第35話「地下へと続く階段の、その先は」
螺旋階段を抜けた先は、広いトンネルに出た。
石レンガで作られた薄暗い道。進む先もぼんやりでしか見えない。ボクたちは注意をしながら、それでも足早にトンネルの道を進む。
「そろそろ、アーニャのところに着くかな?」
「どうだろう。あいつのことだし、もうちょっと何か仕掛けがあるような気もするけど」
ボクの問いに、先頭に立っているミクが答える。
「それにしても、相変わらず暗い道だな。誰か明かりになるようなものをもってない?」
そのミクが、ボクらの方を振り返りながら言った。
接近戦ができる彼女が、先頭に立つことを買って出てくれたが、やはり薄暗い道に苦労しているようだった。
「……ごめん。松明かランタンでも持ってくればよかったね」
「火種になるようなものもない」
「そうですわね」
「……」
ボクが申し訳なさそうに答えると、コトリや有栖。そして碓氷君も同調するように首を横に振った。
そんなメンバーを見て、ミクががっかりしたように肩を落とす。
「そっか。……っていうか、碓氷。お前、魔法使いなんだから、灯りを照らす魔法とか使えないのか?」
「……」
ミクの問いに、碓氷君は何も答えない。
そういえば盲点だった。碓氷君の職業は高位魔術師。いつも氷属性の攻撃魔法ばっかり使っているので、その他にどんな魔法が使えるのか、ボクもよく知らなかった。
「ねぇ、碓氷君。別にダンジョンを明るくさせる魔法じゃなくてもいい。せめて、もうちょっと視界が良くなるようなものはないの?」
「……」
碓氷君は何も言わない。
だがその顔は、少し考えているように見えた。ほんの些細な違いだが、眉間に皺が寄っているようにも、……見えるような見えないような。
「ふむふむ、なるほどですわ」
そんな碓氷君の顔色を見て、有栖が通訳をする。
「涼太は攻撃魔法に特化させたスタイルなので、他の補助魔法は得意ではないようです。灯りの魔法も使えないみたいですわ」
「……」
「でも、その代わりに。道を照らすようなことはできるそうですわ」
有栖がそう言うと、こくりと碓氷君は頷いた。
そして、彼はメンバー先頭に立つと、その手にした大きな魔導杖を構えた。
「……」
ボクの耳には聞こえないような、小さな声で魔法の詠唱に入る。
すると、彼の足元に青白い魔法陣が展開される。魔方陣はその魔法の属性によって色が変わる。青白いということは、これは氷魔法だ。
「……」
その魔法陣がわずかに輝き出すと、碓氷君は手にした杖を進む先へと掲げる。その先端には、花の蕾のようなものがいくつもついている。
そして、その蕾がゆっくりと花が開いていくと、魔法陣と同じように青白く輝きだした。ガラス細工のような氷華だ。暗闇を照らすには少し足りないけど、先ほどよりもはっきりと道がわかる。
「おぉ~」
「やるじゃない、碓氷」
ボクたちが驚きの声を上げても、彼は何も言わなかった。ただ黙って、涼しそうな顔をしている。
そして、なぜか。隣に立っている有栖が得意げな顔をしている。
「ふふん、どんなものです。この程度のこと朝飯前ですわ」
「なんで、有栖が偉そうなの?」
「それは涼太が、私の涼太だからですわ。涼太の手柄は私の手柄なのです」
えっへん、と幼女の姿をした有栖が胸を張る。
その様子を見ていると、なんだか怒る気もなくなっていく。
「ま、いいからさ。先に進もう」
ミクがそう言って促すと、メンバーの皆が有栖を置いていくように速足で歩き出す。なぜか、先頭の碓氷君が一番速く歩いている気がする。
「あっ、ちょっと。待ってほしいのですわ!」
置いていかれた有栖は、慌てるように走り出す。
だが、その瞬間。
足を躓かせて、べちゃりと顔から地面に転んだ。
「あ」
「コケた」
ボクたちは足を止めて振り返る。
すると、有栖はゆっくり立ち上がって、何も言わずこちらへ歩いてくる。なぜが顔を下に向けたままボクたちの前を通り過ぎて、先頭の碓氷君の前で立ち止まる。
そして、その碓氷君のことを見上げながら、小さな両手を真っ直ぐに伸ばした。
「……ぐずっ。……りょーた、ころんじゃった。……ひっく、ひっく。……でもね、なくの、がまんするから、……だっこして」
その声は、明らかに涙声だった。
入り組んだトンネルの道を抜けて、ボクたちは大きな扉の前にたどり着いた。まるで宮殿の玄関にあるような、とても重厚な造りだった。
「どうやら、ここが進み場所みたいですわね」
碓氷君に抱きついたままの有栖が呟く。
「さっさと進もう。これ以上、足止めを食らいたくないし」
「うん、そうだね」
ボクはミクの言葉に頷くと、その扉に手を当てた。
扉は思っていたより軽く、あっさりと開いた。
そして、その先にある風景に、ボクらは言葉を失った。
「……え?」
「……はぁ!?」
「……こ、これは、どういうことですか?」
そこに広がっているのは、異国情緒の溢れる街並みだった。大きな広場に、背の高い時計塔。奥には宮殿も見える。細い運河が街中に張り巡らされているのか、いくつもの小さな橋が掛かっていた。
そして、何より。
広場には、たくさんの人たちが行き交っていた。
「……ここは、ヴィクトリアだ」
誰かが呟いた。
そう、まさしく。そこに広がっている光景は、ボクたちが暮らしてきた海洋国家ヴィクトリアだったー




