両手でしっかりと握る。
「どいて」
ボクは銃口を下に向けながらも、いつでも撃てるように構えながら走る。
幸い、はぐれたボスモンスターの数は少ない。
彼らの攻撃を掻い潜りながら、狙いを膝に定める。
そして、引鉄を引いた。
ギャッ!
ヨルムンガンドの銃口から放たれた銃弾が、モンスターの膝を貫通していく。バランスを崩して、その場に倒れる。完全に倒したわけじゃないけど、足止めをするくらいならこれくらいで十分だ。
ボクは警戒をしながらも、全速力で彼女たちの元へと向かう。
「ありがとう。ミク、コトリ」
「別にいいって。にしても、本当にすげー数だな」
「……終わりが見えない」
部屋の隅に追いやったボスモンスター達だが、その数はまだまだ多い。彼らを倒し切るのは、かなりの時間が必要だろう。
「仕方ねぇ。こちらはあたしが殺るから、ユキとコトリは先に行きな」
コキコキ、とミクが首を鳴らしながら言う。
「どうしたって、誰かが残るしかないだろう。だったら人形使いである、あたしが残るよ」
「……そうね。誰かが残らないとね」
そう言って、コトリは岩の巨人に乗ったまま下りようとはしない。ミクの隣に立って、怯えているボスモンスターたちを一瞥している。
「んあ? コトリ、何をやっているんだよ。お前は先に行けよ」
「……嫌よ。お断りするわ」
「は? お前、何を言って―」
怪訝な顔をするミクに、コトリは淡々と言った。
「……あなたと一緒に戦ってあげる。そう言っているのよ」
「はぁ? あんな奴ら、あたし一人で十分だし」
「……この部屋の敵が、あいつらだけとは限らない。上の階層に比べて、ここは明らかに手薄。……きっと何かある」
コトリは油断のない目つきで周囲を警戒している。
「で、でもさ。ユキを一人するなんて―」
「ボクは大丈夫だよ」
反射的に、ボクは口を開いていた。
「この先に何があっても、絶対にアーニャのところまでたどり着いてみせるよ」
「……ユキ」
「それにね。アーニャがここまで守りを固めているのも、きっと理由があるんだよ」
ボクは静かにアーニャのことを想う。
もし、自惚れでないとしたら。きっと彼女は待っているんだと思う。ボクが一人でアーニャの元まで来ることを。
「だからね。ここから先は一人で行かせて。ちゃんとアーニャを説得してみせるから」
「……ユキがそこまで言うなら」
ミクは頭を掻きながら、小さく溜息をつく。
「説得なんて穏便にいくとは思えないんだけどね」
「そうなったら、ボクが力づくでも連れ戻すよ」
「ははっ、なるほど。そいつは頼もしいな。……だったら―」
ギロリ、とミクがモンスターの大群へと鋭い視線を向ける。
「とっととこいつらを始末して、ユキの加勢に行かなくちゃぁな!」
その一言に、モンスターたちは慄く。
ミクは一歩を踏み出して、肩に羽織っている着物の懐に手を入れた。そして、そこある紙片の束を取り出した。その紙は長方形をしていて、極東を彷彿とさせる文字が刻まれている。
「ははっ、久々の人形魔法だぜ! 気合を入れないとな!」
人形魔法。
それは人形使いであるミクだけが使える固有魔法。また大軍相手では絶大な力を発揮する召喚魔法でもある。
「いくぜ。……式神召喚、『武士・佰々式』っ!」
ミクの極短文の詠唱と共に、数えきれないほどの紙片が、……式紙がばら撒かれる。
人形魔法はアイテム消費型の魔法であり、その多くはこの世界では手に入らないものばかりだ。だが、この最終決戦において、ミクが出し惜しみなどするわけがない。
盛大にばら撒かれた式紙からわずかな煙が立ち、その場所に人影を出現させる。
見た目は、和装の侍。
武者甲冑を身に着けて、腰には太刀を携えている。
それが、およそ百体。
腕を組んで笑っているミクを筆頭に、ずらりと一列に並んでいた。
「はーはっは! それじゃあ、雑魚どもを掃除していこうか!」
高笑いを上げるミクに、コトリも同調する。
「……賛成。面倒は嫌い。すぐに終わらせる」
部屋の隅で怯えているボスモンスターたち向かって、彼女たちは歩き出す。
その小さな歩みが、死が近づいてくる一歩だと感じているのだろう。悲鳴や絶望といった声が、辺りに響き渡る。
「……あたしの名前は御櫛笥青葉。十人委員会の『No.6』、一騎当千の人形使いだ」
「……わたしの名前は小鳥遊ゆみ子。十人委員会の『No.7』、全てを薙ぎ払う大召喚士」
彼女たちが歩みを止める。
ごくり、とモンスターたちが固唾を飲んだ。
「……今から」
「……お前たちを」
だが、次の瞬間には。
彼らは阿鼻叫喚の渦に飲まれることになる。
「「……駆逐するっ!」」
ミクの召喚した侍が飛び出して、コトリの古代の巨人が拳を振り上げる。
部屋の隅で固まるモンスターたちは何とか逃げようとするが、それも無駄な抵抗のようだった。
しばらく彼女たちの奮闘を見ていたボクは、なんだか居たたまれない気持ちになって、そっと部屋の先へと進むことにしたー




